絶滅種を救い出せ! 〜ぼくらの異世界冒険記〜

矢口愛留

第1話 大神神社のオオカミさん


 僕は汀間ていま遥斗はると、12歳。田舎町の中学校に通っている、男子学生だ。

 顔も体型も、可もなく不可もなく。これといった特徴のない、普通の地味な中学生である。


 中学校に入学してから三ヶ月。期末テストも今日で終わって、もうすぐ夏休み。

 みんなは夏休みにどこに行くの、何をするのと浮かれているが、僕はどうせ補習に引っかかるだろうし、一緒に遊ぶ友達もいない。


 親も忙しくて、もうずっと帰って来ていない。

 どこかに連れてってくれるだろうなんて期待は皆無かいむだ。

 ――昔はよく、動物園や水族館に連れてってくれたんだけどな。


「はーるとっ」


 一人でいそいそと帰り支度をしていると、同級生の女の子が僕に話しかけてきた。

 振り返らなくても分かる、僕に話しかけてくれるような子は一人しかいない。


「何か用、大神おおかみさん」


 僕が振り返らずに教科書をカバンに詰めていると、視界をさえぎるように、目の前に大神おおかみさんの顔が現れる。

 大神おおかみミコは、癖のある栗毛をツインテールにした美少女だ。

 こげ茶色の大きな目にぽてっとした唇。頬はほんのりピンク色。

 偏差値へんさちの高い顔面が急に目の前に現れて、不本意にも僕はドキッとしてしまった。


大神おおかみさんじゃないでしょ? ミコって呼んでほしいっていつも言ってるよね?」


「いや、だってほら……」


 僕が辺りを見回すと、予想通りクラス中の視線がこちらに集まっていた。

 彼女は可愛いし、僕と違って運動神経も抜群ばつぐんの人気者なのだが、一匹狼いっぴきおおかみで基本的に誰ともつるまない。

 なのに、クラスで孤立しているとことん地味な僕にだけ、何故か仲良さげに話しかけてくるのだ。


「ミコさん、僕、目立つのはごめんなんだけど……」


「まあまあ、それより今日、うちの神社に寄って行かない? どーせ暇でしょ?」


 僕がぼそぼそと小声で返答するも、ミコは無視して普通に話を続けてくる。

 神社というのは、ミコが巫女みこをつとめる大神おおかみ神社のことだ。

 大神おおかみ神社の巫女みこの、大神おおかみミコ……あまりにもストレートすぎる名だが、これにはちゃんと理由わけがある。


遥斗はると、もしかして忙しいの? えーっ、ミコ、困っちゃう」


 大して困ってなさそうに身をくねくねさせるミコに、僕はたじろいだ。

 変な風に誤解されたらどうするつもりだ。


「いや、その、忙しく、ないです」


「じゃあ決まりねっ! 先に帰ったら許さないんだからねっ」


 僕が慌てて返答すると、ミコはビシッと僕に指を突きつけて、自分の席に戻って行った。




 ミコは、しばらく前にこの学校に転入してきた、転校生だ。

 彼女はそれまで、この世界に存在しなかった少女――大神おおかみミコは、僕がこの世界に干渉かんしょうしたことで生まれた存在なのである。


 詳しいことは省くが、ミコの正体は、僕が江戸時代にタイムスリップして助けたニホンオオカミが神格化しんかくかした存在だ。

 何を言ってるか分からないと思うが、とにかく、ミコは人間ではなく神様なのである。


 それから、僕には特殊な能力がある。

 『アニマルテイマー』すなわち『動物使い』の能力だ。

 ミコを助ける前――つまり力を取り戻す前の神様が、残っていた神通力じんつうりきの全てを注ぎ込んでこの能力を授けてくれた。

 何を言ってるか分からないと思うが、とにかく、僕は動物たちと完璧に意思疎通いしそつうすることが出来るのである。



 ホームルームが終わり、僕たちは肩を並べて大神おおかみ神社に向かう。

 肩を並べてと言ったが、僕は自転車、ミコは徒歩だ。

 そして、ミコは普通に自転車を漕いでいる僕と同じスピードで、雑談をしながら平気な顔をして歩いている。

 田舎なので人とすれ違うこともないが、もし誰かが見ていたら思わずほっぺたをツネる案件である。


「それでね、遥斗はると。突然なんだけど、最近、うちの神社の神域しんいきが異世界に繋がってるみたいなんだよね」


「……異世界? また江戸時代じゃないの?」


「それがどうやら違うみたいなのよ。うちのたちの話では、剣や盾を持って鎧を着た人間がウロウロしてるとか、手から火の玉や氷のつぶてを出す尖った耳の人間がいるとか、おっきなトカゲが空を飛んでるとか」


「やっば! なにそれガチ異世界じゃん!」


 ゲーム大好きな僕は、ミコの話を聞いて一瞬でテンションが爆上がりしてしまった。

 また江戸時代だったら正直勘弁と思っていたが、ガチ異世界なら行ってもいい。いや、ぜひとも行ってみたい。


「それでね、そんな所と繋がってるの、気味が悪いでしょ? だからゲートが完全に開く満月の夜に、向こうの世界に行って調査してみたいなーと思ってるんだけど、遥斗はるとも手伝っ――」 


「行く! 行く行く! 行かせて下さい!!」


 こうして僕は、異世界の調査を前向きに検討させていただくことになったのである。



☆*:.。. ★ .。.:*☆


 この短編は、長編化時に第二章にあたる部分です(全五話)。

 ミコとの出会いのお話は、長編化した際に第一章として書くつもりです。

 詳しくはあらすじにて!

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