第2話 欠陥チートの目覚め
村で平凡な日々を過ごしていたある日、天気の良い日だからと、母は半ば無理矢理外にいる子ども達と遊ばせるようにした。
(まぁ、たまにならいっか……)
そう諦めると、村の子ども達に混じって遊ぶことにしたのだ。会話こそこそしなかったが、表情だけでもコミュニケーションはできた。
一通り遊び終えたと思えば、子ども達はまだまだ元気そうだった。体力おばけかと思うほど彼らは楽しそうで、次は何をするかと話をしていた。
新しい遊びを始める彼らを見ながら、抜けられそうにない空気を感じて、ため息混じりにぼそりと呟いた。
「遊ぶのは疲れる……」
子ども達と遊ぶのは、私にとっては疲れてしまう。そんな意味で呟いただけなのに。
呟いたその瞬間、目の前で遊んでいた子ども達から笑顔が消えたのだ。
(……え?)
足取りが重くなり、一気に元気を無くした彼らは、突然今日は終わりにしようと言い始めた。
その姿はまるで、疲労に襲われたようだった。
衝撃を受けながらも家に帰ったが、一目散に自室にこもるとなぜか私は自分の口を塞いでいた。
今までずっと、声を出すのに謎の抵抗があった。それはきっと記憶を思い出して、精神年齢が体に合わなくなって戸惑っていることが原因だと思っていたのだ。
けれど。さっきの出来事が脳裏に焼き付いて離れない。でもたった一度のこと。それだけで確信はできない。そう思って、恐る恐る声に出して確認をし始めたーー。
一年かけて試した結果、わかったのは自分には本当にチートが付与されていること。
どうやら私は言ったことが何でも実現する、まさにチートの能力を付けられたようだった。
だがこの能力、発動条件などなく、喋ったこと全てが力として発揮されてしまうものだった。それだけでなく、言葉の意味合いの判定は難しく、私の意思や考えは関係ない能力だった。
雨降れ、晴れろみたいな、一つしか意味がないものは問題ない。けど、さっきみたいに別の意味でも捉えられるものは、勝手に判断されておかしな方へいってしまうことがわかった。
(なにこの欠陥チート!)
発動条件は皆無、判定は怪しく、思いどおりに操ることなど決して不可能。こんな能力、いくらチートとはいえ何の役にもたたない。
(役立つとか嘘じゃない……あの自称神)
そう思うと、レビノレアとか言う自称神への怒りが沸き起こってきた。
そして自分は騙されたことを理解した。私を転生させたかった意図など知るよしもないが、こんな生きにくいチートを付与されたせいで、私は気軽に喋ることもできなくなった。
もちろん大丈夫な言葉もあるはず。だから、気を付けながら生きれば良いと落胆した自分を慰めた。
それもつかの間の出来事で、村を訪れた大神官によって、私は聖力がこれ以上ないほど強いことが判明してしまった。
(これもいらない特典でしょ!)
そう自棄になりながらも、聖女に祭り上げられたのはあっという間の出来事だった。
この世界は異世界だが、魔法は存在しない。しかしその代わりに聖力は存在するため、それを使える神官や大神官がいる神殿が権力を持っているのは納得ができた。
その聖なる力を使ったのか、両親と村からは私と言う記憶が消えた。大神官は私にも記憶の整理をしたのだろうが、あいにくその力は効かなかった。
もちろん、効いているフリはしたけど。
神殿側の都合はよくわからないけど、離れてしまって悲しいというより、両親を傷付ける可能性がなくなったと安堵をしていた。
でも自分のチートを神殿の人間に知られる訳にもいかず、どうするか悩むことになった。私は神殿が、信用できる場所に思えなかったのだ。
というのも、神殿に連れていかれた私は、ある事実を知ってしまった。彼らが信仰する神が、この世界の創造神レビノレアという神だということを。
(あの嘘つきの自称神じゃない……!!)
不信感がどうしても拭えず、自分の力をどうしていいかわからなくなった私は、喋ることを諦めることにした。
けど結局は、村の子ども達から一瞬で笑顔が消えたあの日の記憶が、トラウマになっていたのだ。それ以来、自分の能力に関して確認はしたものの、最低限喋らないようにしていた。誰の前でも喋らず、寡黙な人間だと認知されていた。
(特に両親の前なんて、危害が及びそうで声を出すことができなかった)
父が寡黙だったこともあり、私が喋らないのを父に似たと判断した両親は、話さないことを何も不思議に思わなかった。
反応はするし、何せまだ六歳児だったことも大きな理由だろう。
ということで、私は神殿に自分は生まれつき喋れない人間だと、文字におこして伝えた。これも転生特典か知らないが、文字の読み書きは既に完璧だった。
始めはそれを、神の思し召しだと喜んでいた神殿の人間達も、喋れないことを知ると、態度が大きく変わった。
曰く、聖女とは神聖な存在で話せないのは欠陥、と言うことのようで。
(欠陥は貴方達が信仰する神によって押し付けられた、この最悪すぎるチートですが!?)
そう反論することもできないため、しぶしぶ胸の奥へと飲み込むことになった。
しかし、私が喋れないことを伝えた頃には、既に神殿が聖女の存在を発表した後だった。焦った神殿は発言を取り消すこともできず、私をお飾りの聖女にすることに決めた。
きっと何らかの力が目覚める、そう一抹の願いにかけたのかもしれない。
だが残念なことに、チートを使わない私は聖力だけは持っている、何もできない人間になるだけ。
欠陥がある上に無能な聖女など、本当にただのお飾りな聖女でしかない。しかし神殿は発言を取り消すことができない。
ということで、私は国で一番大きく、王都にあるこの教会で奉仕をすることになったのだった。
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