第26話 戦いおわったその後で

 粉々になったエグゾシー。

 これを宿の中から確認していたらしく、里の住民たちがみんな飛び出してきた。


 良かった!

 犠牲者はいないみたいだ。


 みんな、手に手に棍棒を握りしめていて、


「うおおおおこの化け物めえ!」

「魔剣鍛冶の旨味を吸い尽くすまで死なんぞ!」

「この野郎! この野郎!」


 と叫びながら骨の蛇を叩きまくっていた。

 助けてよかったんだろうか……!


「おお、あんたらが助けてくれたのか!!」


 里の代表らしきおっさんが進み出てきた。


「あ、はい。こいつ、十頭蛇の一人だって言ってて、カトーさんの事を狙ってたので戦ったんです」


「そうかそうか! カトー様がやられてしまったら、我々は路頭に迷うところだった……!! ありがとう! ありがとう! そうだ、この里に滞在する間、食事は全て半額で提供しよう。なあ、皆の衆!」


 おおーっと歓声が上がった。

 半額は嬉しいな!


「無料じゃない辺りはしっかりしてるよねえ」


 ミスティは半笑いだった。

 とにかく、安くしてもらえるならありがたいことだ。


 夜も遅いということで、今日はすぐに就寝。

 めちゃくちゃに体を動かしたので、すぐに寝……。


「汗だくでしょ! 脱いで脱いで!」


「えっ、ミスティが洗うの!?」


「そう。お姉さんが汗拭いたげる! ほうほう、ウーサーったら結構筋肉付いてるんだねえ……!」


「あーれーっ」


 めちゃめちゃ体を洗われてしまった。

 大変なところは守りきったけど。


 だけど、大変なことになった興奮とかで、夜は眠れそうにない……。


 いや、気がついたら朝だった。

 見た夢を覚えてないくらい爆睡したわ。


「おはよー! カトーさんとスミスさんとこ行こ!」


「いきなり! それに結界が張られてるんだから、本当は簡単には入れないんだけどなあ……」


 半額朝食をたっぷり食べた後、出発することになった。


 丸く柔らかいパンにハムとチーズが挟まっているやつなんだけど。

 凄いボリュームだなあ……!

 半額だけど、普段食ってる朝食の倍くらい量ない?


 料理のおばちゃんを見たら、ウインクして来た。

 サービスで盛りを増やしてくれたらしい。

 ハム二枚! チーズもゴロゴロ! やばい。


 大変美味しくいただきました。


 こうして心もお腹も満足しながら、のんびりと里の中心にある森へと向かう。

 ちょうど、別の国のキャラバンみたいなのがやって来るところだった。


 彼らは結界の外で、何か呼びかけている。

 作ってもらった武器を受け取りに来たのかもしれない。


 俺たちは一応、順番待ちだ。

 ミスティがその気になれば、結界なんか通り抜けてしまうらしいんだけど……。

 毎度毎度、勝手に押しかけるわけにはいかないだろう。


 二人で昨日のエグゾシーについて、他愛もない話をして時間をつぶす。

 十頭蛇ってなんだろうね、とか、今回のは前のやつより倒しやすかったねー、とか。


『お待たせしました。お約束の品です』


 気がつくと、前のキャラバンがスミスと面会していた。

 スミスが台車に乗せて運んできた武器を、彼らがホクホクしながら荷馬車に積んでいる。

 その後、金貨がぎゅうぎゅうに詰まっているであろう袋を手渡した。


 あれ、幾らくらい入ってるんだろうなあ。

 ぼーっと金貨袋を見ている。


 その後、キャラバンの人が商談を始めた。

 スミスが断る。


 キャラバンの人はガックリして去っていった。


『おや、ウーサーさんとミスティさん。昨日はお疲れ様でした。カトーさんが褒めていましたよ』


「どうも、スミスさん。いやあ、ヤバかったです。俺もまだまだ強くなんないと……」


『謙虚なのはあなたのいいところですね。カトーさんから言葉を預かってきています』


「おお」


『まあがんばれ、だそうです』


「お、おう」


 あの人らしいと言えばらしい。

 ねぎらいはそれだけだとか。

 もらえるものはもう、もらってるしな。


 それに、たくさんの魔剣に触らせてもらった。


『後は、もうちょっと装備の種類があるから触っていけだそうで。倉庫に案内します』


「あざっす!」


「そろそろウーサーに、ちゃんとしたお礼の仕方教えないとなあ」


 ミスティが何か言っている。


 連れて行かれたのは、昨日来た工房とは違う場所だった。

 ぽつんと一つ、大型の土でできた建物があって、その中にぎっしりと装備が収められていた。


 右の壁には、盾。

 ひたすら大量の盾。

 全てが金属で作られていて、全てが魔法の盾だ。


 左の壁には、魔法の武器。


 カトーが作る魔法の装備は、全て金属製というのが特徴だ。

 木材と組み合わせるのが面倒くさいんだそうだ。

 そんなものぐさで、贅沢に金属を使って全身が魔化された武器をこんな数作ってるのか……。


『最近は、鋳型に流し込んでから魔化してますよ。これは安いです。昨日、ゾンビにとどめをさした魔剣も鋳物です』


「大量生産を始めていた」


『注文が多すぎて、真面目に作ってたら間に合わないのです。それに、注文側の予算が少ないですからね』


「あの金貨がぎっしり詰まった袋で予算少ないの!?」


 魔法の武器、本当に天井知らずな値段だ。


 魔法の手斧、魔法の槍、魔法のフレイル、魔法の……なんだこれ? 握り手がついた筒? なんだこれ?


『銃ですね』


「銃?」


「銃があんの!? この世界!?」


『かつて魔法と機械技術を融合させた国がありましてね。カトーさんがそれを学んで作り上げたものです。弾丸も魔化されたものを使わねばならないので金食い虫ですよ』


 銃とやら、よく知らないけれど、ミスティが驚くくらいだから凄いものなんだろう。

 とにかく、そういうのを全部手に取らせてもらい、調べさせてもらった。


 うーん、これは凄い……。

 たくさんの物を知ってしまった。


 さらにさらに、俺は強くなれそうな気がする。

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