デビルバロン 2

@tetra1031

第1話 食いぶちぐらいは自分で

「おはようございます。ヨハンお兄様」


一番上の兄貴いわく「萌え声」で妹のストレガが

真ん中の兄のヨハンを起こす。


特徴のある声なのは同意だが

この声のどこが「萌え」なのか

ヨハンには理解出来なかった。


それを詳しく聞こうにも

もう兄貴には会えない。


その現実は想像以上にヨハンに

ダメージを与えた。


3人とも血の繋がりは無い。

というか人間ですら無い。

一番上の兄貴は悪魔で

二人は魂と引き換えに

今の身体を手に入れたのだ。


妹のストレガの正体は

アンデッドモンスターのスケルトンだ。

兄貴と同じ悪魔のボディで骨を包んでいる状態だ。

見た目には15歳の少女だ。

それを疑う者はいないだろう

完璧な外見だが

皮膚の下は形を変える事が出来る金属粒子の塊だ。


生き物では無いので

体温も無い、呼吸もしていない

食事も睡眠も摂らなくてOKだ。


ただ最近では偽装も板についてきた。

体温発生も呼吸も行い

食事も体内に一時的にため込むだけの行為だが行えるのだ。


「ゼータお兄様はもっと上手でした・・・。」


ストレガはそう言って

自慢にはならないと言っていたが

ヨハンには見た目に人間としか思えない。


正直たまに変な気持ちになるのだ。


ただ触ると、触ると誰もが

直ぐに異常に気が付くだろう。

生き物では無い固さだ。


悪魔の長男は周囲の人の

悪感情と自動的に供給される

魔王からのエネルギーで活動していたが

ストレガの場合は「魔素」とよばれる

周囲にあるエネルギーを取り込んで

活動していると言っていた。


長男の悪魔は強大な力を誇っていたが

ストレガの方は、かなり劣るそうだ。


「ぁあ、朝か」


ヨハンはそう返事をするが

ベッドから起き上がらず寝返りを打つ。


ヨハンは改造人間だ。


元9大司教の一人だったが

寿命を消費して行う秘術を行使したせいで老人化した。


それでも治まらぬ祖国の危機に

立ち向かう為、なんと敵であった悪魔に

願いをかなえてもらい若い肉体を手に入れたのだ。

その際、悪魔の個人的趣味で

色々改造された状態になり

攻撃はもちろん、あらゆる能力が上昇した身体になった。


しかし、寿命の延長は願いでは無かったため

若い外見にも関わらず残された時間は少ない

若い外見になってしまったせいで

ヨハンだと理解できる人も居ない為

教会にも戻れず天涯孤独の身だ。


戦いが終わった今

静かに余生を送るのみだ。


長男の悪魔は戦いで消えた。

最初からその覚悟だったのだろう

ヨハンとストレガの為に

人の世で過ごせるように

この家と冒険者という市民権を残していってくれた。


兄貴・・・。

世話になりっぱなしで

何一つ返せなかったな。


「と、またそう思っていますね」


「おわっ」


ストレガがベッドに乗り上げ

ヨハンを覗き込んできた。


「ふふ、朝食が出来ていますよ

すぐ起きて下さいね。」


ヨハンを驚かせて満足したのか

ストレガは上機嫌になって

ベッドから降りるとスタスタと

部屋から出ていく。


青紫の髪は後ろで結んであった。

家事がしやすいようにだ。

それがストレガの歩調に合わせて

楽しそうに揺れている。


強い子だ。

兄貴の喪失で

俺より心にダメージを受けているハズなのに

明るく振舞ってくれている。

朝メシだって自分には必要の無いモノなのに

わざわざヨハンの為にやっているのだ。


以前、悪いから世話を断ろうとしたヨハンだが

頑なにストレガに拒まれた。

人の振りをするために

人の営みは欠かせない

そしてなにより


一番上の兄からヨハンの面倒を頼まれた。


だそうだ。

悪魔の長男に心酔しきっているストレガには

長男の言葉は絶対なのだ。


「食いぶち位は自分で稼げよ」


長男からは確かそう言われていた。

余生とは言え体は動くのだ

ハッキリ言ってヨハンの人生で

今が一番活発に活動が可能なのだ。


ショックで寝込んでいたが

そろそろヨハンも前を向かねばならない。

なまり切った体に鞭を入れ

ヨハンは起き上がった。

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