第106話 アレクサンダー君、初めてのお使い

 

「ところで陛下、ダンジョンに行くのに防具も付けずに手ブラなんですか?」


 ヨナンは、アレクサンダー君が、ダンジョンに行くのに魔法の鞄も持たずに手ブラなのに気付いて話し掛ける。


「ああ。いつもワシが手を上げれば、お付の者が剣を持たしてくれるし、そもそもワシは誰にも攻撃受けた事ないので、鎧というものも装備した事がないのでな!」


 アレクサンダー君は、まさかの手ブラでダンジョンに向かう気だったようである。


「ちょっと、待って下さいね! 急いで陛下用の装備を作りますんで!」


 他にお付の者がたくさん居るなら、陛下も手ブラで大丈夫かもしれないが、陛下の近くには俺1人しか居ないのだ。

 女騎士達も、俺から結構離れて着いて来てるだけだし。

 もし、陛下に傷の1つでもおわしてしまったら、多分、俺は切腹させられること間違いないし。


『ご主人様。分かってんでしょうね! 王様の装備だからといって、気合い入れて製作したら駄目ですよ!

 カララム王家に、神級のアーティテクト渡す必要なんて、本来無いんですから!』


 鑑定スキルが、一々注文を出してくる。

 だけれども、手を抜いた装備を渡して、アレクサンダー君が怪我などしてしまったら堪らない。

 なので、ヨナンは目を閉じてアレクサンダー君の装備を作ってみたのだった。


『あ~あ……やっぱりやっちゃいましたよ……』


 鑑定スキルが、アレクサンダー君用の装備を見て呆れている。


「だけど、俺はしっかり目を閉じて、製作したぞ!」


『あの、普通、目を閉じた状態で、こんな装備誰にも作れませんから。

 聖剣ムラサメほどじゃないですけど、この装備でも十分国宝ものの装備ですからね!』


「鼻くそもほじりながら、作ったのに?」


『ご主人様は、目を閉じたり鼻くそほじるくらいじゃダメなんですよ!

 次からは、利き足じゃない左足の小指で、製作して下さい!』


 鑑定スキルが、相変らず滅茶苦茶な事を言ってくる。


「左足の小指じゃ、大工道具握れねーじゃねーかよ!」


『ご主人様なら握れますよ!試しに握ってみたらどうですか?』


 鑑定スキルに言われて、試しに、金槌を左足の小指で握ったら、難なく握れてしまった。


「うっそん……」


『ご主人様が持てば、なんでも最高のポテンシャルを発揮してしまうんです!

 ご主人様が持とうと思えば、なんだって持てるし、なんだって大工道具になり、最高の性能を引き出しちゃうんですからね!』


「よく分かった。俺もどうやって、左足の小指で金槌握ってるか分からんし……」


 まあ、兎に角、突貫で作ったアレクサンダー君用の装備を、アレクサンダー君に装備して貰う。


「話には聞いてたが、ヨナンよ。お主、凄いな……」


 流石のアレクサンダー君も、目を閉じながら、ものの1分で製作した装備に驚いている。

 まあ、普通、1分で鎧と剣を製作出来ないからね。


 てな感じで、カララムダンジョン1階層の探索を始める。


 カララムダンジョンの1階層は、草原ステージ。

 まあ、一階層は、弱っちい魔物ばかりなので、アレクサンダー君も怪我などはしないだろう。


 とか、思ってると、突然、ヨナンとアレクサンダー君の前に、最弱の魔物スライムが現れた。


「ヨナンよ! 絶対に手を出すなよ!ワシが初めて1人で倒す獲物じゃ!」


 アレクサンダー君は、まさかのスライムですら、一人で倒した事無かったようだ。

 どんだけ過保護に、姫プレイしてたんだよ!


 アレクサンダー君は、最弱スライムに対してジリジリと間合いを詰める。

 というか、アレクサンダー君のステータス的にスライムなど雑魚なんだけども、初めてのお使いじゃなくて、初めて1人で倒す魔物なので、慎重になってるのかもしれない。


「おりゃ~!」


 アレクサンダー君は、スライムの間合いに入った瞬間!上段から剣を振り落とす。


 ズザザザザザーーン!!


 スライムは、剣が振り落とされるのと同時に発動した火魔法と共に消し炭になってしまったのだった。


『ほら見て下さいよ! これは完全にオーバースペックですよ!アレクサンダー君の魔力に反応して、斬撃と一緒に炎まで飛ばしちゃってますよ!

 というか、草原に炎が移って大変な事になってますからね!』


 鑑定スキルが、なんか怒っている。

 というか、ダンジョンの中が火事になってしまっている。

 草原ステージに火魔法は、全く持って相性が悪すぎる。


 とか思ってると、見えない場所で待機してた俺の9人の女騎士達が、直ちに消火し、そして何も言わずに去っていった。

 正に忍者。忍んでいる。そのうち師匠のハヤブサさんみたいに、会話もしなくなるんじゃないかとちょっと心配するレベルだ。


「ヨナンよ! ワシはついに1人で魔物を倒したぞ!」


 アレクサンダー君は、たかが最弱のスライムを一匹倒しただけでとても嬉しそうだ。

 女騎士が居なければ、第1階層を火の海にしてたであろうに、呑気なものである。

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