Day9 Bedroom

《やほー》21:31

《次の週末空いてる?》21:31

《ちょっと重めの案件が一段落しそうなんだけど》21:31

《双子ちゃんの様子を見がてら、遊びたいなーと思って》21:32


 瑠生のスマホに姉からそんな連絡があったのは、双子がやってきてから一週間ほど経った日曜日の夜だった。





 時刻は二三時過ぎ。

 双子の姉妹・クランとラズは、二〇一号室のベッドに寝そべっていた。


「お姉ちゃんと会うの、久しぶりだね」

「まだ一週間しか経ってないけどね」


 今日の瑠生は大学の課題を片付けるため、もともとの居室である二〇二号室で作業を続けている。

 双子にとっては初めて、二人だけでの就寝となりそうだった。


「クランたちのために頑張ってくれてるんだよね。お姉さまも、みんなも」

「そうだね。……お姉ちゃんたち、大丈夫かな」

「きっと大丈夫だよ。一段落するって、お姉さまが言ってるんだから」

「全部片付いたら、お兄ちゃんに話すのかな。ラズたちのことも」

「うん、そうかもしれない」

「……お兄ちゃん、ラズたちのこと嫌いにならないよね?」

「大丈夫だよ。お兄さまはクランたちのお兄さまだもん」


 不安の表情を浮かべるラズの手を、クランはそっと握った。

 自分が心細いとき、いつも瑠生がそうしてくれるように。

 便宜上の順番でしかないとしても、こんなときには姉として妹を支えたい。そんな気持ちが、彼女には芽生えつつあった。


「……ラズ、あっちの部屋のベッドのほうが好きだな。こっちのは新しくて、お兄ちゃんのにおいがしない」

「今日はがまんだよ。お兄さまの邪魔になったら、それこそ嫌われちゃうかもよ」

「ん。それはヤ」


 顎に頭突きしてくる妹を、クランはそっと抱き寄せる。


「……ねえ、ラズ」

「なあに」

「ラズの中には、まだ『いる』?」

「うん。でも、もうあんまり感じない。ラズの中にとけてきたんだと思う」

「そっか」

「クランは?」


 姉は一拍置いて答える。妹を心配させないように。


「……うん、クランも大丈夫。……ラズとおんなじだよ」


 彼女は生まれて初めて、自らの半身である相棒に嘘をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る