第19話 追跡、逃亡

「ハンス。差し当ってセドリックに危険が

及ぶ可能性はありますか」


エロルと聖騎士の所在が知れない報告を

聞いたガバガバはハンスにそう尋ねた。


「いえ、エロルの権力ならばセドリックを

人質に取るのはメリットより我々に

遭遇してしまうデメリットの方が大きいでしょう。

それにいくら皇太子の命令でも教会を襲撃は

流石に聖騎士には出来ないかと」


返事を聞いたガバガバは頷くと

単独で捜索を開始してしまった。


馬より速く走れる彼女に

同行出来るものがいない。


「待って下さい勇者殿!これを」


走り出すガバガバを呼び止め

交信の水晶を渡すパウル。

使い方が分からないと言う勇者に

一時間ごとにパウルの方から

連絡を入れるので水晶に向かって

話すだけだと説明した。


「本来ならば門外不出なのですが・・・。」


独断で秘術関係を使用している事に躊躇いが隠せないパウル。


「いえいえ、国の存亡が掛かった

一大事ですからねぇ。出し惜しみの意味がありません」


パウルの判断を肯定するユー。


「これは決して大袈裟ではなく魔神の行動を

阻止出来なければ本当に国が亡ぶ事がありますよ

あのセント・ボージの様に・・・。」


およそ100年前、前回の降臨の時に

魔神によって滅んだ王国があった。


「私は目視で今見てみますね」


そう言うとストレガは錫杖を構え

呪文を呟くと、ゆっくりと上昇していった。

内蔵している火薬が乏しく

高速移動は出来ない、高所からの目視を試みるのだ。


上昇していくストレガを目撃した周囲では

ちょっとした騒ぎになるが

9大司教がいるおかげで

大騒ぎには発展しなかった。


口を開け呆然と空を見上げる者は

館の従者が多かった。

聖騎士は昼の港の騒動で

多少、免疫ができているようだ。


遠方の一定の距離にピントを

合わせ360度回転、少し遠くに合わせ

また一回転。

それを繰り返した。


粗方、目視し終わったストレガは

地上に降下した。

下では地図を広げてストレガを待っていた。

ストレガは馬車が見えた地点を

一つ一つ指し示していく、

とある一点を示した時

パウルが声を上げた。


「それだ。そこには配置していない」


場所はここから十数キロ離れた

町の端の方だった。


「そこ、何の場所だ」


地図を覗きながらヨハンが疑問を言った。

答えたのは近くの聖騎士だ。

仲間の誰もヒタイングの土地勘が無かった。


「そこは確か材木問屋です・・・ね」


「材木が危ないって事っすか」


「ととにかく行きましょう」


チャッキーの言葉には誰も答えなかった。

ハンスは移動を促す。


「そうですねぇ、パウル君はここで指揮を」


「分かりました。勇者にも連絡を入れます」


ユーの指示に了承するパウル。

ユーは既にクリスタルを所持している

連絡は問題無い。


「この距離なら飛べます。先行します」


言うや否や、爆音と土煙を上げ

ストレガは飛び立った。


皆腰を抜かしそうになった。

分かっていても、この音は馴れそうなかった。


4分程度で目的地まで飛ぶストレガ。

空中で噴射を停止して重力制御のみに切り替え

音も無く下降していった。


夕刻に入った。

町の端ということもあり

辺りは暗くなり始めている。

浮遊したまま防音結界を発動させ

音を立てずに慎重に馬車まで接近した。


後部の車窓から中を覗き込むが

もぬけの殻だ。

二台とも同様だった。


防音結界を解除し着地すると

ストレガは材木問屋の建物を調べる事にした。


今日は皇太子が帰還する日という事で

営業はしていなかったのだろうか

明かりも無く、人気も無い

木の香りが漂っているだけで

人が居る様子は無く

ちょっと調べただけでも

その事が分かった。


そして馬小屋を調べて呆然とする。


「そんな・・・。」


この馬小屋の規模なら

外の教会用と同規模の馬車があって良いハズだ

材木を運搬する仕事だ

小さめの馬車1台とかはあり得ない。

どの程度の馬と馬車があったのかは

分からないが

そこには馬も馬車も見当たらなかった。


やられた。

乗り換えられたのだ。


すぐに探そうにも

元の馬車の特徴が分からない。


休みで目撃者もいないだろう

手掛かりがストレガには無い。


ストレガは途方にくれ、

ヨハン達の到着を待つだけになってしまった。

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