第130話 アンガス神聖国

 

 アンガス神聖国は、アンガス教を国教とする宗教国家である。

 なんでも、牛を神聖視する宗教らしく、それが転じて、獣人を差別しない宗教なんだとか。


 国民の大半が獣人。それから、人族も、エルフも、ドワーフも、魔族まで共存する、世界でも稀な差別のない国家なのである。


 代々、国で一番魔力が強い獣人の巫女が、女王と教皇を兼任する。


 まあ、ここまでの話では、別に悪い国家ではないのだが、アンガス神聖国の悪い所は、全ての国が、アンガス教徒になれば、世界が真の平和になると真剣に考えてる所である。


 いわゆる、宗教的排他主義。アンガス教以外の宗教は悪。


 アンガス教以外の宗教を、悪魔の宗教と考え、他の宗教を信じてる国を滅ぼし、アンガス教に改宗させなければならないと、本気で考えてるのだ。


 因みに、カララム王国の国民は、殆ど、無宗教。

 一応、日本の神道みたいな感じで、ナルナー教を信じてるといえば、信じてる。


 スキルを授かる13歳の時だけ、一応、感謝のお祭りとかやる地域もあるが、殆どの人々は、しょぼいスキルしか貰えないので、女神ナルナー使えね~!と、それほど信仰は大した事なかったりする。


 逆に、カララム王国にも、アンガス教を信じてる者も居るし、他の宗教を信じてる者もたくさん居る。

 本当に、日本の無宗教的な緩さなのだ。

 クリスマスには、七面鳥じゃなくてチキンを食べて、正月には、神社と寺をお参りする感じ。


 楽しいイベントだけ真似するような。


 そんな緩い感じが、アンガス神聖国は許せないのだ。


 なので、事ある毎に、カララム王国に戦争を仕掛けてくる。


 奴隷制度を無くせ! 差別がある国など、滅ぼしてしまえ! これが、アンガス神聖国のスローガン。


 まあ、カララム王国は差別も有るし、奴隷制度もあるから、近くて隣国のアンガス神聖国の標的にされちゃうのである。


 アンガス神聖国の説明は、このくらいで、本題に入る。


 まあ、話した通りに、5年に一度ぐらいの割合で、精鋭部隊200人から300人で、険しい山脈を越えて、カララム王国に攻め込むのだが、その時点でいつも、兵士の体力は限界。

 いつも、イーグル辺境伯の屈強な兵に敗れてしまう。


 それを回避する為に、アンガス神聖国は、50年ほど前から、国家事業として、山脈にトンネルを掘っていた。

 だが、このトンネル工事は、難航を極める。

 ここ数年は、緩い地盤に当たって、これ以上掘り進むのは、人的被害も大きく無理では無いかと言われてた時に、1人の救世主が現れたのだ。



 その少女は、アンガス女王が拾って来た、元奴隷の少女。


 アンガス女王は、日頃、カララム王国の奴隷制度を止めさせる為に、数名の部下達とカララム王国に潜伏し、奴隷商人の馬車を襲い、奴隷を救うというアグレッシブ過ぎる行動をしてたのである。


 そして、数年前に救った少女が、今年13歳になり、女神ナルナーからスキルを授かった。


 その授かったスキルとは、なんと! 伝説のスキル大工スキルではなくて、

 大工スキルの劣化版だと言われる、土木スキルだったのだ。


 しかし、大工スキルの劣化版だとしても、土木スキルは凄まじく、どんな道具でも、程々に使いこなせてしまうスキルであったのだ。


 まあ、程々と言っても、普通の人に対して程々ではなく、伝説の大工スキルに比べて程々なのだ。

 なので、ハッキリ言うと、武器を持てばS級冒険者クラス。大工道具を持てば、立派なお城が、1週間ぐらい掛かって建てれるぐらい。


 そんな物凄いスキルを持った少女が現れたという事で、アンガス神聖国女王ココノエは、スグに、自らが運営する孤児院に向かい、その少女と、久しぶりに会ったのだった。


「久しぶりじゃな。ハツカよ。元気にしておったか?」


「ハイ。お陰様で、ココノエ様に助けて頂いてから、ここで楽しく幸せに暮らしています」


 この世界では珍しい、黒目黒髪の人族の少女は、狐耳族の女王ココノエに満面笑みを浮かべて、返事をする。


「して、ハツカよ。そなた、土木スキルというレアなスキルを授かったそうじゃな?」


「レアかどうかは分かりませんが、孤児院の食事を作るとプロ並みに美味しく出来上がったり、花壇で花を植えると、普通の人が植えるより早く咲くといった程度です」


 黒目黒髪の少女ハツカは、謙遜して答える。


「フム。孤児院のシスターから聞いた話によると、この新しく豪華になった教会は、お主が、たった2日間で建て替えたと聞いたのだが?まことか?」


「ハイ。元々建設中だったんですが、大工さんが落とした金槌をたまたま拾ったら、体が勝手に動き出し、気付いたら教会が出来上がってたのです……」


「なるほど。報告通りじゃな。して、ハツカよ。妾の傍について、国の運営を司る幹部候補として働いてみんか?

 その類まれなるスキルを、国の為に使ってくれたら嬉しいのじゃが?」


 アンガス神聖国女王ココノエは、黒目黒髪の可憐な少女、ハツカに聞く。


「元々、死ぬ筈だった、なんの取り柄も無かった私を、ココノエ様に救ってもらった命で御座います。

 記憶を無くした私を、ここまで何不自由なく育ててくれた恩に報いるべく、誠心誠意精進し、必ずやココノエ様にお役にたってみせます!」


 奴隷商人の馬車が移動中に魔物に襲われ、魔物に食べられそうになった寸前の所を、ココノエに救われ、その時の恐怖の為、記憶を無くしてしまったという過去がある、黒目黒髪の少女は、

 必ずや、その時の恩返ししてみせるという、強い決意を秘め、アンガス女王ココノエに誓うのだった。

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