第02話 ダズ視点〜厄介払いは済んだはずなのに〜

 ああ、やはり俺には幸運の女神がついている。

 なんとある日突然、伯爵令嬢であるルアンナに見初められたのだ。


 その当時、良縁を求めてお見合いを繰り返していると口にする彼女の婚約者候補として名乗りを挙げた俺が、そのまま将来を見据えた相手として交際することになったのがきっかけだった。


 つい最近まで、自身が置かれていた境遇を呪いさえしていた。

 優雅な生活のためとはいえ、商人如きに資金の援助をしてもらっていたのだからな。


 それがどうだ、いまや俺は取り潰しの憂き目にあったレイドリー家を再び返り咲かせる英雄ではないか。


 確かに容姿は彼女と比べると、若干ではあるがメリエッダの方が優れている。

 平民ではあるものの、それなりの生活を送っていたおかげか身なりはしっかりしており、地味な雰囲気の割に愛想もあるしなにより胸がデカい。

 

 だが、決定的に品格がない。

 当然だ、金はあろうとしょせんは平民風情なのだから、生まれ持った瞬間にそれを持ち合わせている貴族の我々とは違うのだ。


 それに大してルアンナの家柄は我が家より上でありながら、この俺にベタぼれしている。

 よって、利用価値のある後者を選ばない選択肢はない。


 まあ家督を継ぐ嫡男がいるとは聞いているが、仮に彼女がこちらに嫁いできたとしても妹の幸せのためになら、資金援助くらいは当然してくれるだろう。


 つまりこれでようやくテナス商会の連中に対し肩身の狭い思いをする必要がなくなったという訳だ、ふはははは。


 それもこれもすべては人運を手繰り寄せる俺の人間的魅力があってこそのもの。

 そして数日前には邪魔な存在だったメリエッダに婚約破棄を取り付けることに成功し、ようやく俺を煩わせる人間はいなくなった。


 唯一の懸念はあいつに支払わなければならない慰謝料の額だが、どうせ庶民が一日遊べるだけの金でも渡しておけば問題ないだろう。

 本当ならあいつから慰謝料をもらってそちらもパーッと散財する予定だったが、仕方ない。


「ダズ様、テナス商会から一通のお手紙が届いております」


「よこせ」


 我が家で唯一住み込みで働く使用人から手紙を受け取って乱雑に開く。

 どうせ慰謝料の催促だろうが、さっさと金額を確認して――ピタリと息が止まる。

 白い便箋の上に書いてあったまさかの要求額に俺は自身の意識が遠くなるのを感じた。

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