第176話 最終話
エドソンとアン姉ちゃんの試合が終わり、1時間くらいのクールタイムを置いて、エドソンとナナによる決勝戦が始まる。
のだが……
メイン試合会場に立つエドソンが、何故か号泣している。
「ウオォォォォォォォォ~ン」
これには、決勝の対戦相手のナナも、決勝戦を楽しみにしてた観客達も、思いっきり引いてしまう。
だって、訳わかんないんだもん。
「エドソンよ……もうそろそろ、決勝戦を始めたいのじゃが……」
目立ちたがり屋で、決勝戦の審判をしゃしゃり出ていたアレキサンダーくんが、エドソンにお伺いを立てる。
「ウオォォォォォォォォ~ン!」
だけれども、エドソンの号泣は止まらない。
益々、激しく泣きじゃくってるし。
アレキサンダー君も、エドソンが泣き止むまで待とうと思ってたようだが、時間もあるので、仕方が無く、決勝戦開始を宣言する。
「大戦の英雄エドソン・グラスホッパーと、ハツカ・ナナ・グラスホッパーとの決勝戦を開始する!」
「ウオォォォォォォォォォォォ~ン!」
エドソンは、アレキサンダーくんの決勝戦開始の宣言を聞いて、益々、泣き叫ぶ始末。
「あの……私、攻撃しちゃっていいんですか?」
これには、対戦相手のナナも困ってしまって、審判であるアレキサンダー君に質問する。
「構わん! 既に、試合は始まっておるのでな!エドソンの奴が泣いてるのは、多分、個人的なものじゃろう。
だが、今は、カララム王国剣術祭決勝!
誰しも、体調を整え、万全な状態で臨むもの!
それが、出来なかったエドソンに、全ての非がある!
躊躇無く、倒してしまえばいい!」
アレキサンダー君は言い切る。
「じゃあ……私も、この試合に勝たなくちゃいけないので、全力で行きます!」
ナナは、準決勝と同じく、二刀流で行くようだ。
「グフ……待て! お前とは戦えん!」
ずっと、泣きじゃくっていたエドソンが、ナナを突然制止する。
「無理です! 私はお義父さんの為に、この大会で優勝しなくてはならないのです!」
「
なんか、エドソンは、お父さんという言葉に反応したようだ。
「グスッ。悪かった……奴は、俺を守って死んじまったんだ。本当に悪かったと思ってる……」
エドソンは、深く深く、ナナに頭を下げる。
「えっと……なんの話でしょう……私のお義父さんは死んでませんが?」
ナナは困惑しながら、上空を見る。
そう。俺が作った大森林の木刀まで持ってるナナは、完全に俺の事が見えているのである。
「ヨナンの事じゃねえ。お前の本当の父親の事だ……」
エドソンは、言い直す。
「本当の父親って……貴方は、私の事を知ってるんですか?」
「ん? お前、ヨナンから何も聞いてないのか?
というか、俺も何も聞いてないけど……
てっきり、お前が見つかったので、ヨナンは、お前を養女にしたんだと思ったんだが?」
『ご主人様! 大変ですよ! エドソンさんが、ナナさんの事に気付いてしまいましたよ!』
これには、鑑定スキルが、物凄く慌ててしまう。
「しまったな……鈍感なエドソンなら、絶対に気付かないと思ってたのに……」
まさかの自体に、俺は、鑑定スキル同様に、動揺してしまう。
まさか、こんな所で、エドソンが、俺とナナが実の兄妹という事を、バラすとは思ってもみなかったのだ。
というか、全く、心の準備も出来てないし……
「あの……どういう事なんですか?私には、子供の頃の記憶が無いので、過去の事は何も知らないんです……」
ナナは、困惑しながら、エドソンに質問する。
「えっ!? そうなのか?ヨナンの奴、まだお前に本当の事、言ってなかったのかよ!
てっきり、ヨナンの奴、俺を驚かそうと思って、今迄黙ってたと勘違いしちまった……」
ここに来て、エドソンは慌て始める。
まあ、本当は、エドソンは何も悪くないないんだけど。
どっちかというと、エドソンに内緒にしてた俺が悪いのだ。
だって、エドソンが、ずっとナナの事を諦めずに探し続けたのを、俺は知っていた。
エドソンは親友であった、俺の本当の父親に託されたナナの事を、ずっと気にかけて生きてきた事を。
下手に、真面目で、融通が効かない男なので、いくら探しても見つからないナナの事を、決して諦める事が出来なかったのである。
「あの……エドソンさん。詳しく教えてくれませんか?」
ナナが、エドソンに詰寄る。
「えっと……ちょっと待て! もしかしたら、俺の勘違いかもしれねーし!」
エドソンは、ナナに詰め寄られて動揺する。
だって、エドソンの中で、ナナが確実に俺の実の妹だと確信して、号泣してたんだと思うんだけど、エドソン自身は、誰にもその事を聞いてないのである。
実際に、エドソンは、ナナの顔を見た事ない訳だし、
ナナは、本当は他人であって、俺が、ただ養女にした場合も有り得るのだ。
俺が、エドソンに伝えてたのは、アンガス神聖国の女王ココノエの従者を、養女にしたという事実だけ。
そこだけ聞いていたら、他国の女の子だし、他人の可能性の方が高かったりする。
「いいから。エドソンさんが感じた事を話して下さい!」
ナナは、いつにも増して圧が強い。
その圧に負けて、エドソンが語りだす。
「誰もが知ってる事だと思うが、ヨナンは俺の本当の子供じゃねえ。
サラス帝国との大戦の時、俺の隊の副長だった男の子供だ。
奴は、とても良い奴だったんだが、戦争中、俺を庇って死んじまった。
その時、俺は、奴に、嫁と子供達を頼むと、死ぬ間際に託されたんだ……」
「その子供が、お義父さんだった訳ですね?」
「ああ。大戦が終わってから、急いで奴の家に会いに行ったんだが、嫁さんの方は、旦那が死んだショックで、既に病死しちまってて、ヨナンだけを探し出す事が出来たんだ……」
「もしかして、その副官の人には、お義父さん以外にも子供が居たと?」
「ああ。ナナという名の、ヨナンの1つ下の妹が居た筈だ。
だが、俺が、奴の家に行った時には、既に奴隷商人に売られちまった後で、居場所が分からなくなちまってたんだ……」
エドソンが、悲愴な顔をして語る。
余っ程、ナナを助けれなかった事を、今も後悔してるのだろう。
「そのナナという少女が、私だと?」
「ああ。最初は気付かなかったが、準決勝で、アンとお前の試合を見て気付いた。
お前、俺の親友と同じ、土木スキルを持ってるだろ?
二刀流にしただけで、あれだけ戦闘力が上がるのは異常だ!
ヨナンの大工スキルは、突き抜け過ぎてよく分からん事になってるが、お前の土木スキルは、俺がよく知ってる土木スキルと一緒だ。
なにせ、俺は奴に背中を預けてたんだからな!」
エドソンは言い切る。死んだ親友と同じスキルを持ってたから、ナナは、親友の娘ナナで間違いないと。
「私が、エドソンさんの親友と同じスキルを持ってたから、私がその人の娘と思った訳ですか?」
「他にもある!奴は、息子と娘は、自分と一緒の黒目黒髪だと言ってた!
黒目黒髪の奴なんか、この国ではとても珍しいからな!
絶対に、お前が、ナナだと思ったんだよ!グスッ……」
なんか、再び、感極まったのか、エドソンの瞼から、止めどなく涙が溢れだす。
やっぱりエドソンは、ナナが、死んだ親友の娘だと確信してるようだ。
「あの……私、お義父さんの1つ下の年齢です……」
ナナは、エドソンにポツリと言う。
「ウン! だよな!」
エドソンは、涙目で強く頷く。
「それから、私、子供の頃、奴隷だったらしく、アンガス女王ココノエ様に救われた過去があります!」
「そうなのか?」
「そうです!」
ナナも涙ぐみながら、強く答える。
「グスッ……俺も、お前のミドルネームに、ナナという名前が入ってるのを知って、確信したんだ!
ヨナンの奴が、敢えて入れたんだと!」
「私も、たまに、エリザベスさんとかに、ナナちゃんと言われると、懐かしい気がしてたんです!」
ここまで来ると、ナナとエドソンは感極まり過ぎて、おかしなテンションになってしまっている。
「お前、どう考えても、ナナだろ!」
「グスッ……私も、どう考えても、お義父さんの妹さんの、ナナだと思います!」
「だよな!」
エドソンは、パッ!と腕を拡げる。
「お義父さん!!」
ナナは、エドソンの、分厚くて広い胸に抱きつく。
ナナにとって、血の繋がりの無かったエドソンが、お義父さんに変わった瞬間。
そして、お義父さんだった俺が、お兄ちゃんに変わった瞬間。
色々な想いが混在して、2人は、堰を切ったように、涙が止まらなくなっているようだ。
それを見てた、観客席のあちこちから、グスグスと嗚咽が聞こえてくる。
「グスッ。感動の瞬間や」
「うぅぅぅぅぅ……ナナちゃ~ん」
「良かったよ~」
全てを知ってた、エリザベスやビクトリア婆ちゃん、コナンやシスまでも涙を流してる。
「糞~アイツも、ヨナンの血筋かよ」
何故か、ジミーも泣きながら悔しがってる。これは、意味不明。
『グスッ……良かったです。とても僕、感動してしまいました。
ご主人様でなく、何で、ナナちゃんが、エドソンさんと抱きあってるか知りませんけど。
本来なら、アソコで、ナナちゃんと抱き合って泣いてるのは、ご主人様の筈だと思うんですけど……』
「グスッ……そんなのどうでもいいだろ!
俺は、エドソンが喜んでくれてるなら、それでいいんだよ!
エドソンの気持ちも分かるし、ナナの気持ちも分かるし……グスッ……」
『いやいやいや……ここまで、拗れさせちゃったのって、全て、ご主人様のせいだと思います!
直ぐに、ナナちゃんに、実の兄だと名乗ってたら、こんな事にもなってなかったし、エドソンさんも、早く呪縛から解放されてた筈なんですから!』
「だけど、俺は勃起病だったんだよ!」
『確かに、実の妹を見て勃起するお兄ちゃんって、最低ですね!』
結局、感動してたのに、いつもの様に、カララム王国剣術祭の上空で、言い争いになってるヨナンと鑑定スキル。
そんな上空に居るヨナンの事を、少し落ち着いてきたナナは、涙目で見上げる。
そして、傍に居るエドソンにも気付かぬように、
「お兄ちゃん、いつも見守ってくれていてありがとう」
と、ニッコリと微笑みながら、小声で呟く。
何故か、懐かしい匂いがする優しい人。
いつも、見守ってくれる頼れる人。
それが、私のお兄ちゃん。大好きなヨナンお兄ちゃん。
皆に尊敬され、この国の一番偉い人である、カララム国王にさえ頼りにされてる、自慢の、自慢の、私の大好きなお兄ちゃん。
ナナは、上空で鑑定スキルとワチャワチャやってる、ヨナンを見ながら、心の中で、お兄ちゃんという言葉を呟く度に、心が、とても、とても、暖かく感じる気がした。
[完]
ーーー
ここまで読んで下さりありがとうございます。
面白かったら、レビューとか☆☆☆とか押してね!
そして、明日は、本当に、本当の最終話。
エピローグですので、もう少しだけ、最後まで読んでくれたら嬉しいです。
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