第36話 精霊使いウーナギ

 王女様をボコったので、俺は森王国で一目置かれるようになった。

 基礎訓練の時間が短縮され、別の訓練のために移動する時。


 道を行く俺を見て、バーバリアンやエルフたちがにこやかに手を振ってくるのだ。

 俺も戸惑いながら手を振り返す。


「なんだなんだ? 凄くフレンドリーになった」


「この国は力が全てだからな。もちろん、武力だけじゃなく、知力や芸術、コツコツやる力とか色々だ。とにかく、何かをちゃんとやれるやつや飛び抜けて凄いやつをリスペクトする国だ」


「そうだったのか……」


 すごいヤツはともかくとして、コツコツやってる人が評価されるのはいい国だと思う。

 スラムにも、ゴミをひたすら掃除して回ってるおじさんとかいて、みんな感謝してたもんな。


 お陰でスラムは変な病気が流行らなかったし、おじさんは他のスラムの住人から食べ物をもらって暮らしてた。

 きっとここもああいう、お互い様な交流が行われてるところなんだろうな。


 エムス王国は嫌いだが、俺はあのスラムが嫌いじゃなかった。

 あの国は物の管理がずさんで、スラムにどんどん物が流れてきていた。

 だから、スラムも割りと気持ちに余裕がある感じで過ごせてたんだと思う。


「よし、ついたぞ」


 ゴウが立ち止まった。

 そこは、木だ。

 大きな木が一本生えている、それだけの場所だ。


「なんだ、ここ」


「ウーナギの家だな」


「あのエルフかあ」


 掴みどころがないエルフ。

 だけど、俺が両替した藁の山を事もなげに無力化した、凄腕の精霊魔法使い。


「ここでウーナギに稽古をつけてもらうんだ。あのエルフはいつも暇してるからな」


 暇なんだ。

 森王国は戦力が揃っているから、他国が戦争を仕掛けてこなさそうだもんな。


 俺がそういう旨のことを呟いたら、ゴウが笑った。


「そうでもないぞ。隣がシクスゼクス帝国。魔族の国だ。ここがしょっちゅう戦争を仕掛けてきている。奴らもスキル能力者と交わり、凄まじい力を持つ魔族を生み出しているぞ」


「うへえ!」


「それこそ、十頭蛇よりちょっと弱いみたいなのはたくさんいる」


「げげぇ」


「僕の家の下で変な声を出さないでもらえないか」


 突然頭上からそんな言葉が聞こえてきて、のっぺりした印象のエルフが降りてきた。

 音もなく、風を纏いながらすいーっと移動する。

 どういう原理なんだろう?


「やあやあよく来たなウーサーくん。僕は暇つぶしに君を鍛えることにした。鍛えても、所詮はあと60年かそこらで死んでしまう君なので儚いのだが、この儚さもまたオツなものだ」


「変な人だなあ……」


「そこはオレもそう思う」


 俺とゴウは頷き合うのだった。

 訓練というのは。


 スキル能力を目一杯使って、ウーナギとやり合うことだ。

 シンプル極まりない。


 で、ウーナギの魔法というのが。


「精霊魔法は通常、精霊に言うことを聞いてもらって使役するものなんだけど、僕のはちょっと違っててね」


 ウーナギがまた、謎の力で空に上がっていく。


「僕は魔法を使う際に、それ用の精霊を作り出す」


 俺に向かって、突然何もないところから大量の土砂が降り注ぐ。


「うわーっ!? 両替!!」


 放り投げた魔法の針が、城壁の一部に変化した。

 それが土砂を食い止める。


「君が加工物を作り出す力を持つなら、僕は自然現象を自在に再現できる。これが君と僕の差異だ。どうだい? 僕が応用において君の上位互換だと言った理由が分かったかな?」


 今度は、土砂の中から猛烈な勢いで温泉が吹き出した。

 その上に立つウーナギ。

 土砂が成形され、山になる。

 山を温泉が駆け上がってくる。


 城壁を越える気だ!


「うおお! 城壁の一部を両替! 見張り塔! そこから……」


「君が知る世界はまだ狭いようだ。色々なものを見聞きし、知れば知るほど君は僕に迫るようになるだろう。いや、むしろ追い越してくれた方が楽しい。僕も目標というものができるしね」


 ウーナギは足元の水を凍りつかせ、刃にして俺に降り注がせる。

 そんな事をしながら、本人は遠い目をしているのだ。


「そもそも僕と魔導王は対等の実力を持つと思っていたのだが、彼は万物を操る魔法の力以外に、新たなものを作り出す創造の力も持っていた。そこで、僕の精霊魔法を一瞬だけ止められる壁で囲まれて、僕は封印されてしまったわけだよな。つまり無敵の僕も無敵ではない……」


 何言ってるんだこの人!

 降り注ぐ氷の雨を、俺は盾をたくさん生み出して受け止めた。

 その分、城壁が小さく小さくなっていく。


「では、どうしてその魔導王が敗れた? 理屈の上では、彼を倒せる者など存在しないはずなのに。いや、いるとすれば、万物を操ろうが新たなものが生み出されようが、そんなことはお構いなしに相手を倒すことだけに特化したスキル能力とか……。いやいや、そんなものがあるはずが」


 思い悩み始めた。

 明らかに、ウーナギの魔法に隙ができる。


 ここだ!


「うおお! 全部を魔法の針に!」


 俺は全ての生成物を魔法の針に戻しながら、ウーナギの作った山の上に飛び乗った。

 近づいてしまえば、そこに氷の雨は降り注がない。


 ここで、魔法の針をウーナギへと投げつけた。


「魔法の短剣に変われ!」


 何本もの魔法の短剣が生まれ、ウーナギへ飛来した。


「あっ、油断した」


 ウーナギがハッとして、突然その場に猛烈な嵐を生み出した。


「う、うわーっ!?」


 これにはたまらず、俺も魔剣もふっ飛ばされる。

 だ、だめだー!

 俺が今やれる限りの攻撃だと、ウーナギに通用しない!


 カトーが作った最強の魔剣でも両替できれば……!

 でも、そのためにはまだまだ、俺のスキル能力をランクアップさせないといけないのだった。


 多分この訓練、そのために行われるものだな……?

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