第132話 停滞

 

「戦を眺めながら見る酒は、格別じゃわい!」


 豪胆な性格をしてるイーグル辺境伯は、余裕綽々。

 一方、どうしても、イグノーブル城塞都市を攻略出来ないココノエは、物凄く焦っていた。


 計画では、短期決戦で、そうそうとイーグル辺境伯領都イグノーブルを落とし、イグノーブル城塞都市を前線基地にして、カララム王都を目指す予定だったのだ。

 カララム王国が、サラス帝国と緊張状態である為、サラス帝国との国境から兵を動かせないのは、アンガス神聖国も分かってる。


 なので、カララム王国最強の軍隊と謳われている、イーグル辺境伯領さえ落としてしまえば、もう、カララム王国など滅ぼしたも同然。

 兵が手薄なカララム王都も簡単に落として、平和裏にカララム王国を併合出来ると読んでたのである。


 それなのに、蓋を開けてみればどうだ?

 1日で落とせると思ってた、イグノーブル城塞都市を、もう、3日間も経ってるのに落とせないでいる。


 だからと言って、イグノーブル城塞都市を落とさず、カララム王都を落としに行くという選択肢は取れない。

 イーグル辺境伯軍に背後から攻撃されて、カララム王都の軍と挟み撃ちにされる可能性もあるし、逆に、アンガストンネルを利用されて、アンガス神聖国に攻め込まれてしまう可能性だってあるのだ。


 まあ、諦めて兵を引いて、アンガス神聖国に戻ればいいだけなのだが、そんな訳にも行かない。

 どう考えても、カララム王国を倒すのは、今が絶好の好機なのだ。


 武器も防具も攻城兵器も、ハツカの土木スキルにより、大幅にパワーアップし、兵士も10万人も率いて来てるのだ。

 対するイーグル辺境伯軍は、たったの1000人。


 本来、城攻めを成功させるには、3倍の兵力は必要と言われている。

 だけれども、アンガス神聖国が率いる軍は、10万人。

 10倍は疎か、100倍の戦力を率いて攻め込んでいるのだ。


 それなのに、イーグル辺境伯領都イグノーブルは、全くもって無傷。

 イグノーブル城塞都市の城壁は、魔法は弾くは、ハツカが製作したミスリルをも斬り裂く剣をもってしても、全く傷付かないのである。


 まあ、無理もないんだけど。

 イグノーブル城塞都市の城壁は、全てアダマンタイトミスリル合金でコーティングされている。

 アダマンタイトミスリル合金とは、ヨナンが開発した合金で、魔法伝導率が高い貴重なミスリルと、伝説の金属と言われてるアダマンタイトの良いとこ取りをして作った合金なのである。


 そして、アダマンタイトが伝説の金属と言われる所以は、そもそも貴重過ぎて手に入らないのと、あまりに硬すぎて、誰も加工できないから。


 実際、アダマンタイトで製作された武器が1つだけ実在するのだが、それは2000年前、伝説のスキルの大工スキルを持ってた者が打った剣で、しかも、アダマンタイトが貴重過ぎて、脇差しぐらいの長さにするのがやっとだったとか。


 そんな貴重過ぎるアダマンタイトを、ミスリルと混ぜて、贅沢に壁に塗ってるとか誰が想像出来るというのか?


 ハッキリ言うと、アダマンタイトミスリル合金に対抗するには、アダマンタイトミスリル合金で製作した武器を使うしかない。

(脳筋のアン姉ちゃんを除く)


 そんなの、大工スキルを持つヨナンにしか製作できないし、そもそもアダマンタイトなど、普通の人には採掘できないのである。


 だというのに、アンガス神聖国女王ココノエは、撤退を決断出来ないのだ。

 だって、100倍の兵力で攻め込んだら、普通、余裕でイグノーブル城塞都市なんて、攻略出来ると思うじゃん。


 そんなグズグズ、どうにも出来ずに、時間だけが無駄に過ぎて行き、3日が過ぎた頃、アンガス女王ココノエが、想像も出来ない事が起こってしまうのである。


 そう。カララム王都から増援など来ないと思ってたのに、1人の少年と、それを追うように必死に空を走る赤髪の少女が、イーグル辺境伯領都イグノーブル城塞都市に、到着してしまったのだ。


 ーーー


「ヨナン! 速過ぎる!」


 エリザベスやアン姉ちゃんにクリソツだけど、2人より、目付きが鋭い赤髪のカレンが、後ろから怒鳴ってる。


 そう、現在、2人は、イーグル辺境伯領都イグノーブル城塞都市に向かって、全力で空を蹴って走ってるのだ。


 地上を走っていっても良いのだが、それだと街道を歩いてる人や馬車などを避けながら走らないといけなので、時間がロスになってしまう。


 ならば、最近覚えた空中滑走すればいいじゃん!ということで、空を走ってたりする。


 空を走る理屈は簡単。ただ有り得ないぐらい速く強く、空気を蹴るだけ。

 聖剣ムラサメを持つヨナンには、とても簡単な事だったりする。

 だって、ただ走ればいいだけだし。


 だけれども、既に、人を越えた存在なのだが、聖剣ムラサメをもったヨナンに比べてしまうと、何百倍も劣るカレンが、空中を走り続けるには無理があったようだ。


 身体強化Lv.3を持ってしても、空気を強く速く蹴り続けるのは不可能だし、疲れてきたら、だんだん空気を蹴りそこねて、高度がドンドン落ちてきてしまうのだ。


「だから、ちょっと、待ってって!」


『ご主人様、このままカレンさんを置いてく気ですか?』


 鑑定スキルが、尋ねてくる。


「お前、知らないのかよ?城攻め3倍ルール?

 普通、3倍の兵力を持ってすれば、城を落とせれるという話だけど、アンガス神聖国は、その100倍の兵力で、イグノーブル城塞都市を攻めて来てるんだぞ!

 メチャクチャ急がないと駄目だろ! イグノーブル城塞都市が落とされた後に到着したんじゃ、後の祭りなんだぞ!」


『だけど、イグノーブル城塞都市は、ご主人様が過分に手を加えてますよね……僕には、アンガス神聖国が、簡単にイグノーブル城塞都市を落とせるとは、到底、思えないんですけど?』


 知ったかの、頭が固い鑑定スキルが、俺に意見してくる。


「お前も、言ってたじゃねーかよ!アンガス山脈にトンネルを繋げるなんて、本来なら不可能と!」


『ですから、アンガス神聖国に穴掘りスキルLv.5の人が居るかもと、僕は言いました!』


「だから、ヤベーんじゃねーかよ!」


 俺は、強めに反論する。

 ここまで言えば、流石に、鑑定スキルも自分の頭で、よ~く考えるであろうと。


『アッ! ご主人様が言いたい事が分かっちゃいました!

 穴掘りスキルLv.5を使って、城壁の外から城壁内に通じる穴を掘るかもと、言うんですね!

 ご主人様! これはヤバイですよ! 早く、イグノーブル城塞都市に向かわないと!』


 鑑定スキルは、ようやく理解して、やっと焦り出す。

 鑑定スキルは、所詮は知識だけなのだ。

 応用が苦手で、自分の頭で考えるのが苦手だと思われる。


『あの……僕、ご主人様の考えてる事、分かっちゃうって言ってますよね。僕、ちゃんと自分の頭で考えて行動出来ますから!

 たまたま、今回は、ご主人様の方が早く思いついただけで、いつもは、僕の方が頭の回転速いですから!』


 なんか、鑑定スキルが、勝手に俺の頭の中を読んで怒りだした。本当に面倒臭い。


『だから、面倒臭いとか思わないで下さい!ご主人様が、僕のこと面倒臭いって思っちゃってることとかも、全部、分かっちゃうんですから!』


「ヨナン…… 待ってーー」


 なんか、カレンの声が遠くなって来ている。

「叫ぶくらいなら、足を速く動かせばいいに」とか、紳士な男である俺は言わないのである。


 何せ、俺は、紳士で優しい男であるから。


 俺は、反転してカレンを肩に担ぎ、男らしく、そのまま何も言わずに、イグノーブル城塞都市を目指すのだった。


『あの……なんか格好良い俺とか、思ってるかもしれませんが、何度も言うように、ご主人様の考えは筒抜けなんですからね!』


 鑑定スキルは、俺に対して、どうしても、ツッコミを入れられずにはいられない性質のようだった。


『だから、それも筒抜けですからね!』


 鑑定スキルのツッコミが響き渡った。


ーーー


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