第44話 あまりにも意外な出会い

 法王は、細身の中年男性だった。

 彼は興味なさそうに俺を見た後、ミスティを見て笑顔になった。

 そして王女様を見て「ゲェっ、シェリィ王女!! やっぱり本当に来ていたのか!」と仰け反った。


「なんか舐め回すように見られたんだけど……?」


「姫に対して失礼が過ぎない!? 処すんだけど!」


 おっと、女性陣がいきり立ってる。

 ミスティに関しては、彼女はとてもカワイイので気持ちは分かる。


「だけど、ミスティを守るのは俺なので」


 彼女を後ろに隠すようにした。


「おおっ、ウーサー、かっこいい!」


 ミスティめちゃくちゃ嬉しそうだ。

 背中にぎゅっとくっついてくる。


「謁見の間でイチャイチャするのはやめろ! 余は真実の愛みたいなそういうのだいっきらいなのだ!」


 法王が怒った。

 その後、侍従の人が走ってきて法王の肩を小突いた。


「あっ、す、すまぬ。つい本音が」


「法王としての威厳を守ってくださいませ! さもないと、次の法王選挙で負けますよ!」


「う、うん」


 侍従の人がまた走ってどこかに消えた。

 法王というのも大変なんだなあ。


「猊下、そろそろ詳しい話を聞かせてもらってもいいですかね」


 ゴウがかなりへりくだった感じで尋ねた。

 ちなみに彼の腕は、飛び出しそうな王女様を抑えている。


「処すわ! 姫はおこなんだから! 処すわよあのザコ! むきぃ!」


 王女様、放っておいたら皆殺しにしそうなんだもんなあ。

 なんでこの人、自由にさせられてるんだ?

 あ、ゴウがいるからか。


 法王は王女様の勢いにドン引きしながら、語り始めた。


「実はな、各宗派ごとの対立なんてのは日常的なものだったのだ。だが、つい余が王位についてから対立が激しくなってきた。何度か武力で鎮圧する必要があるくらいだ。最近、戦神派の活動家を捕まえて処刑したのだが、それ以降は争いが収まってきてな」


 セブンセンスも大変なんだなあ。

 神様のお膝元なのに、人間は争いをやめられないのだ。


「そう思ったら、首謀者の部下みたいなのがまた暴れ出した。しかも外からスキル能力使いを雇い入れているらしい! 外部の人間でも、信者になればこの都に入れてしまうからな……。もう、大変な状況だよ……。余の胃に穴が空きそうだ……。しょっちゅう、慈愛の最高司祭のミルクちゃんに慰めてもらっている……」


 な、なるほど。

 ついに国内では片付かなくなり、森王国へ救援要請が来たと。


「なんだか頼りなさそうな王様だよねえ」


 ミスティの囁きに、俺も思わず頷くのだった。

 その後、お城に部屋を与えられた俺たち。


 かなり広い部屋が一つ、そこからベッドルームに続く扉が二つ。

 風呂なるものがあるらしく、ミスティはこれを聞いて大喜びしていた。


「あいつ失礼な男よね! 姫超怒ってるんだけど! あいつ処したいのよ! なんでゴウ邪魔するの!!」


「いやいや殿下。そりゃあまずいだろ。法王ぶっ殺したら国際問題になる。戦争だ。そうしたらどうなる? シクスゼクスがこの隙に仕掛けてくるに決まってるだろうが」


「だったら姫がシクスゼクスも滅ぼすわ!!」


「やりかねねえー!! だが殿下、シクスゼクスのスキル使いどもも強いぞ。魔族との混血だからな。スキルと生来の能力の組み合わせは馬鹿にならん。いかにあんたと言えど厳しいだろう……」


「じゃあフリズドライおばさま連れて行くわ!」


「隠居して畑耕してる魔神を駆り出すのやめてあげてくれない!?」


 仲いいなあ。


 そんな俺たちに、お世話係を拝命したアンナが色々教えてくれる。


「猊下はもともと知識神の大司祭だったのですが、女性人気が高くて、本人も遊び人で」


「はあ」


「法王選挙で圧倒的女性票を得て、今代の法王に即位されたのですが、研究と女遊び以外がとにかく苦手で」


「うへえ」


 俺とミスティ、揃って変な声が出る。


「お陰で、戦神側の首謀者も雑に処刑してしまって、結果恨みが溜まって騒ぎが大きく……。技巧神神殿が協力してくれているので、どうにかなっているのですが」


 大変だなあ、セブンセンスも!

 戦神の最高司祭が、今の法王と選挙を争った人物だったらしい。


 今、この国で起きている争いは、大本をたどれば戦神の最高司祭によるものだと推測される。

 だけど、そこを攻めるのはできない。

 どうにか落とし所をみつけなければ……。と言う話なんだとか。


「大変だなあ……。俺、まだガキだよ? 俺に何ができるんだあ」


「ウーサーならやれるやれる! だって、なんだかんだでウーサーを助けてくれる人がちょこちょこ出てくるじゃない。今回もきっとそうだよ!」


「そうなのかな?」


 ミスティに言われるとそんな気がしてきた。


「……ということで、じゃああたし、お風呂行ってくるから! ここのお風呂、超でっかいらしいよ! 楽しみー!」


「は? 姫を置いてお風呂行くわけ? 姫も行くんだから! あんたたち男子はそこで大人しく待ってなさいよねー! 覗いたらスパッとやっちゃうんだから!」


 なんだなんだ。

 急に女子たちがウキウキし始めたぞ。


 ミスティ、王女様、アンナが三人でお風呂に行ってしまった。


「誰が子どもの裸なんぞ覗くか。全く、あのガキィ……!」


 ゴウがなんかぶつぶつ言っている。

 だが動きたいのを我慢してる気配だ。

 実は覗きたいな……?


 俺はまあ、覗きたいか覗きたくないかで言うと、ちょっと気になる……。

 大浴場の近くまで様子を見に行ってみようかな?


 そう思って動くことにした。

 なぜかゴウもついてくる。


「なんでゴウが?」


「気にするな……」


 二人で真面目くさった顔をして、大浴場への道をたどる。

 この城の大浴場は、つい数年前に増築されたんだそうだ。

 今の法王の趣味なんだって。


 お城の離れにあって、庭園の中を天井付きの回廊で繋がっている。

 手入れされた木々や庭を見ながら入浴できる、開放式の大きな浴場になってるということだった。


 俺は、たらいに入ったお湯で体を洗うくらいのことしか知らない。

 なんだ、大浴場って……。

 それそのものに興味があるかも知れない。


 もちろん、ミスティにも興味があるけど……。


 ふと、視界の端をチョロチョロっと走るものがいることに気づく。

 そいつは、神官服を着た小柄なやつだった。


 尻尾がある?


「あれ?」


『ウキッ? うおっ、見つかった!』


 人間にしては毛深いというか、体に動物みたいな毛が生えていて、それと髪が繋がっている。


『お前もあれだろ? 覗きだろ。外国から来た女は珍しいからな! いい覗きスポットを教えてやろう。おいらについてこい』


 そいつは俺たちを手招きした。

 ゴウが目を見開いて、小柄なそいつを見ている。


「お、おい、あんた……。い、いや、あなたはもしかして……」


 小柄なそいつはニヤッと笑った。


『いかにも。おいらは技巧神イサルデ。ちょいと前に滅ぼされて、ここ数年でどうにか復活できたんだ。その神が直々に、お前らを導いてやろうってんだぞ』


 神様!?

 

 こうして俺は、大浴場を覗こうとする神様と一緒に、庭園へ踏み込むことになるのだった。

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