第74話 お久しぶりの男

 エムズ王国のみんなと再会を喜びあい、偉そうな奴らが壊滅した国をあげるということにして、俺はエヌール公国へ旅立つ。


『ま、執政経験がある者がおらん時点で、国を維持はできまいよ。エルトー商業国に売り飛ばすでいいじゃろうな』


「そうなんだ……!?」


『政治は難しいぞ。あとで商業国に連絡しておくからのう。ニトリア』


『はいはい』


 ニトリアがどこからか白い蛇を呼び出して、何か命令を与えて放した。


「何したの?」


『十頭蛇の十番目の子が商業国にいますからね。その子を中継にして、エムズ王国を管理してもらうんですよ』


「へえー! っていうか、いつの間に!」


 十頭蛇、どこにでもいるなあ。

 ミスティが、ニトリアから何か詳しいことを聞いている。


 十人目は商業国の議会に入り込み……というか普通に向こうに雇われて、秘書兼護衛みたいな事をやってるらしい。


『十頭蛇は入った順番に番号が振られてますからね。これ、強さはあまり関係なくって』


「へえー」


『まあ一番強いのは一番目のリーダーなんですけど』


「だよねー」


 ウーナギはでたらめだもんな。

 でも、今の俺なら多分いい勝負ができる。

 今度、魔王を倒したらリベンジだ!


『一番弱いのはわたくしです』


「直接戦えないもんね」


 もうミスティはニトリアへの理解度がかなり深い。

 君たち実は仲良しになってない?


 ずっと一緒に旅してるし、女子部屋だもんな。


『戦闘力に特化しとるのは、六番目のヒュージじゃろうな。だが、リーダーに次ぐ戦闘力なら四番目じゃないか?』


『そうですかねえ? リーダー、あまり強さを重視しませんから』


『リーダー一人いれば片付くからのう』


 ははははは、と笑い合うエグゾシーとニトリア。

 そう言えばいたなあ、ヒュージ!


 懐かしいなーと思っていたら。

 まさか、エヌール公国で再会するとは。


「うわあっ、お、お前!!」


「あっ、なんか見たことある人!」


 エヌール公国の外側に大規模なキャンプができていて、俺たちが近づいたらその男が出てきたのだった。

 革のコートを着込んだそいつの顔は、明らかに見たことがあった。


「前より背が伸びてるが、あの剣を作り出すガキだな!? 何しに来やがった!」


「あっ! あんたヒュージか! 久しぶり!」


「馴れ馴れしいな!?」


 わいわい騒いでいたら、俺の頭の上からエグゾシーがヒョイッと覗き込んだ。


『ヒュージ、これはリーダー直接の指示でな。こやつをフォローして、やって来る魔王と戦えという話になっとるのじゃ』


「エグゾシーさん!? マジっすか……!!」


 あっ、ヒュージが敬語になった。

 リスペクトしてるらしい。


「こいつ、やるんですか? まあ、俺も一回撤退してますけど……」


「ウーサー強くなってるよ! 前の百倍くらい!」


「なんだあ、この女……! あっ! この間の雇い主の狙いだったやつか!」


「ウーサーよりも、あたしの事を覚えていない!?」


 なんでショック受けてるんだミスティ。


『いやですねえヒュージさん。仕事の内容はある程度覚えてないと、後々痛い目を見ますよ』


「ニトリアまでいやがるのか! お前、なんてメンツを連れて旅してるんだ」


 ヒュージが呆れた。

 エグゾシーとニトリアと一緒にいたことは、彼にとって驚くべきことだったらしい。


 そんな感じで和気あいあいと会話していたのだが、


「和気あいあいじゃねえよ! っていうかお前、図太いなあ!?」


「いや、その、色々あったんで強くなったかもしれない」


「本当に色々あったんだな……。でかくなったのは体だけじゃないってことか。ま、同じ孤児院出身のよしみだ。リーダーの命令もあるし、手を貸してやる」


 そこへ、声を掛けてくるやつがいた。

 キャンプから出てきた、偉そうな太っちょのおっさんだ。


「お、おいヒュージ! その者たちはなんだ!? 敵か!?」


「ああ公王さん。こいつらは俺の同僚ですよ。つまり仲間です」


 偉そうなおっさんはおれを聞いて、不安そうだった表情を激変させた。

 すっごい笑顔にパアーっと変わる。


「ほ、ほ、本当か!! 余の国を取り戻す仲間が来てくれたのか! ありがたい! いやあ、ありがたいーっ!! 我が国を救って、次は友邦であるエムス王国を……」


 エムスだっけ?

 エムズじゃなかったっけ……?


『エムズ王国は滅びたぞい』


「わあっ! 骨の蛇が喋った! ……えっ!? い、今なんて言ったの」


 おっさんこと、公王が目を見開いている。

 エグゾシーは事務的に、さらりとダメ押しする。


『エムズ王国はここにやってきたみたいに魔将が来て、さっくり滅ぼされたぞい。すぐにエルトー商業国に吸収されるじゃろ』


「えっ、ええーっ!!」


 あまりの衝撃に飛び跳ね、着地後もガクガク震える公王。

 すっごいリアクションだな!


「公王さん、あんためちゃくちゃ運がいいよ。十頭蛇三人に加えて、リーダーが認めた実力者に運命を操るスキル能力者が揃ったんだからな」


「う、うむ! うむ、そうなんだろうな! よ、余は運がいいぞ!」


 コクコクと頷く公王なのだった。

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