11.どうやらお別れの時は近いようです、その時私は……?

「お邪魔いたしておりますイーリス様、わざわざ私のような者のためにご足労いただきまして誠にありがとうございます」


 玄関に着くと、私の姿に気がついたメリーヌタが折り目正しくカーテシーを行った。

 相変わらず綺麗な所作だ。おそらく彼女も元はそれなりの名家出身なのだと思う。

 それがどうしてメイド家業に身をやつしているのかは、まあ色々と事情があったのだろう。


「ごきげんようメリーヌタ、会えるのを楽しみにしていたわ。それから合う度に毎回言っていると思うけど、私と貴方の仲じゃない。だからそんな風にかしこまらなくてもいいのよ? 大切な客人として、貴方とは対等に接したいの」


「いいえイーリス様、私にはもったいないお言葉でございます。本来ならこのように貴族様と交誼こうぎを結ばせていただくことすら私の身分ではありえないことなのですから」


「もう、頑固ね。なら、今はそれで構わないわ。それで今日は、バイドル殿下のどういった恥態を教えてくれるのかしら?」


 軽い気持ちで尋ねるとメリーヌタは首を左右に振り、佇まいを正してから言った。


「――私がバイドル王子の教育係を務めてから、今日で一ヶ月と一週間ほどが経ちました。そこで明日、私がこれまで行ってきた教育も修了課程を迎えることとなりました。つきましてはその場で行われる卒業試験にイーリス様もご同席をお願いしたくあるのですが、よろしいでしょうか?」


「えっ……?」


 突然もたらさられた一報に内心動揺が走る。


 明日でバイドル殿下の教育が終わるということは、もうメリーヌタが私のところへ報告に訪れる必要もなくなるということ。

 そしてそれは畢竟ひっきょう彼女との別れも意味する。


 バイドル殿下の対処も気になるが、それ以上に今の私にとってはメリーヌタのことの方がはるかに心残りだった。


 できれば彼女とはずっと一緒にいたい。

 だけど同時に、そんな子供みたいなワガママが叶わないことも頭では理解している。


「……ええ、もちろん。この目でバイドル殿下の結末を見届けるわ」


「それではお待ちしておりますイーリス様。明日はきっとになることでしょう」 


 だから胸に詰まったこのモヤモヤとした複雑な気持ちを言葉には出さず、鷹揚に頷いてみせた。

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