Chapter4-2
レティシアが何かがおかしいと感じたのは、兄の部屋で2体の敵国の死体を見たからだった、あれは兄が倒したのだろう。
そして、来る途中に
それから城中を探したが、帝国民の死体はあるのに、自国の民の死体が1体も
「ここにある本。ザッと見てみたが貴重な物も多い、そこら辺の部屋にも入ったが、荒らされている形跡はほぼ無かった、おまけに帝国の死体は有るのにリザレスの者と思われる死体が1つも見当たらない」
ノアが淡々と話す内容にレティシアは、寒気がした。
「ヴィエトルリアの狙いは、貴重な本でも金目の物でも無い。恐らく……」
そこまで言われれば、流石にレティシアも気付く。
「リザレスの民……? でも、どうして?」
「それが分からないから、調べている」
椅子に座るでもなく、床に座り込みながら開いたページをパラパラと確認するノアの周りには、乱雑に置かれた本があちこちに散らばっている。
「帝国民とリザレスの国民との違いは何だ?」
ノアが自身の手にしている開いた本から、目を離さずレティシアに質問を投げかけた。
(ヴィエトルリアの人と私達リザレスの人達との違い……住んでる場所? 人口の差? いや……決定的に違う
「精霊師?」
精霊師、それはリザレスの民しかなり得ない精霊を使役する者達のこと。
「私達精霊師の力が欲しかったから、襲ってきたという事?」
「そう単純な話でもないだろうな。ただ精霊師の力が欲しいのであれば、生かせて奴隷にするなり傀儡にするなりして、帝国の為に従わせたほうが帝国の理にかなっている」
「…そんなっ」
「城内を見たが、焦げた臭いや焦げ跡があった。火事が起きていたんじゃないのか?」
「う、うん。帝国に襲撃された時、城は燃え広がっていたわ。だから私はお兄様に連れられて外へと逃げたのよ」
ノアはパラパラと読んでいた本の手を一旦止めて、眉を寄せて考え込んでいる。
「おかしくないか?」
「おかしいって、火事の事?」
レティシアは戸惑う表情を見せる、ノアの言いたい事が分からない。
「何で全焼していないんだ? 中途半端に燃え広がった状態でほぼほぼ城の形は保たれているし、不自然に火の跡が止まっていた。自然に消火されたとは思えない」
「火の跡が止まっていた? どういう事? 城が無事なのはいい事ではないの?」
「火を起こしたのが魔術で作られた炎だとすると、城が燃え尽きていないのに自然に鎮火する事はあり得ない。雨が降ったとしてもだ、それに土は湿ってもいないし水溜まりなどは一切なかった。ここ最近は雨が降った形跡が無い」
「誰かが火事を止めてくれたって事?」
レティシアは、訳が分からない。
「その
「帝国民?」
「だろうな」
「え!? 何で? あり得ないわ!! だってそうだとしたら火を点けたのは帝国民で、火を消したのも帝国民って事になるじゃない!! 何でそうする必要が!!」
混乱する頭の中でレティシアは、自分が先程見た兄と姉の部屋を思い出した。確かに2人の部屋は燃えていなかった。寧ろ燃えていなかった事にホッとした様な気持ちさえ感じていた。
「城を、手に入れたいから?」
(あの時、兄様と一緒に城から外へ出た。だって、あのままあそこに居れば、2階は炎に巻き込まれただろうから
「……俺の考えを言っていいか?」
「お願い」
「城を燃やしたのは、中に居る
「焼き殺さない為……」
「つまり焼失したら困るんだよ、死体を回収する為に」
ヒュッとレティシアは息を呑んだ。
憶測だと、これはあくまでノアの考えによるものだとレティシアは頭の中で反抗するが、身体は固まるだけで腕も足も口も動かせない。
だって、もしかしたら。リザレスの国民達は生き残っていて、帝国人を返り討ちにしているかも
そのかもしれないを想像する度に、心臓が苦しくなっていく。どうして苦しくなるのだろうかという理由に向き合いたくなくて、レティシアは心の中で気持ちを無理やり抑えつけた。
「だから、精霊師について調べ……お前もう休め」
ノアはレティシアの顔を見て、続けようとした話を途中で切り上げた。
レティシアの目にはノアの顔が映らない。"休め"という声だけが耳に入り、何も言わずにフラフラと図書館を後にする。
バタンッと図書館の扉が閉まる音が響く。図書館の中では再び本を捲る紙の音のみが、静かになった部屋
で小さく主張していた。
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