作られた天然

うり北 うりこ

第1話


 小柄な体格、少し高い声、ふわふわの長い髪、甘えた視線。クラスの女子は皆、モエのことをあざといと言う。

 そんなモエは今日もモエ流の『さしすせそ』を使う。

 「触ってみてもいい?」「シーっだよ?」「好き……になっちゃうかもよ?」「席、隣いい?」「傍にいると落ち着く」を屈指して相も変わらず、私がちょっといいかも……とこぼした男子にアタックしてる。


 馬鹿なモエ。私が好きなのはその男子じゃないのに。

 モエは、私がその男子を見てると思ってるんだろう。きっと、私が心のなかで悔しがってると思ってるんだろう。

 男子にボディータッチをしたモエは、ちらりとこっちを見た。


 作り上げた彼女のあざといは、また今日も男子を虜にしていく。

 でも、まだ大丈夫。モエは私の気になる人を欲しがっているから。まだ本気な人はいないから……。今はモエの一番は私だから。



 ◆◇◆



 アイコはカッコいいのに、可愛い。細身のパンツにストレートのロングがよく似合う。今日のポニーテールは誰のためなんだろう。

 私は今日もアイコを盗み見ながら、アイコがいいな……、と言った男子に好きでもないのに自己流の『さしすせそ』を屈指してアプローチする。


 女子は皆、私をあざといって言ってるのは知ってる。だけど、男子の視線をアイコに向かせないためには仕方ないじゃない。天然ぶって、気を引かないと。


 ちらりとアイコを見れば、熱が見え隠れする視線をこちらに向けている。隣に立つ男子が妬ましい。

 せめて、その視線が絡み合うことのないように私はあざといと言われる態度で笑顔を振りまく。


 大丈夫。男子の視線を私に集めている間は、アイコに彼氏はできない。

 大丈夫。アイコが気になる男子を横取りしている間は、それが上手くいってる間は、アイコは私を意識する。

 どんな感情でもいい。強烈な感情が欲しい。ただの友達の一人だなんて耐えられない。


 どうか、その瞳に私を映して──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

作られた天然 うり北 うりこ @u-Riko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ