第9話 初めての商談
ヨナン達が、トップバリューの係の者に、荷馬車に大量に積んでいる男爵芋と、寄木細工のカラクリ箱を見せると、少し大量過ぎるという事で、店舗裏にある業者専用の買取りカウンターの方に回って来てくれと言われてしまった。
でもって、店舗の裏手まで荷馬車で行くと、荷馬車ごと入れる荷物の積み入れ用の入口があり、中に入ると、警備の人に誘導されて、荷馬車を指定の位置に停めるように指示された
「あちらに、業者専用の受け付けカウンターが有りますので、この番号札を持って受け付けに声をかけて下さい」
「分かった」
ヨナンは警備の人に言われ、商談用の寄木細工のカラクリ箱と、男爵芋を数個持って受け付けに行く。
「コレ……」
ヨナンは受け付けにいた、同じ歳くらいのピンク髪の女の子に番号札を渡す。
ヨナンと同じく、子供なのに店に出て働いているという事は、きっとヨナンと同じように貧乏な家の娘で、このトップバリュー商会に子供の頃から丁稚奉公にでも出されてるのだろう。
「ハイ。承りました。それでは直ぐに商談を始めましょうか?」
「エッ? 君と商談するの?大人の人じゃなくて?」
「何か、問題でも?」
ヨナンは、まさか子供と商談の話をすると思ってなかったので戸惑ってしまう。というか、こんな年端も行かない女の子に物の価値が分かるのかと不安になってしまう。
「エッ……問題は無いけど、子供に俺が持って来た物の価値が分かるか不安で……」
ヨナンは、思った事を口にする。
だって、メッチャ美味しい男爵芋を食べもしないで、安い値段で買い叩かれたら嫌だから。
「大丈夫です……私には鑑定スキルが有りますので、物の価値を間違える事はありません」
「鑑定スキルって……ハズレスキルの……」
「そういうアナタも鑑定スキル持ってますよね。鑑定スキル持ってて商談相手を鑑定しないなんて変わってますね」
目の前のピンク髪の女の子は、相当気が強いのかズバズバ言いたい事を言ってくる。
「オイ。この女の子が、鑑定スキル持ってるって本当かよ?」
ヨナンは、いつものように鑑定スキルに質問する。
『持ってますが、僕にそうやって話し掛けるのは、人前で止めたほうがいいですよ。
相手には、僕の話し声が聞こえてませんから、今のご主人様は、ただの独り言が大きいヤバい人ですからね。
目の前の女の子も、怪訝な顔をして、ご主人様を見てますし……』
鑑定スキルは、言いたい事を言い終わった後に、普通の鑑定スキルのように、目の前の女の子のステータスを出してくれた。
{名前: アスカ(トップバリュー商会の鑑定員)
スキル: 鑑定スキル、〆×スキル、☆☆☆スキル}
どうやら、鑑定スキルと、その他に2つのユニークスキルを持ってるようである。
「なるほど、アンタも鑑定スキルを持ってるんだな」
「そういうアナタは、独り言が怖いですよ」
多分、最初にヨナンが女の子に対して失礼な事を言ったせいか、女の子も初対面な筈なのにズバズバ言いたい事を言ってくる。
「悪かったって。まあ、鑑定スキルを持ってるって事は、物の名前は分かるって事だよな?」
「私の場合は、物の名前だけじゃなく物の価値や効能も分かるので問題無いです。多分、何のスキルか分からないユニークスキルが作用してると思われます。
まあ、それを買われて、トップバリュー商会の鑑定員を任されてるのですけど」
女の子は、人より凄い鑑定スキルを持ってる事が自慢なのか胸を張る。
まあ、ヨナンが持ってる鑑定スキルLv.2よりは、絶対に劣ると思うけど。
「なら、この男爵芋の価値は分かるか?」
ヨナンは試しに、ヨナンが育てた男爵芋を取り出して見せてみる。
「エッ!? それはまさか安納芋では?」
「エッ? お前も安納芋が分かるのかよ!
俺の鑑定でも、安納芋のようにとても甘い男爵芋と言ってたぞ!」
「流石は、鑑定スキルLv.2ですね。鑑定スキルがLv.2になると、まさか、安納芋が分かるとは……」
「ん? お前の鑑定でも分かったんじゃないのか?」
「ええ。まあ、分かりましたけど……」
鑑定員の女の子は、何故だか少しだけ言い淀む。
「で、この男爵芋は、幾らで売れるんだよ!」
「そうですね……1つ300マーブルで買取りましょう」
ヨナンは、300マーブルと言われて、目ん玉が飛びでそうなほど、驚いてしまう。何故なら、
「嘘だろ! 男爵芋が、1つ300マーブルする筈ないだろ!
普通の男爵芋は、お店に卸すと普通30マーブルぐらいと、エドソンは言ってたぞ!
それなのに、1つ300マーブルって、10倍の値段じゃないかよ!」
「1つ言っときますけど、これは男爵芋じゃなくて、正真正銘の安納芋です。そもそも、色も形も、全く違いますし。
私共で、1つ300マーブルで買取り、500マーブルで売り出す予定です」
鑑定員の女の子は、幾らで売り出すのかまで、正直に答える。
「ただの男爵芋を500マーブルで売るって、そんな事、可能な筈ないだろ!
俺は、絶対に騙されないぞ!」
「私共トップバリュー商会の販売網を使えば
問題無いです。
私共トップバリュー商会は、王都に住む王侯貴族にもコネが有りますから、簡単な事ですよ」
「嘘だろ? 全く食べもしないで、俺と同じくらいの女の子が、そんな事、勝手に決めていい訳ないだろ!」
「一応、私は、このトップバリュー商会の鑑定員筆頭なので、私が買い取りの値段を自由に決める権利があるんです」
まさかの鑑定員筆頭。なんか、よく分からんが、目の前の女の子はトップバリュー商会の中でも偉いさんのようだった。
「お前、子供なのに凄いんだな」
「こんなおイモを生産出来るヨナンさんの方が凄いです!」
何故か、先程と打って代わり、鑑定員の女の子がヨイショしてくれる。
「何で、お前、俺の名前知ってるんだ?確か、名前は名乗ってなかった筈だが……」
「ですので、私も、ヨナンさんと同じく、鑑定スキルを持ってますから!」
少し、ヨナンがアホな事を言ってしまったのだが、鑑定員の女の子は、ニコニコしながら少しも嫌な顔もせず、清々しく突っ込んでくれる。
「ああ。そうだったな、鑑定スキルがあれば、人の名前は分かるか……確かに、鑑定スキルってそんなスキルだったし……俺の鑑定スキルは、Lv.2だから仕様が少し違ったんだった……」
まあ、取り敢えず、言い訳はするのだけど。
「それで、この安納芋を、私共トップバリュー商会に売ってくれるんでしょうか?」
女の子が、上目遣いをして聞いてくる。
子供の癖に色目を使ってくるとは、やはり、トップバリュー商会の鑑定員筆頭の肩書きは伊達ではない。
「そんなの売るに決まってるだろ! 俺には、男爵芋を300マーブルで売るコネも販路も無いんだし!」
「それで、今回は何個売ってくれるのですか?」
「あの荷馬車に乗ってるだけだけど、確か、1000個近くは持ってきてる筈だけど……」
「全部買い取ります!」
女の子は、食入り気味に言い切る。
「嘘……300マーブルで、全部買い取ってくれるのかよ……という事は、30万マーブル?」
「そうですね!」
ヨナンは、今まで聞いた事もない価格に、正直ビビる。
ヨナン的に、男爵芋より少しだけ甘い芋なので、1つ50マーブルぐらいで売れると思っていたのだ。しかも、一応、1000個持ってきたが、100個ぐらい売れれば良しと思っていたのである。
「だけど、1000個も短期間で売れるのかよ?誰も食べた事ない芋なんだろ?」
「ですので、ブランド化する予定です。男爵芋を越える公爵芋とでもしますか?
そして、魔法の鞄が有りますので、何千個でも入れた時のままで保存も出来ますので、どれだけ仕入れても問題無いんです!」
「エッ!? そんな便利な鞄が有るのかよ!」
ヨナンは、何でも入る魔法の鞄が存在するという事にビックリする。
まあ、ヨナンの知識は、小さなグラスホッパー領の中だけなので、無知なのはしょうが無いのだけど。
「エッ? 知らないんですか? 普通、商人の間では常識ですけど。しかし、入れれる容量によってピンキリの値段ですけどね!」
ヨナンは考える。大森林に生えてる男爵芋改め、公爵芋の山を。
ドンドン増殖していき、今やトンデモない事となっているのだ。
「それって、幾らなんだ?」
「一番安い10キロ入る鞄が、10万マーブル。20キロ入るのが20万マーブル。30キロ入るのが30万マーブルと高くなっていき。
一番最高級の無限に入る魔法の鞄になると、1000万マーブルになりますね!」
「高ッ!」
「そんな事ないですよ! ヨナンさん。これは交渉なんですけど、これからも安納芋を、トップバリュー商会に定期的に卸してくれるんですよね?」
「するつもりだけど……」
「そしたら、無限に入る魔法の鞄をローンでお買いになりませんか?
しかも、これからもずっと、トップバリュー商会にだけに公爵芋を卸してくれるなら、金利は0マーブルにしちゃいますよ!」
「本当かよ!」
「本当です!」
金利0という事は、1000万以上払わなくても良いという事である。
普通、お金を借りたら、それ以上に払わないといけないという事は、流石に、無知なヨナンでも知ってるのだ。
「それなら、無限に入る魔法の鞄を、俺に売ってくれ!」
ヨナンは、女の子の甘い言葉に、思わず決断してしまう。
『ご主人様、もうちょっと考えてからの方が、良かったのでは』
鑑定スキルが、ヨナンに慌てて話し掛ける。だけれども、
「お客さんが、1000万マーブルの魔法の鞄を買って下さいました!」
鑑定員の女の子は立ち上がり、高々とヨナンが1000万マーブルの魔法の鞄を買った事を店にいる者達にアピールしてしまう。
すると、近くにいたトップバリュー商会の店員達がワラワラと現れ、ビシッと整列し、そして直立不動の体勢から90度の礼をして、
「「騎士爵家ヨナン・グラスホッパー様!
1000万マーブルの魔法の鞄、お買い上げありがとうございました!」」
と、大合唱でヨナンに頭を下げ、パチパチパチと拍手するのであった。
『もう、買わないなんて、言えなくなっちゃいましたね……』
「こんな状態で、言える訳ねーだろ……」
ヨナンの小声の独り言は、従業員の拍手に掻き消されて、珍しく、誰にも聞こえる事は無かったのだった。
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