06.バイドルSide〜嵐の前の静けさ〜

 俺はこの国の第一王子、つまりゆくゆくは王になる存在だ。

 よって、女遊びをする上で権力は申し分ない。

 金も腐るほどあるし、普段はわずらわしいからつけていない従者だってたくさん用意できる。


 そしてなにより俺はかっこいい。

 巷ではイケメン王子として名を馳せている。


 だから女は吐いて捨ててもまだ余るほどに俺に群がってくるし、そいつらへ側室候補にでもしてやると言えば簡単に股を開く。


 今だって、ナターシャを抱いたばかりだ。

 もちろん避妊などしない。

 俺が気持ちよくなるのを我慢してまで、なんでたかが男爵令嬢の身を案じなければならない?


 どうせ何回か抱いたら証拠隠滅もかねて別の男にお下がりとしてくれてやるのだから、それまで好き勝手にさせてもらうさ。


 ただ万が一妊娠でもしようものなら、当然その先の結末は決まっているがな。

 かしこい俺は隣国のカザニスタフとかいう無能王女みたいに馬鹿なヘマはしない。


「ああバイドル様今回もとても良かったですわ。それで、わたくしの具合はどうでしたか?」


「おいおい聞くまでもないだろ? こういうのはあえて口にしないもんなんだよ」


「うふふ、そうですわね。あれだけの量をお出しになられたのですから、さぞ極上の想いをされたことでしょう」


 ベットの上で裸体をさらけ出し、とろけきった表情で俺を見るナターシャ。

 こいつを抱くのは三回目だが、それだけでこの俺が自分の虜になっていると思い込んでいる馬鹿な女だ。


 もちろんこんな貧相な体に本気になるわけないがなく当然ただの火遊びなのだが、まあ束の間の夢を見させてやるのも悪くない。


 側室候補を飛ばして空いた婚約者の席に自分が選ばれたと錯覚している女をヤリ捨て、いざ現実を知った時に見せてくれるであろう絶望顔が現在の楽しみの一つだからだ。


 ――そうそう婚約者といえばイーリス、あいつは本当にいい面の女だった。


 外見だけなら今まで抱いたどの女よりも優れており、この俺ですらその美貌に舌を巻いたほどであった。

 だから子に甘い父上に頼み込んで強引に婚約を取り付けてもらったのだ。


 しかし面倒なことにあいつは貞操観念が高く、いくら行為に誘っても決して婚前交渉はしないと言って聞かなかった。


 無理やり襲おうにも、さすがに侯爵の肩書きが邪魔をしておいそれと手出しできず、形式張った結婚の儀を行うにはイーリスが成人を迎えるまで最低でもあと五年待つ必要があった。


 その間、届きそうで届かない美味そうな処女を目の前にして我慢を強いられることは、どうにも限界だった。

 だからイーリスに浮気現場を目撃された際に、つい勢いで婚約破棄を告げたのだ。


 ……なんだが、今更になって惜しいことをしたと思うようになってきた。


 俺はあいつの見た目と処女性のみにしか価値を感じていないから婚約破棄自体は後悔していないが、だからといって後から他の男に取られるのは腹立たしい。


 お下がりを与えるのは構わんが自分がお下がりになり果てるのはプライドが許さないからな。


 ――なら、よりを戻すか?


 その選択肢も有りか。ただし俺の方から復縁を申し込むのは絶対にお断りだがな。

 これまで面と向かって確認したことはないが、どうせあいつも卑しい女だ、俺みたいなモテ男の王子を嫌いなはずがない。


 むしろ、そのうち向こうから泣いて縋りついてくるに違いないのだから、その時が訪れるまでは他の女を抱きながらただ待っていればいい。


 ――なんてことを考えていると、コンコンコンと自室の扉が叩かれた。

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