太陽のような君に恋をする

@Irohagashi

プロローグ

 周囲の人間が全て敵に見えるようになったのは間違いなくこの日からだった。

 中3の7月。肌を焦がすような日光に陽炎が立ち昇る。

 晴れ渡るような快晴。雲一つない青空は見るものの心を晴れやかにさせる。


 そんな日。


 体からは汗が止まらず、じっとりとした感覚に一刻も早くシャワーを浴びたい。

 ───だが、その時流れていた汗は記録的猛暑の外気とは関係ない、もっと別種の冷たい汗だった。


「お前なんかが星恩受けんの?恥ずかしくないわけ?」


 放課後の教室で、俺────葛谷啓太が座る席の目の前に立つ少年が「進路希望調査」と書かれた紙を見ながら、そう言った。


「なぁ、何とか言えよ。お前っていつもそうだよな。教室の隅の方で、こそこそしててさ。陰キャは陰キャらしくもっと底辺の高校がお似合いだよ。」


 星恩高校。この辺りでは1番の私立高校で、とりあえずここを目指しておけば間違いないと言われている進学校だ。

 教室にはクラスメイトがまばらに点在し雑談している、よくある放課後だった。


 ほんのさっきまでは。


 突然始まった公開処刑。普段交わることのない2人が何やら不穏な雰囲気ともなれば、教室内は、今、口を開いてはならないという暗黙の了解が、共通認識となった。


 何せ、今俺の目の前で人を心底見下したような目で見下ろすこの少年は学年の人気者。相手の言葉を借りるのであれば生粋の陽キャ。

 片や俺はクラスの隅でなるべく目立たぬように数人の仲間達とゲーム談義に華を咲かせるような日陰者。

 その2人の相性なんて火を見るより明らかで、嫌でも周囲からの注目を集め、かつ、誰も口を挟めない雰囲気が完成していた。


「………」


 俯いたまま口を開かない俺に苛立ちを覚えたのだろう。

 ちっ、と舌打ちし思いついたように手に持っていた紙を宙に掲げる。


「皆。こいつ星恩に行きたいらしいんだけど相応しくないよな?なぁ?相応しいと思うやつは手挙げて?」


 ────あぁ、これはやばい。


 体中から嫌な汗が噴き出すのを感じる。

 助けを求めるようにいつも話している友達の方へと目を向ける。

 だが、「友達」からの視線はいつまで経っても帰って来る事はなかった。


 教室の中に手を挙げているものは誰1人いない。

 その事実を認識した瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

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