第5話 冒険者ヨハン

「そうか・・・最後はそんな感じだったのか」


ヨハンはゲカイから

彼女が最後に見たアモンの話を聞いた。


当時のヨハンは失意の中、外の騒ぎも気にせず

寝転んでいた。

空中戦の光線の閃光が室内を照らしていたのは

覚えていた。


「話してくれて、ありがとう」


首を横に振るゲカイ。

その動作に遅れて追従するツインテール。

これがたまらないと兄貴は言っていた。

何がたまらないのかヨハンには

今でも分からない。


「私はその時、地下でした」


ストレガはバッテリーの電極を

地表近くに突き上げる操作をしていたのだ。


「言いつけ通り、そのまま騒ぎが収まるまで

地下に居たのですが・・・出ていれば」


「いや、結果は同じだっただろう

兄貴はストレガの存命を望んでいた

これで良かったんだよ」


ヨハンがそう言ってもストレガの

後悔は消える事は無いだろう。

そう分かってはいても慰めの言葉は

言ってやるべきだとヨハンは思った。


「なぁゲカイは今どこで寝泊まりしているんだ」


なんと宿無しで、その辺の公園で寝ているそうだ。

いくら存在の解除で誰にも見つからないからと

言ってもこんな少女が野宿とは


「じゃあ、魔界に戻るまでココに住まないか」


「お兄様」


「兄貴もきっとそう言うぜ」


「・・・そうですね。二人では持て余す広さの家

きっとこういう時の為だったんでしょう。」


ゲカイは椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。


「お世話になります。」


そうしてゲカイはアモンの残した家の住人になった。

その後はストレガと二人で普段着を買いに出かけて行った。


ヨハンは冒険者登録に行く事にした。

ストレガはヨハンがその気になったら持たせろと

アモンから預かっていたという袋を置いて行った。


持ってみて驚く、かなり重い。

ストレガはこれを軽々持ってきた。


ストレガは本体は非力なスケルトンだが

悪魔ボディに包まれている。

アモン程では無いが力は相当なものだ。


中身を見てみると鉱石がビッシリ詰まっていて

ゼータ・アモンの紹介状も入っていた。


「このまま受付に行きゃイイのか」


久しぶりに外に出た。

部屋でくすぶっているより

よっぽどイイ

やっと、そう思えるようになった。


程なくして冒険者協会に着いた。

受付で冒険者登録の希望を伝えると

受付は丁寧に説明を始めた。


「あ、悪ぃ。先にコレ渡せって言われていた。」


ヨハンはそう言って、袋を床に置き

中から例の紹介状を出して受付に渡した。


「・・・しょ!少々お待ちください」


封筒の中身を見た受付は

凄い勢いで奥に引っ込んでいった。

しばらくすると見覚えのある男が階段を下りて来た。


「ん、ありゃ確か支部長の・・・」


9大司教の「武」時代に会った事がある人物だ。

名前が思い出せないが、初対面という事になるので

問題無いだろう。


「はじめまして。ここの責任者のゴンドと言う。」


体格の良い初老の男がそう言って握手を求めて来た。

そうだ、ゴンドと言っていたっけな

ヨハンはそう思い出しながら握手に答える。

長年、冒険者として生きて来た手だ。

皮膚が分厚くて堅い。


「世話になります。」


「話は上で・・・ああ荷物は預けて」


ヨハンは袋を預けると、促されるまま階段を上った。


案内されたのは支部長室だった。

椅子に腰かけると茶が運ばれてくる。


「お兄さんとは髪の色など違うのだな」


冒険者ゼータ。

当時、手配の掛かっていた

アモンの兄貴は冒険者としてベレンに

滞在するときストレガに似た外観にしていた。

青紫の頭髪、色白、左右の瞳の色が異なる

オッドアイと呼ばれる目だ。


「ただ、やはり面影がある」


ヨハンの顔をしげしげと観察しながらゴンドは言った。

顔を作成する際に俺の顔を参考にでもしたのか。

そう思うと少し照れるヨハン。


「俺には受け継がれなかったんですよ

そんなんで俺は普通でお願いします」


すでに噂になっているアモン兄妹の

評判は天井知らずに尾ひれがついている。

現にストレガはここ数日の魔物討伐で

重力操作による浮遊から例の射出で

大型の魔物数体を葬り「本物の魔女」と呼ばれている。


この噂の話をいつぞや夕飯でしたら

ストレガは真っ赤になってしまった。


「実は・・・ですね」


浮遊も射出も悪魔ボディの機構を

応用した技で厳密に言うと魔法では無い。

本物と言われるのは恥ずかしいそうだ。


ただ兄貴からストレガは魔法使いとして

定着させる。と言われているので

がんばってミステリアスな雰囲気を

演出しているそうだが、本人は

居たたまれないと言っていた。


その話を聞いたヨハンは

嘘だ。ノリノリじゃねぇか

そう思ったが言わないでおいた。


ヨハンの、そんな回想からゴンドの

言葉で現実に戻る。


「もちろん、協会として特別扱いはしないが・・・」


「が?」


そこから先は少し言いにくそうにゴンドは言った。


「他の冒険者達がどう振舞うかまでは

協会として強制出来ない。そこは先に

謝っておく。すまない」


「いえいえ」


意味が良く分からないヨハンは適当に答えた。


「お、出来た様だ」


しばらく雑談をしていると扉が開き

受付嬢がプレートを持って入って来た。


渡されたプレートは銅製で3の文字と

ヨハン・アモンの名前が刻まれていた。


「ん、木製じゃ無かったっけか」


冒険者のランクは大きく四つ

そのなかで更に3段階に分かれている。

上から

G1~3(グレート)金プレート

H1~3(ハイ)銀プレート

S1~3(スタンダード)銅プレート

E1~3(エントリー)木プレート

となっており

特別扱いで無いのなら最下級のE3から

始まるハズなのだ。


「先程の荷物は納品の鉱石だ。

その評価点と合わせて

上位者の推薦があったので

EランクからSランクへの試験は免除される。

なのでS3からスタートしてもらう」


それが特別扱いなんじゃないのかと

ヨハンは思ったがアモンの好意として

喜んで受ける事にした。

食いぶち程度稼げれば良いので

Eランクのクエストで十分なのだが

上位が下位のクエストを受けるのに

制限は無いので問題は無い。

逆は出来ない。


「分かりました。これからよろしくお願いします」


「期待しているぞ」


再び二人は握手を交わす。


「後、こちらがこれから君を担当するアイリだ」


支部長にそう紹介されるとアイリはお辞儀をした。


「よろしくお願いします。」


「ん?アイリって確か・・・」


ストレガからちょくちょく名前を聞いている。


「はい、妹さんも私が担当させていただいております。」


確かストレガはH1で今度Gクラスの承認を受ける為に

他の都市に赴かねばならないとかで何日か家を

空ける事になると言っていた。

見た所アイリは若い。

この若さでHクラスを担当するとは

相当なヤリ手と言う事だ。


「おぉ、あなたが。妹から色々聞いてます」


「え?何て言ってるんですか私の事」


「ん色々とな」


アイリと話をしてみると

失礼だがヤリ手には見えない

明るい普通の娘だ。


能ある鷹はなんとやらか

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