第47話 両替、開眼

「じゃあ、こっち!」


 ミスティが適当に一人を指さした。


「はあ? あんた適当に決めたでしょー!?」


「いや、いいんだ。ミスティが選んだなら間違いない!」


 俺は迷わず、逃げる戦神信者を追いかけ始めた。


「あ、ちょっとあんた! んもー!! なんであの女の言うこと信じるわけよ!」


 王女様が不満げに後を追いかけてくる。

 ゴウがすぐ、横に並んだ。

 ミスティもホイホイついてきて、アンナも一緒になる。


「ウーサーはいっつもあたしのこと信じてくれるもんねー」


 小走りで走ってるから、割と余裕がある俺たち。

 こうやってお喋りもできる。


「そりゃもう。俺はいつもミスティの味方だし」


「うっふっふ、嬉しいこと言ってくれるじゃん!」


 うわー、走りながら脇腹突くのやめて欲しい。


 追いかけられている信者は、チラチラ後ろを振り返りながら青くなっている。


「な、なんで俺だけ追いかけてくるんだよー!! ちょっと洒落にならねえよ! おい、みんな! 助けてくれーっ!!」


 何か叫んでる。

 これは、彼を助けるために過激派が出てくるかな……?


 淡い期待を抱いていたら、近くの建物から何かが飛んできた。


『おっ! やばいぞ、避けろ!』


 イサルデが叫んだ。

 俺は咄嗟にミスティを抱き上げて、全力で後ろに下がる。


 王女様が光の翼を大きく広げて、自分の前に盾のようにかざした。

 ゴウが身構え、唯一立ち止まるのが遅れたアンナは……。


「あれっ!? 皆さん!? みなさ~ん!?」


『仕方ないやつだなあ!』


 飛び出したイサルデが人間サイズになり、アンナの襟首を捕まえて跳び上がった。


「あひゃーっ」


 アンナの悲鳴が遠ざかっていく。

 その直後、爆発が起きた。


「ウグワーッ!?」


 逃げていた戦神の信者が、爆発に巻き込まれてしまった!

 あれは死んだな……。


「蛇だったわ! 姫見たんだから。建物の上から蛇がぴょーんと飛んできて、それが爆発したわ!」


「露骨に十頭蛇じゃん! 追いかけよう!」


 王女が不敵に笑う。


「当然! 姫に爆発するものを投げつけたんだもの。目にもの見せてやるわ! 自分がザコだって教えてやらなくちゃ!」


 飛び上がる王女様。

 その後ろに、ゴウが掴まった。


「ちょ、ちょっとゴウ! 重いんだけど!」


「殿下だけだと色々心配ですからね」


「心配ってどういうこと!? 姫は無敵なんだけど! あーもう、重い! 汗臭い! ゴウきらいー!!」


 そうは言いながら、振りほどく様子もなく一緒に飛んでいく二人。

 仲がいいんだなー。


 ミスティがこれを見上げてニッコリしている。


「ライバルかと思ってたけど違ったね……。あたしは安心しちゃったよ」


「まだ気を抜くの早いからね!? 両替!!」


 地面にばらまいた魔法の針を変化させる。

 見張り塔!


 どんどん盛り上がっていく見張り塔。俺たちは屋根の上に乗っている形になる。

 蛇が投げ込まれた建物の上に飛び降りたら、見張り塔を針に戻して回収。


「便利便利!」


「もっと便利になるぞ! 色々覚えてきたから!」


 屋根の上を見渡すと、あちこちで爆発が起きているのが見える。

 爆発する蛇がそこらじゅうに仕込まれているのか。


「ちょっと! 爆発ばっかりで見つけられないんだけど! 姫、こういう嫌がらせだいっきらいなんだけど!!」


 王女様が別の意味で爆発寸前だ。

 ゴウはもう屋根の上に降り立ち、連なる建物を駆け回りながら実行犯の姿を探している。


 敵は完全に身を隠しているようだった。

 これは見つけにくそうだ……。


 だから、こう言う時はミスティの出番だって決まっているのだ。


「ミスティ、どこにいそう?」


「いやあ、そう言われても分からないけど……あ、でもなんとなく、ここ」


 彼女が指さしたのは、俺たちの足元だった。

 俺は躊躇なく、ここに補修材の瓦礫の山を作り出す。

 とんでもない重量が出現したので、屋根がぶち抜かれた。


 着地場所には藁を作る!

 見張り塔、瓦礫、藁! これで色々片付くな。


 建物の中は真っ暗だ。

 俺は即座に、黄色い板を作った。

 戦場を確認に行ったあの時、夜目が効くようになるアイテムとして手渡されたやつ。


 あの後値段を聞いて、構造を確認しておいて良かった!

 ミスティに手渡し、二人で黄色い板を顔に掛けて周囲を見回す。


 たくさんの人影があって、みんな驚いているようだった。


「ど、どうしてここが……!?」「天井をぶち抜いてきた!」「なんだ、この瓦礫……!?」「うわーっ、藁が舞い上がる!!」


 バッチリじゃないか!

 ミスティの当てずっぽうは、信じられないくらい当たるのだ。

 それも多分、意識しないで選んだ適当な選択が大正解につながる。


「くそっ、降りてきたのはガキが二人だ! 口を封じろ!」


 襲いかかってきそうな気配!

 魔法の針を構える俺。


「ミスティも、ありったけ投げて!」


「両替ね! シンプルなやつでやるつもりでしょ」


「その通り! 行くぜ!」


「オッケー!」


 二人で息を合わせて、魔法の針を周りにばらまいた。


「両替!」


 魔法の針が金貨五枚に変わり、銀貨百枚に変わり、銅貨千枚に変わり、鉄貨一万枚に変わる!

 それが複数、周囲に撒き散らされたのだ。


 重い鉄貨の礫が、建物内を吹き荒れた。


「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」


 周辺にいた全ての相手、おそらくは過激派たちが、鉄貨に全身をぶん殴られて倒れていく。


「うわーっ、ものっすごい音がしたよ! 壁が破れてるし!」


 鉄貨が突き刺さった壁が抜け、光が漏れてきている。

 見渡す限り、立っている者はいなかった。


「両替!」


 全ての鉄貨を魔法の針に戻し、回収する。


「便利だねえ……」


「うん、どんどん便利になる。なんか、物事を知れば知るほど出来ることが増えていく」


『恐ろしい子……!』


 !?

 今、俺とミスティじゃない人の声がしたんだけど!?

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