第12話 ちゃんと予定通り憎まれて下さい

その夜邸内では甲高い声で怒鳴り散らすベロニカの声が響きわたった。


「アーサー様がいらっしゃったんでしょ。

私の為にドレスを届けに来てくれたんじゃないの」

「いや、それがなぁ」

「言いたいことがあるなら、ハッキリと言ってください!!

もしかしてお姉様がかすめ取ったんじゃないわよね。

ちょっと、お姉様の所に行ってくるわ」

「ま、待てベロニカ。

アーサー様は、確かにドレスを持ってきたが、

私が買ったドレスを大層気にしてられてだな。

お前ぐらいスタイルが良いと、このドレスが似合うと思ったんだろう」


父親のロイエはそういって私に用意した背中が大きく空いたスカート丈の短い、

紫色の派手なドレスをベロニカに渡した。


「あら素敵なドレスね、確かに貧相なお姉様より私に似合っているわ」

「そうだろう、今日はもう遅いから明日の準備をしてもう寝なさい」

「分かりましたわお父様、明日が楽しみですわ、皆の視線を釘付けね」


ベロニカは満足したのか、邸内は静けさを取り戻した。


珍しくお母様が注意しなかったわね。

自分の為に用意したドレスだと王族に話しをしたからお怒りで放置したのね。


糞親父も爵位没収は嫌だったのか、

必死に嘘を言わない程度にベロニカから私のドレスを守ったみたい。


別に既製品のドレスを明日のパーティー前に用意してくれれば、

アーサーが用意したドレスなんて。

でもドレスに罪はないものね、あの女にこのドレスを渡すのは何でか嫌だわね。


それにしても貧弱で悪かったわね。

その貧弱な私に合わせた布面積の狭いドレスで動き回ったらこぼれるわよ。

確かに皆の視線は釘付けになるだろうけど。


翌日新入生歓迎会の後に、

一度家に帰り準備を終えて玄関を出るとフォーマルスーツを来たアーサーが私を出迎えた。

王子の癖にさり気ない装いも似合うのがムカつく。


「ベロニカはまだ時間が掛かりそうですわよ」

「知ってるよ、ロイエ泊が用意した馬車で後から来るみたいだね。

私達はシルバーが引く馬車で一緒に向かおう」

「嫌だと言ったら?」

「シルバーごめんよ、今日はお前の大好物の人参をあげられないかも知れない」

「ヒヒーン…」


馬車を引く数頭の馬の中で、銀の毛並みの可愛らしい馬と三文芝居をやりだした。

こいつ私が動物に甘々なのを知っていてやってるわよね、たちが悪い。


あとシルバー、絶対既にもう買収されているでしょ、

その潤んだ目で私を見てるのが少し嘘くさいわ。


「分かりました、一緒に行きましょう」

「良かったなシルバー、今日は奮発して山田さんが育てた特性人参をあげるよ」

「ヒ、ヒヒーン、ヒーン」


誰よ、山田さんて。


馬車に揺られ私は仕方無く嫌々で不本意だけど、アーサーにエスコートされて

学園が設置したパーティー会場に入って行った。


王族のアーサーが先に会場入りしてしまうと、

他の令息令嬢達の立場がないので途中時間を少しずらして会場に入った。


アーサーに手を惹かれて入場する私を見て、会場がどよめいた。

最近は、アーサーとの不仲説も流れていたし、珍しく着飾っている私を見て驚いてる様だ。


「糞、ソフィアに嫌らしい目を向けた子息達の顔は覚えたからな」

「何、馬鹿な事をおっしゃっているんです、潰しますよ」

「え、何潰されるの王族存亡の危機なんだけど」

「本当に潰されたくないなら、行ってらっしゃい。

…ちゃんとお待ちしてますから」


私の言葉に満足したのか、満面の笑みを浮かべてアーサーは、

在校生代表の歓迎挨拶をする為に壇上へ向かった。


挨拶が終わって早々にアーサーは私のところに戻ってきた。

「もう良いんですの?」

「ああ今日の主役は新入生だからね、それにあの中に紛れる勇気はないよ」


そう言ったアーサーの目線を追うと、紫色の派手なドレスをビチビチに着ながら、

野次馬に囲まれているベロニカがいた。


こちらに気付いたのか人混みを分けて私達の元に来ようとするベロニカ。


ああ駄目よ、そんなに激しく動いたら、色々な物が溢れてしまいますよ。

あ、上が溢れた、野次馬達の方が更に騒がしくなって、ベロニカも大騒ぎ。


「さてとソフィア、一緒に踊ってくれるかい?」

「まだ音楽も流れてないですわよ」


私がそう答えるとはかった様に音楽が流れ出した。


「ソフィア、私と一緒に踊って下さい」

「…ええ」


図ったわね。

差し出された手を断われる筈もなく、アーサーに手を引かれるまま開場の中央で踊りだす。

アーサーは、腰に回した手で私を引き寄せた。

会場中に黄色い声が響いたが、アーサーは憎らしいほど余裕の笑みを浮かべていた。


・・・良しその喧嘩買ったわ、続けようじゃありませんか


優雅な音楽にあわせて踊る二人。

私は足を少し高めに上げると一気に踏み抜いた。


ダン!

ひょい


ダンダン!!

ひょいひょい


音楽に合わせて太鼓の達人が鳴らす音のような打撃音がする。

本当に無駄に隠れスペックが高いのよね、この男。

視線を私に向けたまま変わらない笑みを浮かべてるアーサーの顔にむかっとした。


「アーサー様は私を受け止めて下さらないのですね、

明日は足が腫れてしまうかも知れません」

「え?」


ダン!

ボキッ


ふっ、油断大敵ね、そんな装備で大丈夫かしら。


私達が最後まで踊りきると、唖然としていた開場にいつしか笑い声が響き、

音楽も少しばかりアップテンポな曲にかわり、誘われる様に皆が踊りだした。


「ソフィアいくら何でも卑怯じゃないかい?」

「勝てば官軍なんです」


あの日、周りの生徒からの軽蔑の眼差しを必死で耐えていた私の横で、

痛そうな足をさすりながらアーサーがブツブツと文句を言っていた。


ーーーーーーー

それから数年後に、とある隣国の第ニ王子と、とある伯爵家の次女が処刑された。

今日私は一人で人を探しに当てもなく歩いていた。


「なんだい、誰か探しているのかい」

「ええ、あなたを探してました」

「あてもなく探して早々にみつかるもんでも無いだろうに、

で、何か用かい」


「ええ、アーサー王子の寿命についてお願いがありまして」

「あのおっぱい星人は、股だけじゃ無くて口も軽いんだね」

「おっぱい星人って良くご存知で、

今回はおっぱい星人の侍女に聞いたんですけどね、出処は同じですね」

「頼みってなんだい、寿命はまからんよ、私も探しものがあるんでね」

「ええ、ですからアーサーの寿命十年分と私の寿命十年分でどうでしょう」


ビシッ


世界にヒビが入った様な音が聞こえた。


「恨みを晴らしたいんじゃ無かったのかい?」

「よくご存知で、その通りですわ。

でもあふれるばかりの悲しみと絶望と、、想いを伝えるのに思ったより時間が掛かりそうでして、

長期戦にしようかと思いまして」


「ふん、勝手にしな、寿命は二人ともいらないよ」

「良いんですの?」

「ええ、探し物が見つかりましたので。

それにこれ以上は付き合いきれませんわ」


そう言ってフードをおろし振り向いた彼女に首はついて無かった。

その代わりと言ってはなんだけど、両手で大事そうに私の首を支えていた。

私は全てを悟った。


「許してくれるの?」

「私が私を許すって変じゃない? それに納得したみたいですし」


確かに彼女が支えている私の顔の瞳は、あの日のように見開いたままではなく、

優しげにまぶたを閉じていた。


「ありがとう」

「今度こそせいぜい想いを伝えなさい、

悲しみも絶望も愛情も、そして出来るなら幸せになってね」


彼女はそう言い残すといつの間にかいなくなり、私一人が立っていた。


今日、アーサーのプロポーズに答えないと。

言い逃げは許しませんよ。


ちゃんと予定通り憎まれて下さい、

そうしたらたまにだけど、愛に答えてあげるから。


もう割れた壺の破片を集める者はいない、

二人にとって大切な想いとなったのだから。





ーーーーーーーーー

ご愛読ありがとうございました、本話にて完結です。

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ちゃんと予定通り憎まれて下さい。 〜ループした私は王子に復讐したいのに溺愛してくる 忠野雪仁 @yukihito_tadano

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