あなたの力になれるなら
@wakumo
プロローグ
夢を見た…積み上げられた石垣の上に腰掛ける三人の若者の親しげな笑顔。顔のはっきりとしない仲間に挟まれ、真ん中には見知ったあなたの眩しい笑顔がある。
みんなの中ではこんなに無邪気に笑うんだ。私はあなたが心から笑う顔を初めてみた気がした。
不意に嫉妬を感じて近寄った私は、あなたの前に立ちはだかって左手を取り無理やり引っ張り降ろしてあたかも恋人のように振る舞って手をつないだ。
繋いだあなたの左手がとても冷たい。私の左手も同じだけ冷たくて…このままじゃふたりとも凍えてしまう。あっためてあげたいのにこっちの手はあなたと同じで冷た過ぎるから…
でも、『右手はあったかいよ!こっちであっためてあげる』そう言いながら、冬の寒さに凍てついた石の橋をずんずん早足で渡る。
だけど…こうやって歩いているあなたと私の間には何もないんだ。愛とか恋とかね。友達でもない。強いて言えばファンかな。私はあなたの大ファン。
だから、こうして肌を合わせたり、頭を突き合わせたりして同じ処にいたい。あなたを助けたい。あ、でも、前に網膜剥離やっちゃったから近づきすぎるのは怖いけど、あれ、手術ヤバイから、二度とゴメンだから…
こうやって近くで温もりを感じていたいし、体温で温め合っていたい。ここぞって時に必要なお互いでいたい。
あなたの記憶…途切れ途切れになっているのはどうしてだと思う?忘れたいことがあるから?考えすぎて思考が止まっているから?
思い出させてあげたいのとは違う。そんなお節介、あなたは嫌いだと思う…
見ているのが辛いだけなの。辛そうなのが可愛そうって勝手にそう思う。あなたはいつも眉間に皺を寄せてもがいている。時間の狭間で、取り戻したい何かと格闘しながら彷徨っている。
私ね、名探偵じゃないから手伝って上げたりできない。名探偵はあなたの方が向いているよね。寡黙だし、スタイリッシュだし、スーツ似合っているし。感じるポイントが探偵的。だからその道に長けてるって思う。大人のあなたは、私とは違う、想像することも出来ない別の世界に住んでいる。
今度の仕事はどうするの?引き受けるつもり?難しそうだけど、きっとあなたなら、どんな難題もクリアして成し遂げるわ。
難しい顔をして依頼書をずっと見てたじゃない。クリアファイルを手に取ったり、写真を出したり入れたりしたりして、資料と付き合わせて考えている。あの時、高速で頭がクルクル回っていたのがわかった。思考を構築して答えを導き出す。空を見つめて、こめかみに情報を集中して、深呼吸してそれをやっていたよね。
あの時…
この世の中には絶対取り戻せないものがある。過ぎ去った時間。吐き出してしまった言葉。人を傷つける態度。冷たさ。一度顕してしまったものは取り戻せないよ…どうやったって取り消せない。誰が忘れても心の中の神様が忘れない。高いところから黙ってこっちを見ている。
失敗はどこにでも転がっているんだから、その失敗を笑っちゃいけないんだ。誰も転びたくないのに、転びたくなんか無いのに…転びながら生きているのだから…
あなたの横顔は寂しい。自由で、朗らかで、ユーモアたっぷりでこんなに笑顔が似合って可愛いのに…ある時すべてを封印してまるで無かったものにしてしまう。
必要以上に頭を使いすぎて空になる瞬間、あなたは酷く無防備。簡単に傷つけられそう…なのに案外度胸があって、腹が据わっていて誰も近づけない。
あなたは…そういう人…
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