5「若者たち」とおじさん、の巻
「カタヒラさん、こちらが今月分の領収書になります。処理の方
若い上司はその様子を興味深そうに見ている。
この若い上司の名前は『カリメル』という。毛量の多い金髪を真ん中できっちり分けたなかなかのハンサムさんだ。背もスラッとして高く、
「…カタヒラさんが、【
と、若い上司は言ってくれた。
【
この世界では、自分の瞳に『魔力を通す』ことで刻印を解読できるだけでも就職に有利に働き、さらに、刻印を刻む技術を持つ者は今後30年は職にあぶれない、と言われている。
若い頃のわたしなら、上司からこういう風に言われたら『自分は見込まれている!』と勘違いしてホイホイ言うことを聞いていただろう。
しかし、今のわたしは『おじさん』になってしまっている。上司の甘い言葉に乗せられて、今よりもキツイ仕事をさせられそうな状況に、そんなやすやすと自分を追い込む気はサラサラないのだ。
わたしは、若い上司に
「……魔法ね。アレは体に合わなくてね。使ったあと体がだるくなるし、腰とか肩も痛くなるし、刻印を見ると目がチカチカするし。あと【魔力コンソール】っていうの?アレを
わたしは【
若い上司(たしか27歳と言っていたか)は、わたしから向けられた『曖昧な笑顔』にあまり
しかし、すぐに気を取り直して、
「…気が変わったなら、いつでも言ってください。【
と、言って笑いながらわたしから表を受け取り、自分の机に戻っていった。
カリメル君が浮かべたのは、ほんとうに混じりっけのないただの『笑顔』だった。日本の会社内では当たり前に行われる『腹芸』に慣れすぎているわたしには、カリメル君の混じりっけのない笑顔を見ているとなんだか少しつらい。なんだか腹芸を使う自分の方が若者を
……そういえば、わたしを助けてくれた『あの娘達』も同じような混じりっけのない表情をしてたっけ……
自分の席に戻る若い上司の背中を見送りながら、わたしは一年前に『この世界』に初めて来た時のことを思い出していた。
続く…
≈≈≈
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