第139話 グラスホッパー伯爵領
「なんか、スゲーな……」
『シスちゃん、やっちゃいましたね』
夏休みに、箱物は全て完成させてたのだが、グラスホッパー伯爵領は、何度も言うが、とんでもない事になっていたのだ。
まず、人の多さ。
ナルナー神宮の参拝客も居るので、人でごった返している。というか、王都より人口密度が物凄い。正月の伊勢神宮なみ。
そして、宿屋とお土産屋の多さ。
完全に観光地化してたりする。
そんでもって、オシャレなカフェやら、お食事処。
意味が分からん。たった半年でこれ程変わるものなのか?
元々、トップバリュー男爵領だった時も栄えてたが、今はそれ以上というか、10倍は栄えてたりする。
「税収凄そうだな……」
『ですね。税収だけで、普通に、グラスホッパー伯爵領は潤ってます。というか、潤い過ぎてます!しかも、グラスホッパー商会の本店がある時点で、とんでもない税収が入って来ますよ!』
「これ、全部、シスが仕込んだんだよな……」
『ですね。もしかしたら、エリザベスさんより、商才があるかもしれません』
なんか、余りの凄さに圧倒されながらも、取り敢えず、グラスホッパー城塞都市の俺の居城に行ってみる。
そう、城塞都市なので、俺の新たな家は城なのである。
「お兄ちゃん! 私、お兄ちゃんの為に、必死に頑張ったんだよ!褒めて褒めて!」
人を押し分け、やっとこさ城に到着すると、そこではシスが、まるで自分の家のように過ごしていた。
俺的に、ロードグラスホッパーホテルに宿泊してるかなと思ってたんだけど。まさか、俺の城に住んでたとは。
「シスって、ここで暮らしてたんだな?」
俺は、思わず聞いてしまう。
「そうだよ! だって、ここは私の家だもん!」
確かにシスは妹だが、まだ結婚してないし、俺は実家を出て、爵位を新たに貰った新貴族なので、他人と言えば他人なのだ。
実際、血も繋がってないし。
「そう言えば、使用人も雇ったんだな」
「ウン! ビクトリアお婆ちゃんに頼んで、用意して貰ったんだ!」
確かに、みんなしっかりしている。まあ、グリズリー公爵家から使用人を呼べば間違いないのだけど。
というか、俺の家なのに、俺の家じゃない気がする。
だって、俺が留守の間に、シスが全て完璧に整えてしまったから。
しかも、シスの趣味が全開の城になってしまってるし。
強いて挙げるなら、全ての家具が猫足。
しかも、白とピンクで統一されてたりする。
というか、部屋の壁が全て白とピンクに塗り替えられてるし。
完全に少女趣味じゃねーか。
とは、絶対に言えない。
そもそも、一番末っ子のシスは、まだ10歳で、お子様なのだ。
例え、俺の趣味じゃなくても、可愛い妹に嫌われたくない俺は、絶対に、そんな事、口が裂けても言えないのだ。
「なかなか、可愛らしい城になったな」
「でしょ!私も中々の出来と満足してるの!」
なんか、シスがテンション高めに答える。
「猫足家具、可愛いよな」
「だよね。元の実家は、お父さん手作りの無骨な家具ばかりだったから、その反動が来てるのかも。
お金持ちになったばかりの頃は、そんなに家具とか気にしてなかったんだけど、最近、領地経営や、街作りをやるようになって、ヤッパリ、街全体なコーディネートって必要だなと思って、この城は、白とピンクで統一してみたんだ!」
「そうなんだ……」
だったら、街の景観に合わせて、城もシックにコーディネートして欲しかった。
まあ、この城に合わせて、街をコーディネートするよりはマシか。
白とピンクのメンヘラな領地なんて、俺には耐えられないし。
城の内装だけで、外壁まで白とピンクに塗り替えられるよりは、マシだったと思うしかない。
とか、現実逃避してると、
「お兄ちゃん! 今日暇だよね? お兄ちゃんが今日到着すると聞いてたから、鑑定ちゃんに、城や領地の使用人とか、何百人か面接してもらおうと思って、面接の準備してたんだけど?」
「ああ! 面接な!確かに、これだけの領地を経営するとなると、優秀な人材雇いたいもんな!」
『フフフフフ。ついに僕の出番ですね!
ドンドン、凄いユニークスキルを持ってる人を、たくさん探しちゃいますよ!そして、犯罪者や前科持ちは、しっかり弾いて上げますからね!』
ここぞとばかりに、鑑定スキルがしゃしゃり出る。
まあ、最近、鑑定スキルの使い道は、面接ぐらいしかないのだけど。
『あの……とても心外なんですけど。僕、メチャクチャみんなの役に立ってるんですけど!』
鑑定スキルが、勝手に俺の心を読んで文句を言ってくる。
「うるせー! お前、最近浮気し過ぎなんだよ!俺の役に全然立ってない癖に! いつもエリザベスやビクトリア婆ちゃんと、陰でコソコソやってる癖に!」
『アレ? ご主人様、もしかしてヤキモチ焼いてるんですか?
僕が、内緒で、エリザベスさん達と仕事してるのが、気に食わないと?』
「そんな事、ある訳ねーだろ!」
『ですよね! 僕は、ただ、ご主人様に変な負担を与えたくないから、ご主人様に内緒で行動してただけですから!
僕は、ご主人様の役に立ちたいだけなんです!』
「そうなの?」
『そうてすよ!僕、ご主人様の為に、必死に働いて貢いでるんですよ!』
「あの……お兄ちゃん、鑑定ちゃん。2人が仲がいいのは分かったから、そろそろ、面接をお願いしたいのだけど……」
なんか、シスを困らせてしまった。
可愛い妹を蔑ろにしてしまうなんて、お兄ちゃん失格だ。これもそれも鑑定スキルのせい!
『全部、悪いのは僕でいいですから、とっとと、面接終わらせちゃいましょう!
この後、グラスホッパー男爵領に行って、エドソンさんやコナン君と会うんでしょ!
夕食は、久しぶりに、みんなで食べたいと言ってたじゃないですか!』
「だな!」
てな感じで、とっとと、面接を終わらせて、シスも連れて、久しぶりに、グラスホッパー男爵領の実家に帰ったのであった。
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