第34話 いけません姫様

「あーっ、姫様、いけませんいけません」

「ダメです姫様、姫様ダメです!」

「は? 姫がダメみたいな言い方されるとムカつくんだけど! おどき!」

「ウグワー!」「ウグワー!」


 部屋の外が騒がしいぞ。

 訓練にもずいぶん慣れてきた頃合いだった。

 体も以前とは別人みたいに動く。


 体の動かし方がよく分かってきた、みたいな感じだ。

 自室に戻ってからも、今日やった訓練の確認をしている。


 そんな夜のことだった。

 そろそろお休みをもらって、ミスティとデートしたいなあ……。

 と思っていたら。


「入るんだけど、いいわよね? 姫がいいんだから構わないわね!」


 いきなり扉がバーンと開いた。


「うわーっ」


 心底びっくりする俺。

 そこには、ピンク色の髪をツーテールにした、白いドレス姿の美少女がいた。

 こ、この人は……!


「ふん! 姫の姿にびっくりして声も出ないみたいね! ざーこ! いい? 今日は姫が明日の予定を教えにきてやったわよ!」


「は、はあ」


「何気の抜けた返事してるの? 姫が伝えに来てあげたのよ!? ほんとザコなんだから! いい? 明日お前は、姫と決闘するの! これは姫が決めたのよ!」


「な、なんだってーっ!!」


 とんでもない宣言に、さらに驚く俺。


「ちょっと待って下さい、えーと、えーと姫」


「シェリィ! 姫の名前はちゃんと覚えなさい! ほんとに仕方のないやつね! ざこ!」


「ごめんごめん!」


「ま、いいけど。あなた、お金が無いと能力を使えないんでしょう? じゃあ、全力を使いなさいよね。姫がお小遣い貸してあげるわ! 金貨百枚でいい?」


「ひゃ、百枚!! いや、なんかすんません」


「腰が低いのはいいことだわ! じゃあまた明日ね!」


 シェリィはふーんと胸を張り、勢いよく鼻息を吹き出した。

 そして満足しながら帰っていった。


「ひ、姫様ー!!」

「姫様がお戻りになるぞー! 道を開けろー!」

「ウグワー!!」


 また誰かふっ飛ばされたか。

 とんでもない人だなあ。


 翌朝、朝飯を食べていたら、普段は別の所にいるはずのミスティが走ってきた。


「ウーサー! なんか変なことするらしいじゃん! 決闘? 今どき? なんで?」


「王女様から直接言われた」


「なんで!?」


 俺もよく分からない。

 結局その後、いつもの訓練所にやって来た俺だが。


「めちゃくちゃ人がいるんだけど」


 訓練所のあちこちに、上がれるでっぱりみたいなものがある。

 あれはつまり、観客席だったのだ。

 訓練所は何かあれば、決闘場みたいになるわけだ。


 ゴウ曰く、


「決闘は何か大事なことを決めるための、バーバリアンの決まりでもある。同時に娯楽でもある」


「今回はどっちなんすか?」


「娯楽に決まってるだろ。気楽に行け」


「やっぱり……。が、がんばります」


 入り口には国王までやって来て、酒や食べ物まで用意させている。

 そこまでの見世物か!


「ひええ、大事になってるじゃん!」


 ミスティもいて、手をパタパタ動かしながら慌てていた。


「娯楽なんだって」


「そっかー。こっちの世界は娯楽が少なそうだもんねえ……。あたし、最近エルフの人たちの間でリバーシを流行らせたよ」


「リバーシ……?」


「今度教えてあげよう……」


 な、なんなんだ、リバーシって。

 そんなやり取りをしていたら、王女が到着した。


 天蓋に空いた穴から、光の翼で降り立つシェリィ王女。


「待たせたわね、お前たち!!」


 王女が宣言すると、周りがウオーっと盛り上がった。

 人気だなあ。


「今日はバッチリ楽しませてやるから、期待しているがいいわよ! お前たちのざーこ!な感性でも満足できるくらい、すっごいの見せてやるから! そこのやつ!」


「あ、俺か? なんすか!」


「全力で来なさいよ! はい、これ金貨百枚!」


 どっしりと思い革袋を寄越されてしまった。

 やばい……。


「マジで金貨くれたの?」


「貸してくれたんだって。俺のための武器だって」


「ウーサーに金貨渡すとか、そんなに自信あるのかあ……。こうやって見てると可愛いだけの女の子にしか見えないんだけど……」


 可愛い発言が王女の耳に届いたようだ。


「は? 姫が可愛いのは当然なんだけど? 可愛いだけじゃないから最強なんじゃない! 見せてやるわよ! ほら、お前! 手加減なしで来なさい!」


「手加減なしって言われても……!」


 迷っていたら、どこからか大きな、金属の板を持ってきた男たちがいる。

 枠のなかにロープで吊るされた板。

 どうやらこれを叩いて大きな音を出す、ドラという道具らしい。


「よし、始めろ。見せてもらうぞ、両替スキルの力とやらを」


 マナビ王が号令を上げると、男たちの一人が手にしたバチで、ドラを思い切り殴った。

 ゴワァーンッと凄い音がした。


 シェリィ姫が、俺に手招きしている。

 仕方ない、やるかあ!


 俺は金貨をばらまいた。


「両替!」


 投げた金貨が、大量のフンガムンガになる。

 回転するそれが、王女に向けて飛びかかる。


「へえ、変わった武器じゃない! ま、でもこれじゃあザコなんだけど!」


 王女の指先に、光が灯った。

 それが広がり、伸び……。


 光の刃になった。

 なんだあれ!?


 フンガムンガが次々に切り裂かれていく。

 鉄の武器が、まるで紙切れみたいにバラバラになる。


「ねえ、手抜きしないで! 全力ぅ!」


 本当に全力でやらないとヤバいやつだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る