土地神様と万聖の夜
本編とは関係ない番外編、ハロウィンの巻(遅刻)です。
時系列やそれぞれの呼び方等はあまり細かく考えぬが吉。
―――――――――――――――
「と、とりっくおあとりいと!」
10月31日、金曜日。
神社を訪れたセキくんとサラちゃんに対して、私は昨日教えられた通りに言葉を放った。
「はいどうぞ。チョコ饅頭です」
「ワタシからも、ハイ!」
「二人とも、ありがとう!」
二人からそれぞれ小さな包みを受け取り、お礼を言う。
一週間程前、十月末はハロウィンという外国のお祭りがある日なのだとサラちゃんから教わった。どうやら日本では仮装を楽しむ日となっているそうで、その話をした次の日には私の分の衣装が届けられていたのだ。
そして今、私はその服を着たまま境内でお役目を果たしているというわけである。
「それにしても……神社にハロウィン仕様の魔女服ってのはなかなか奇抜ですね」
「そう? 似合ってるしイイんじゃないカナ」
「へへ、恐縮恐縮……」
「……まあキリさんが納得してるならいいか」
セキくんはきっと「神様らしくはない」と言いたいのだろう。まあそこは私も自覚があるので何も言うまい。
そんなことよりも褒められた事が嬉しいので今はそっちに気を取られておこう。
「これなら明日のHalloween Partyも心配ないネ!」
「あ、それ明日着る衣装なんですね」
二人の話している通り、フキザキくんやイザクラちゃん達と一緒にハロウィンパーティ(という名のカラオケ)へと明日赴く予定なのだ。
そこでそれぞれが仮装をすることになっており、今着ているこの衣装が活躍するのは本来明日の話なのである。
「そうなんよー。でもはろいんの当日は今日なんじゃろ? 折角じゃけ着てみたんよ」
「なるほどね。……んじゃ、寒いですしとりあえずサラん家行きましょうか」
「Let's Go Go〜……ってアレ? キリチャン行かないノ?」
先を行く二人を前に、私は立ち止まって告げる。
「うん。ちょっとやりたい事があるから先に帰っとってええよ」
少し話をした後、サラちゃんやセキさんに誘われる形で榎園家へ帰宅をする……というのが最近のお決まりだ。
けれど……今日はまだしたいことがあったので、少しだけ居残りをする事にした。
境内から出ていく二人を見送ると、しばらくしてから階段に座った。そのまま暗くなった空を眺める。
すっかり秋も深まり、冬が顔を覗かせてる季節になってきた。空だってもうこんなにすぐ暗くなるし、季節が巡るのは早いものだ。
「もう半年、かぁ」
すっかり愛読書となった薄い本を取り出し、呟いた。
この本を拾って、セキくんやサラちゃん、色んな人と会って、色んなことがあって楽しかったし嬉しかった。
でも一番嬉しかったのは……あの人にまた会えたことかな? なんて――
「やっほゥ、キリ」
「うっひゃあ!」
思い出に浸っていると、前から突然聞き慣れた声がして驚いてしまった。
上を向いて確認するとそこには……たった今思い浮かべていた布に包まれた顔、マトイが立っていた。
「ま、マトイ。驚かさんといて……」
「いや普通に声掛けながら来たんだけど」
あ、そうなの? ごめん。
……はっ! そうじゃなくて……。
「ま、マトイっ」
「どうした?」
おずおずと両手を広げ、口を開く。
そう、やりたい事とは……マトイにハロウィンのあの言葉を掛けることだった。
明日のハロウィンパーティにマトイは用事があって来られないのだという。
なればこそ、せめてハロウィン当日には少しくらい一緒に楽しみたかったのだ。
なので今日この時、この神社に来るように言っていたのである。
そんな想いもあって、ハロウィンの掛け声を口に出す――
――つもりだったのだが。
「――とりっくおあ……」
「Trick or Treat」
なんと、台詞を被せてきた。
割と流暢な英語で。
「な、何ぃ!?」
「ハッハッハッ、さァキリ。菓子を出すか悪戯を受け入れるか選びな」
な、なんということだ。まさかマトイから先制されてしまうとは。
そういえばマトイは顔中に布を巻いている。大怪我を負った人の仮装ってこと!?(※違います)
流石に想定外すぎて、お菓子は用意してな……あ。
「そういえばさっき二人に貰ったお菓子が……」
「ン? サラとセキに貰ったやつならノーカンね」
「えっ」
「さっきそこでオレも貰ったから。ていうか貰ったのはアンタなんだからアンタのモンだし、横流しは無しだろ」
なんと。ハロウィンのやり取りにそんな規定があったとは。
どうしよう。そうなるとあげられるお菓子がない。
「他にないなら悪戯を決行するぞー」
……仕方ない。悪戯を受け入れるとしよう。
マトイなら変なことはしないだろうし……しないよね?
「へ、変な事はせんでね?」
「任せろ。ちょっと目ェ瞑ってね」
言われるがままに目を瞑って、そのまま待つ。
な、何されるんだろう。マトイは紳士的だし、本当に変な事はしないだろうけど……。
『甘いわね、キリ』
『Wishful ダネ、キリチャン』
はっ! あ、貴女達は――
――私の脳内イメージのイザクラちゃん&サラちゃん!!
『暗い夜、二人きり。こんな状況で悪戯と言ったら……ねえ?』
『オトコはWolfと日本の言葉にもあるし……ネェ?』
た、たしかに……。ってアレ? そういえばマトイの性別ってよく分かってなかったような
『こまけえこたいいのよ』
いいんですか。
くっ、しかしそう考えるとなんでも受け入れられてしまいそうだ。
『ソレでいいのダヨ。全てを受け入れるのダヨキリチャン……』
え、榎園先生……!
分かりました。私、がんばります!!
(※上記の会話はキリによる脳内イメージであり、本来のキャラクター性とは異なる場合がございます)
「はい。目ェ開けていいよ」
マトイに声を掛けられ、現実に戻ってきた。
……なんか今、変な幻覚のようなものを見てしまったような。気のせいだろうか。
それはともかく、言われた通りに目を開けると……私の肩に上着が掛けられていた。
「これって、マトイの……?」
「この時期だと寒いでしょ? はい悪戯終了さっさと帰ンぞー」
「おわーっ!?」
マトイは子どもを諭すような物言いをしてから、米でも担ぐかのように持ち上げられた。突然の行動に思わず声を上げてしまった。
い、悪戯ってこういうことかぁ……。
でも、悪くはない……かも?
ちょっとだけ、ほんの少しだけニヤニヤしながらそのまま身体を預け、神社を後にするのだった。
〇〇〇
「マトチャン、またねー」
「じゃァねー」
「あ、私見送りしてくるね」
神社から降りて榎園家に着くと、セキくんの姿は既に無く帰った後のようだった。
マトイも榎園家の玄関で少しだけお話をしてからすぐにお別れという流れになり、着替えてからすぐに見送りをすることになった。
そうしてマトイの後ろについて行こうとして、気が付いたことがある。
(そういえば……衣装の感想聞いてなかった!)
そう、そうなのだ。
そんな機会が無かったのもあるけど、私の仮装について何も言われていない気がする。せっかくマトイに見てもらうためにこっそりと気合を入れたというのに、だ。
き、訊いてみたい……。
意識するとすごく気になってしまう。
いやしかし、既に着替えた後だし今更こちらから訊くのは憚られるというもの。
マトイには神通力が効かないから心を読むこともできないし……どうしよう。
「あ、そうだ。コレ」
と、頭を回していると小さな包みを手渡された。
中身をたしかめてみると……あっ、バターケーキ!
「それ好きでしょ? さっき驚かせたお詫び」
……ちゃんと用意してたんだ。
「……ありがと」
……ずるい。
好物で釣るなんて狡過ぎる。
まあ、自分の好物が覚えられていただけでこうして舞い上がっている私も私なんだけど……。
「ハッピーハロウィーン、キリ。さっきの衣装似合ってたよ」
そう言って頭を撫でると、「またな」と言い残してマトイは去っていった。
「……本当に、狡い」
最後に私の欲しい言葉を残していくなんて。
ああ、顔が熱くなって仕様がない。
秋も深まり冷えてきた夜風で顔を冷ますように、空を見上げる。
万聖節の夜はいつもより星が煌めいて見えた。
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