第19話 魔剣鍛冶登場

 服を着たカエルみたいなやつは、ギョロリとした目で俺たちを見た。

 こいつ……。

 もしかして、外の世界にいるというモンスターってやつなのか!


「ひええええ」


 ちょっと怯えているミスティを、俺はかばって前に出る。

 カエル人間は、じっと俺たちを見た後、首を傾げた。


『オクタゴン様の世界結界を破れるほどの力をお持ちということですか。これはカトーさんにお伝えせねば。おっと、申し遅れました』


 そう言って、カエル人間は俺たちに軽く会釈した。


『わたくし、アビサルワンズのスミスと申します。あなた方が常識を超えた存在であることを認識しました。よろしければ、お名前を教えてもらっても?』


「あ、おお」


 スミスと名乗ったカエル人間、俺たちに対する敵意みたいなのが全くない。

 それどころか礼儀正しい。


「……もしかしていい人? やばっ。あたし、人を見た目で判断してたわ。サイテーだわ……」


 ミスティが凹んでいる。


「俺はウーサーっす。こっちが」


「あたしはミスティです。勝手に入ってきてごめんなさい」


 ミスティが殊勝な態度で頭を下げた。

 俺も慌てて頭を下げる。


『ああどうもご丁寧に。こちらこそどうもどうも。我々アビサルワンズは、慣れないと警戒を誘う外見をしていますからね。お二人は魔剣鍛冶のカトーさんに会いに来られたのでしょう?』


「あ、はい。まあ」


 カトーって人も、もしかして同じアビサルワンズという種族なのかな?

 こんな種族がいるとは、世界は広いなあ……。

 しかも凄く紳士的でフレンドリーだぞ。


 だったら、魔剣鍛冶のカトーもきっと丁寧な人に違いない。

 俺は安心して、スミスの案内に従った。


 森の真ん中の空間には、小さな家と大きな家があった。

 向かうのは大きな家。


 その中には赤く燃え盛る炉があり、そこで誰かがハンマーを握り、金属をガンガン叩いていた。


「おおスミス! 手伝ってくれ」


『はい。その前にご紹介したい方々が』


「方々ぁ? そんなお前、オクタゴンの結界で遮ってる森の中を抜けてくるやつなんかいるはずが……いたぁーっ!!」


 その男は振り返り、ぴょーんと跳び上がって驚いた。


「マンガみたいな驚き方するじゃん!!」


 ミスティがちょっと感動している。

 マンガってなんだ。


 魔剣鍛冶カトー。

 彼は俺たちの前に姿を現す。


 驚いたことに、彼はアビサルワンズではなく人間……。

 人間……?


 スラリと背が高く、耳が長くて尖っている。

 色白な金髪の、顔が整った男だ。


「あ、イケメンじゃん。あっちのキララとかアリスとかが好きそうな顔」


「むっ」


 ミスティが漏らした言葉を俺は聞き逃さなかったぞ。

 彼女の腕を肘で小突いたら、ミスティがビクッとした。


「あ、違うって! あたしの好みじゃなくって、日本の友達が好きそうだって思って!」


 口に出されると不安になる……!


「この世界の法則に従う存在が、あの結界を抜けられるはずはない。ということは……」


 カトーは俺たちを交互に見た後、ミスティに目を留めた。


「お前、異世界召喚者だな? まだそんな儀式をやっている馬鹿な国があるのか」


「うっ」


「み、ミスティは悪くないぞ!」


 俺が彼女をかばうと、カトーは目を細めた。


「別にそれが悪いわけじゃない。今のこの世界を形作ったのは、異世界召喚者だからな。そいつらは、常識では考えられない能力を使ってハチャメチャな事をする。そして世界をしっちゃかめっちゃかにするのだ」


「正しい」


 俺は思わず呟いていた。

 さらっと森を抜けてきたが、あれが絶対に抜けられないものだったらしい。

 それをどうということもなく抜ける、ミスティの力。確かにとんでもない。


「正しい……。ウーサー、お金を物に変えるし」


「えっ、俺の力ってそんなに?」


「二人ともか! そこの娘だけが異世界召喚者だと思ったら!」


 カトーが愕然とした。


「違う違う! 俺は異世界召喚者じゃないって! なんか生まれつき変な力があって、そういう孤児を集めてる孤児院に拾われて……」


「ああ、そういう……」


 カトーが頷いた。


「異世界召喚者は実に多くの数がこの世界に呼び込まれた。生き残った者たちはこの世界で子を成し、その力が変異しながら受け継がれていっている。お前はその一人ということだろう」


 世界の真実みたいな話だ……。

 カトーという男は、どこまで知っているんだろう。

 もしかしたら、俺のルーツも分かってしまうのかもしれない。


 だが、すぐにカトーは踵を返した。


「仕事があるのでそういうどうでもいい話は終わり。用事がないなら帰れ帰れ」


 俺もミスティも、ガクッとくる。


『良かったですね、お二人とも。カトーさんがあんなにフレンドリーな反応を返すのはなかなかないんですよ。気に入られましたね』


「あれで!?」


 スミスは本気なのか、フォローしてるのかよく分からない。

 彼はすぐに、カトーの手伝いに行ってしまった。


 二人でハンマーを振ってガンガン叩いている。

 魔剣を作っているのだ。


 そして完成したものに、カトーがなにやらむにゃむにゃと魔法を使った。

 これを水に入れて冷ます。


「よし、まあこんなもんだろう。仮に、+2ブロードソードと名付ける」


『風情の欠片もありませんね』


「名前なんてのは買った奴が適当につければいいんだ」


 完成した魔剣は、既に魔法の輝きを放ち始めている。

 剣の素人である俺が見ても分かる。

 あれ、とんでもない業物だ。


「あの、それって大体、幾らくらいなんすか?」


 俺がおずおずと尋ねると、カトーが振り返った。


「おう。大体……。金貨百二十枚くらいだな」


「!?」


 聞いたことがない金の単位が出てきて、俺は衝撃で震えた。


「すっご……。マジで魔剣鍛冶なんだ……。この人から武器を買うために、あちこちからお金持ち来るに決まってるよねえ。そりゃあ、たかるための村ができるわけだわ」


「ああ、あの村な」


 戻ってきたカトーが顔をしかめた。


「寄生虫みたいな連中だよな」


『ははは、カトーさんは慈悲深い方ですからね。ああいう方々をついでに養うことも、まあやぶさかではないとお考えなのですよ』


「おいやめろスミス、営業妨害だ」


『照れていらっしゃる』


「やめろスミスこのカエル野郎」


 もがーっと叫びながら暴れるカトーと、それを受け止めるスミス。

 種族を超えた仲良し感がある。


「ちょっといいよね……」


「だなあ。なんか、男の友情って感じがする」


 結局、その場にて、スミスが作ったアビサルワンズ料理とやらをごちそうになる俺たちなのだった。

 めちゃくちゃ美味かった……。

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