第112話 カララム王 アレクサンダー・カララムの回顧

 

 カララム王、アレクサンダー・カララムが、初めてヨナン・グラスホッパーに会ったのは、イーグル辺境伯領で行われた、ワイン品評会の直前。


 国の軍事を司るイーグル辺境伯とグリズリー公爵が、緊急の話があるという事で、長旅の疲れを押して会う事となった。


 そこに、イーグル辺境伯とグリズリー公爵に

 伴われて居たのが、印象的な黒髪黒目の、まだ幼い顔立ちが残る13歳の少年ヨナン・グラスホッパーだったのだ。


 その少年は、なんと、あの神獣レッドドラゴンを単身で倒し、尚且つ、レッドドラゴンの尻尾を手に入れたという。


 ハッキリ言って、にわかに信じられない話だった。

 レッドドラゴンの尻尾の肉は、200年前も少しだけ出回った事がある、伝説の寿命が10年若返ると言われている肉である。


 記録によると、その当時、違う大陸から魔族の大群が、カララム王国がある大陸に攻めて来て、大森林の守護者であったレッドドラゴンが、魔族をたった一匹で蹴散らし、そしてとうとう、一匹だけで魔族の大群を、この大陸から追い払ったという史実がある。


 その時の戦いが苛烈で、レッドドラゴンは尻尾の先を少しだけ、魔族の王に切り落とさてしまったのだ。


 でもって、罰当たりな人間が、レッドドラゴンの尻尾を拾って食べて見たところ、なんと10歳若返ったのだ。


 それからは、ご想像通り。レッドドラゴンの尻尾の肉を巡って、人間同士の苛烈な戦いが始まった。

 その戦いは、魔族との大陸間との戦いより熾烈を極め、国同士の戦争にまで発展し、死人を大勢出してしまった程だ。


 そんなレッドドラゴンの尻尾を、まだ幼い少年のヨナン・グラスホッパーは、尻尾を丸々10メートルも手に入れたというのだ。


 これは、ハッキリ言って快挙である。

 この大陸を護った神獣を倒してしまったというのは、どうかと思うが、話によると、ヨナン・グラスホッパーの攻撃にビビって逃げてしまったらしいので、殺しては居ないのだろう。


 まあ、レッドドラゴンの尻尾10メートルだけでも凄いのに、ヨナン・グラスホッパーは、ドラゴンの鱗と、ドラゴンの血までゲットしてたらしく、カララム王家に、レッドドラゴン肉1キロ、ドラゴンの鱗1枚、レッドドラゴンの血50ミリリットルを献上するという。


 まさかの伝説のレッドドラゴンの血……

 1ミリリットル飲めば1歳若返るという伝説の……レッドドラゴンの肉と違って、1回コッキリの効き目ではない。

 何度でも繰り返し使えるので、50ミリリットル全て飲めば、寿命が50年若返るという事になるのだ。レッドドラゴンの肉と合わせれば、カララム王は、60歳長生きできる事となる。


 そして、このレッドドラゴンの血と肉と鱗の献上をもって、イーグル辺境伯とグリズリー公爵は、大戦の英雄エドソン・グラスホッパー騎士爵の養子であるヨナン・グラスホッパーに、新たに爵位を与えるよう迫ってきた。


 レッドドラゴンをも倒してしまう実力があるヨナン・グラスホッパーを、市政に逃がしてしまっていいのかと?

 まあ、グラスホッパー騎士爵家四男で養子のヨナン・グラスホッパーは、絶対にグラスホッパー騎士爵を継げない。そうなったら、カララム王国に留めておけない可能性も出てくるのだ。

 他国になんか行ってしまえば、カララム王国にとって大損害。だって、この大陸には、レッドドラゴンを1人で倒せる者など居ないのだから。


 そう、ヨナン1人で、実を言うとこの大陸を支配出来る戦力を持っているのである。


 そんなヨナンを、ミスミス手放すなんてどうかしてる。折角、既に、イーグル辺境伯とグリズリー公爵が取り込んで、こちらの陣営に入ってるのだから。


 なので、カララム王アレクサンダー・カララムは、喜んでヨナン・グラスホッパーに、グラスホッパー準男爵の爵位を与えたのだった。


 まあ、その後も、ワイン品評会で、超絶美味いワインを出品したりと、ヨナン・グラスホッパーに驚かされる事は、たくさんあったのだが、

 そんなヨナン・グラスホッパーの評価を覆す、カララム王国の根底を揺るがす大事件が起こったのは、僅か数ヶ月前。


 なんと、よりによって、バカ息子のルイの奴が、婚約者であるグリズリー公爵家の娘、カトリーヌ・グリズリーに、三行半を突き付けられて、婚約破棄されてしまったのだ。


 まあ、ルイの奴は、カララム王第一継承者である以外、全く取り柄が無い息子だったのだが、カララム王のワシが、若返った時点で、カララム王になる目が全く無くなってしまったので、しょうがない話なのだが。


 で、そこで終わってたら、何も問題無かったのだが、

 既に、イーグル辺境伯とグリズリー公爵から、サラス帝国のスパイでないかと報告に上がっていたトップバリュー男爵の娘アスカと、よりによって恋仲になってしまったのだ。


 しかも、ルイ王子が、カトリーヌに婚約破棄?をするという事件が起こってしまった。


 ハッキリ言って、全く訳が分からない。何故、婚約破棄されたルイが、逆に婚約破棄するのだ?

 しかも、この事件も、あのヨナン・グラスホッパーのファインプレーによって潰されて、事なきを得たのだが、それだけでは事件は、全く収まらなかったのだ。


 よりによって、ルイ王子とトップバリュー男爵令嬢アスカとの濡れ場の動画が、世間に出回り、カララム王室の威厳が地に落ちてしまったのだ。

 そして、ワシは、AV男優の息子を持つ王様になり下がってしまったのじゃ……有り得んじゃろ!


 まあ、それと引き換えに、サラス帝国との決定的な関係を突き止める事が出来ないでいた、トップバリュー男爵の爵位を取り上げ、国外に追い出す事が出来たので良かったのだけど。


 だけれども、やはり、ヨナン・グラスホッパーはやり過ぎた。

 よりによって、王室のワシの息子のルイを、絶対に表舞台に立てない傷ものにしやがって!


 てな訳で、ヨナンにムカついて、少しはギャフンと言わせないと気が済まなかったので、わざわざヨナンの年齢まで、ドラゴンの血で若返り、カララム王国学園に編入して、無理難題を言ってヨナンを困らせてやろうと画作したのだが、ヨナンは、ワシが想像してたより、遥かに斜め上を行く少年であったのだじゃ。


 カララムダンジョンを攻略しに行くぞ!と言えば、チャチャっと、国宝を軽く超える剣と鎧を、鼻をほじりながら目をつぶって作ってしまうし、聖剣ムラサメ?アレは何なのじゃ?

 アレは、この世界にあってはならない神の武器じゃないのか?

 カララムダンジョンの外壁を破壊し尽くして、もう少しで、カララムダンジョンが、ポッキリ折れてしまう所だったし……。


 極めつけは、世界樹の滴。

 まさか、ヨナンが、世界樹を見つけ出していたとは、思いもよらなかった。

 しかも、この世界の創造神である女神ナルナー様と、レッドドラゴンと仲が良さそうじゃったし……。


 ただ、少しだけでも、ヨナン・グラスホッパーを困らせてやろうと計画した、カララムダンジョン攻略だったのだが、ただただ、カララム王アレクサンダー・カララムが、ヨナン・グラスホッパーの底の深さに、心底恐怖を覚える結果で終わってしまった。


 だって、神獣レッドドラゴンと、創造神である女神ナルナーを敵に回せんじゃろ!


 そして、絶対に、どんな事があったとしても、ヨナン・グラスホッパーの敵対しないと、心に誓うしかなかったのだった。


ーーー


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