第2話 魔人国
綺麗な女の人は頭を下げた。
「カテル様はお記憶がまだ不完全なご様子ですね。私の名前はミラーン・フエルーノ。カテル様の従順な
明らかに僕より年上の人なんだよね。僕と言われてもどう対応していいのやら。
「じゃあさ、ミラーンさん。教えて欲しいことがあるのだけど?」
「ただミラーンとお呼びくださいませ」
「年上を呼び捨てなんて無理だよ」
「あなた様は魔王なのでございます。我々は下僕にすぎません。ここに存在する全ての者はあなた様を崇拝する者。周りに示しがつきませんので、どうか呼び捨てでお呼びください」
そういうもんなのかな。
まぁいいや。んじゃ、
「ミラーン。教えて欲しいんだけどさ」
「はい。なんなりと」
「僕はどうしたら良いの?」
「この国を発展させていただけると助かります」
「発展? えーーと魔人国、だったかな?」
「はい。魔人国アシュランダーはあなた様がお作りになった国なのでございます」
全く記憶にないけど、前世の僕が作ったのか……。
「僕がいない間はどうしていたの?」
「カテル様が異世界にお出かけになられて1300年。その間にカテル様の跡を継いで1万の魔人が代役を勤めました。現在は私が指揮をとっております」
え?
「せ、1300年!?」
「はい。それくらいになるかと」
「ず、随分と長いお出かけなんだね」
「何度も転生を繰り返して楽しんでおられるご様子でした」
「その間に帰らなかったの?」
「そのようです」
「そ、その間。ずっと待っていたの?」
「はい。お待ちしておりました」
「…………」
なんだかいじらしいな。
僕の記憶がないのは申し訳なくなるよ。
「ごめんね。なんか思い出せなくて」
「構いません。戻って来ていただけただけでも嬉しゅうございますから」
周囲は騒ついた。
「私も魔王様が戻ってくれただけで嬉しいです!」
「俺も!」
「わしもですじゃ!」
「魔王様! 戻って来てくれてありがとうございます!」
なんだか魔王様だった僕は慕われてるんだな。
「それじゃあ、魔人国の発展はどうやるのかな?」
「大陸の統一。まずは隣国の進軍を防ぐことにあります」
それって……。
「戦争してるの?」
「はい。この世界は種族争いが激しいのでございます」
えーーと。
「やっぱり人間……。人族に攻撃されてるんだよね?」
「そうですね。しかし、人族とはまだ穏やかな方です。なにせ大陸間で距離がありますからね」
ん?
「じゃあ、どんな存在と戦ってるの?」
「砂人族、火人族、獣人族、竜人族。その他、多種多様に種族が別れております」
へぇ……。
確か、
「ミラーンは魔人って言ってたよね?」
「はい。私たちは魔人族でございます」
じゃあ、
「僕は魔人族の王……」
「はい。魔王アシュランダー様が転生をしたお姿。魔王カテル様でございます」
僕が魔王……。
なりたい職業ではさ。
冒険者だったんだけど……。
まさか魔王になっちゃうとはね。
どっちかっていうと冒険者の敵役だよな。
それに……。
「魔人族ってタイプが多すぎない? みんな形が違うというか」
明らかにドラゴンって見た目のヤツがいるしな。
「種族の混合が我が魔人族なのです」
「じゃあどうやって見分けるのさ?」
「胸に燃える青い炎でございます。あなた様に契約を誓った証」
すると、ミラーンの胸の前に青い炎が浮かび上がった。
まるで、魂のような青い火の玉。
その炎は、その場にいる全員から見えた。
そして、僕の額にも、
「うわ! 何これ!?」
「それこそが王の証。魔人炎でございます」
「ほぇ〜〜」
僕が魔人の王……。
突然、骸骨の騎士が部屋に入ってきた。
「大変でございます! 砂人族の襲撃に我が国の前軍が突破されました!」
えええ!?
「なんか大変そうだね?」
「はい。アシュランダーの領土が砂人族によって侵食されているのでございます」
ミラーンは巨大な水晶に向かって両手を広げた。
「ミラーン!」
名前が魔法の詠唱になっているのだろう。
その言葉に連動して水晶に風景が映る。
そこには砂の人形が骸骨の戦士を倒しまくる映像が映っていた。
いずれも愛らしい容姿である。背丈は僕の腰より下のようだ。
骸骨の戦士が倒れる瞬間。青い炎が消える。
もしかして、
「あの骸骨が魔人軍?」
「そうです。
「かいらい?」
「魔力で操られている人形のことでございます」
「人形で戦っているの?」
「はい。種族幹部が互いの命を賭けるのは侵略の最終段階でございます」
へぇ……。それは被害が少なくて効率的だな。
水晶からわずかな音声が聞こえてくる。
『スナスナ!』
『マジ! マジマジ!!』
小さな人形がポカポカと戦っている。
なんだか可愛いな。
「じゃあ、ゲームみたいな感覚だね」
「そうも言っていられません。前軍が突破された今。砂人族の侵略は勢いを増しております。次期にこの魔王城にもやってくるでしょう。そうなれば我々の命はありません」
「ええええええ!? ピンチじゃないですか!?」
「はい。ですから。カテル様のご帰還が嬉しいのでございます」
そう言われてもな。
「僕に力なんてないし……」
「
「何それ?」
「魔王様のお力でございます」
そんな強そうな力があるのか……。でも、そんな力は使えそうもないよ。僕は普通の人間なんだよね。
「ごめん。無理だと思う」
「まだお目覚めになっていないのですね。ですが構いません。それがカテル様のお考えなら何も問題はありませんので」
従順だなぁ。
そうなると僕の知識だけが攻略の鍵となるのか。
「戦況を教えてくれるかな?」
「はい。サンドマンは砂の傀儡。よって打撃や斬撃が通じません」
「無敵じゃないか」
「いえ。水に弱いのです。水を掛ければ砂は固まり打撃が通じます」
「へぇ……。じゃあ水責めできればいいよね。水道からホースでドバーッとさ」
「ほーす で どばーー でございますか??」
ああ、ホースがわかんないのか。
この城を見る限り、中世ヨーロッパみたいな雰囲気だもんね。
蛇口を捻って出てくる水道とかもなさそうだよな。
じゃあ、シンプルに水の攻撃か……。
あ!
「水魔法とかは?」
「はい。それが最も効果的かと」
「ああ。だったら手はあるんだね」
「はい。ガイコッツには魔法使いタイプもおりますので」
良かった。無事解決だな。
「ところが、最近、砂人国のスナ女王が魔力封印の魔法を習得してしまったのです」
「ええ!?」
「魔力封印魔法は範囲魔法です。半径1キロメートルは魔法が使えません。よって、戦地での水魔法は使えなくなってしまったのです」
「それで劣勢なのか」
「はい。水魔法が使えなくなったガイコッツは効果の薄い斬撃で応戦するのですが、ことごとくサンドマンにやられているのでございます」
「それは大ピンチだね」
「このままでは魔人国は滅んでしまいます」
とんでもない時に来てしまったな。
そんな時だ。
「
魔法陣から聞こえて来たのは母さんの声。
「あ……」
魔人国が大変だっていうのにぃ。
「どうぞ。行って来てくださいませ」
「ええ!? いいの?」
「はい。カテル様のご意志にお任せいたします」
それは笑顔の返答だった。
本当に、心からの笑顔。
嫌味も妬みもない。素直な笑顔。
「で、でもさ。今、ピンチなんだよね?」
「はい……。もしも、私の力が及ばず、この国が滅んでしまったら申し訳ありません」
えええ……。
達観してるなぁ。
「滅びたく……。ないよね?」
「勿論です。ですが、カテル様がそれをお望みならば私たちはその道を選びます」
ええええええええ!?
「死ぬってことぉ?」
「はい」
「はいってぇえええ!!」
場にいる者たちは、僕のことを優しい眼差しで見つめていた。
そ、そんな目で見るなよぉ。
買い物と魔人国の危機。
その選択が僕に委ねられているというのか……。
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