第3話 感じる違和感

私は前回の人生と同じ様に屋敷の応接室でアーサーを出迎える事にした。

正直あの男と同じ部屋になど居たくないので庭にテーブルでも用意して対応したかったが

前回の人生と違う行動を取るとどんなに展開になるのか分からないので

いやいやだったけど前回と同じ様に対応する事にした。


しばらく待っていると侍女に伴ってアーサーは応接室に入ってきた。


「アーサー第一王子殿下、本日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます。」


前と同じ様に前とは全く違って愛おしと思っていない私は丁寧にお辞儀をして挨拶をした。


この後にこの男はベロニカがいない事に腹を立て、物凄く不快な顔をしたんだっけ。


「そんなかしこまった挨拶は不要だよ、君に会える今日この日がどんなに楽しみだったか」

「もうし訳ございません、アーサー第一王子殿下様、

あいにく妹のベロニカは所用で本日は留守にしておりまして」


まあ男との相引きも所用と言えば所用よね、嘘は言っていないわ


「うん?」

「はい?」

「私は別にソフィア嬢の妹君の話しはしていないのだけど?」


何をおっしゃっているのですか王子様。

確かに私に妹のベロニカの所在と帰宅時間を聞いて、

さも不満げな態度を・・・言って無いし取ってもないわね今回は。


「確かにおっしゃるとおりですね、申し訳ございません」


私は前回と違う対応など取っていない

それどころかまだ初めの挨拶をしただけ・・・


あ、服か服を変えてしまった。

いつもと違う装いに醜い女相手でも悪しざまな言葉は避けたのね。

しまった、やってしまった、とは言えたかがドレスと化粧の雰囲気がいつもと少し違うくらいの誤差だ。


「本日はどの様なご用件で」

「ああ、君に私の婚約者になって欲しい、浮気もしない一生君一人を愛する事を誓うよ。」

「まあ嬉しいもちろんお受けしますわ、

妹より貧相な体付きで国王陛下に言われていやいや婚約して下さるなんて恐悦至極でございます。」


「言った?私は君にそんな事言ったかな?」

「ええ、確かに言っておりませんね!!申し訳ございません!!」

「何でちょっと君がきれぎみ何だよ!!

もういいよ、言質は取ったからね。

婚約の申し出は受けて貰えたという事で父上に報告するよ」


何でちょっと私が悪物テースト何ですか。

確かに言ってませんよ今回は、ちゃんと言って下さいよ、こっちも予定があるんです。


「今日は君の好きな店のクッキーの新作が出たから持ってきたんだ。」

「ありがとうございます、私の好きな店のクッキーに丹念に一つずつ雑巾の絞り汁を塗って下さったやつですね」


「どこのサイコさんだ!!

好きな女性にわざわざそんな事する訳ないだろ。


もういいよ、君が指定したクッキーを私がこの場で食べるから、

その後君にも食べてもらうよ。

このまま置いていったら帰った直後にゴミ箱に捨てられそうだ」


ふふ、食べられるものなら食べてごらんなさいなサイコさん。


以前も当日には教えて下さらなかったけど、

婚約破棄後にさも楽しいそうにお話して下さったでは無いですか。


ああでも、好きな女性にではなく、

顔も見たくない女性に食べさせるのですからサイコさんでは無いか。


だが意外にも彼は私が指定したクッキーを躊躇わずに食べた。


「うん、素朴ながらしっかりとバターの味が効いていて美味しいね。

じゃあ約束通り。」


彼はそう言ってクッキーを一つ摘んで美味しそうに食べた後に

クッキーを一つ摘んで私の口の前に運んできた。


「・・・自分で食べられます。」

「あのね君は仮にも王子の私に酷いこと言った挙句に

王族に毒味をさせるなんて斬新な態度をとったんだよ、逆らえるとでも?」


パクリ

私は観念してクッキーを食べた、悔しいがとても美味しかった。


「どう、美味しいでしょ?」

「・・・雑巾の絞り汁の味はしませんね、大当たりでした。」

「・・・良しその喧嘩買った、続けようじゃ無いか。」

「良いでしょう、その代わりにアーサー第一王子殿下も外れたらちゃんと申告してくださいね!!」

「分かったよ、ハズレなんて無いけどね、チョット泣きそうだけどね」


そう言って、ロシアンルーレットという名の、

ただの馬鹿ップルの様な食べさせっこは最後まで続いた。


ハズレは、無かった様だ。

今回はこれくらいにしといてあげる、勝ったと思わないでくださいね。


心からお慕いしていた私と、私をゴミの様に捨てた貴方

心から憎んでいる私と、私を大切だと言ってくる貴方


でももう騙されない、あの時の絶望があの時の苦しみが消え去る事は無いのだから。

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