第18話
◆
「これで浮気は許してあげる~もうやっちゃダメよ~」
両手で持ちきれないほど商品を買わされて、やっとお許しが出た。間延びした話し方なので分かりにくかったが、どうやらかなり怒ってたらしい。
「酷い目にあった……」
魂からの嘆きである。
どこぞの親戚がくれたらしい金がなければ借金を背負う羽目になったところだ。いや、もしかしたら俺の限界を見極めながら買わせたのかもしれないが。
「うふふ~女の子は怖いものよ~」
女の子?
二十歳そこそこの彼女が、そのカテゴリーに入るか疑問だが、その話題は間違いなく地雷だ。表情に出さないよう必死に無表情を貫き、他の事を考える。
あー窓がガタガタうるさいなー。まだ風が強いなー。
「……ああ、そうだ」
「どうしたの~?」
散々買った後だが、もう一つ欲しい物を思い付いた。それは
いくら来紅のポーションが安いといってもジュースでは対価として足りない。それに、場合によっては頼み事もするだろう。ならば、手土産の一つでも必要だと思ったのだ。
と、言うかなぜ俺は窓を見てたら来紅を思い出したのだろうか。これが友情か? 何をしてても友達が思い浮かぶ的な。
きっと、そうだな。
「プレゼントを買いたい。大切な友達がいるんだ」
直後、窓の音が小さくなる。
徐々に音が大きくなっていて喧しかったので、そろそろ閉めようかと思ってたが、その必要はないらしい。
これで目の前のニヤニヤした
「あなた本当に可愛いわ~実は彼女さんかしら~」
「違う。けど、一人しかいない友達だから同じくらい大事かもしれん」
「悲しいわ~。私とは友達じゃないのね~」
シクシクと、雑な泣き真似を始めた彼女は涙の代わりに笑みを零して俺の反応を愉しんでいた。
そういうの本当に止めてくれ。来紅に見られて、うっかり殺されたら死んでも死にきれないぞ。
「恩人と友人は別だろ」
「むぅ~まぁいいわ~」
俺の祈りが通じたのか、店員さんはヒラヒラ手を振りながら店の奥に引っ込む。オオスメを取りに行ってくれたわのだろう。
いつしか窓の音は完全に止み、店内は静寂に包まれた。
「……タバコ吸おう」
タバコはストレスと暇つぶしの強い味方である。固有スキルのお陰で肺へのダメージは気にせず済むし、これからはガンガン吸っていこう。
たしか外に灰皿があったなと思い出しながら扉に手を掛けると、再び窓が音を立てる。
それは台風が上陸した時のような激しさだ。まるで外に出ることを拒絶されてるようにすら感じる。
「また風が強くなったのか?」
こうなるとタバコの火が燃え移る危険があるので迂闊には吸えないな。仕方無く諦めて、ゴミが中に入らないように窓を閉める。
「ㇶェ……」
閉めた時に変な音が聞こえた。隙間風だろう。
しかし、窓を閉めれば音が止む程度の風で良かった。帰るのが億劫になるからな。
「みてみて~沢山持ってきたわよ~」
ドカッとカウンターに置かれたのは小さな指輪から巨大なハンマーまで大小様々な商品、共通してるのは高い物だという事位だ。
「どれか買ってくれたらリュックも付けちゃうわよ~」
「商売上手だな……」
もう既に両手で持ちきれない買い物をしてるのでリュックは素直にありがたい。
……平民の平均月収が消し飛ぶような商品ばかりでなければだが。どれだけ根に持ってるんだ。
「おっ、これ幾らだ?」
「ん~これは~」
死んだ魚の目で選んでいると、一つだけ目を引く物があった。
それは、アイビーが描かれた指輪にネックレス用のチェーンが通された品である。これは花を滅多に付けない蔓植物で、確か友情だとか不滅だとかがあった筈だ。俺達にピッタリだろう。
花言葉を知っていたのは、『病みラビ』は花に関する名付けが多いのでプレイする内に自然と学んだのだ。
まぁ、自分で調べようとまでは思わなかったので、そこまで詳しくはないが。
「ほんと~に~これでい~の~?」
「ん? ああ」
店員さんが探るような、されど心配もしてるような雰囲気だが別に問題ないだろう。主人公も似たような柄のプレゼントを贈っていたしな。
俺の意思が変わらない事を確認するとプレゼント用に包んでくれた。
「またね~」
「ああ、また来る」
荷物をリュックへ詰めた俺は他に買わされてはたまらないので、さっさと外へ出た。
風に乗ったゴミが目に入らないよう腕を傘にしていると、背後から裾を引かれた。
「ねぇ、浮気って何のこと……」
「っ来紅! てか、聞いてたのか!?」
道具屋の影から出て来るように現れたのは、今朝の夢にも出てきた来紅だった。
夢の時とは違い
「いいから教えて」
「あ、ああ……」
店員さんとの会話を、どこまで聞かれたのか分からなかったため、今日の行動全てを説明する羽目になったが、命と
そうして、なんとか納得してもらえた頃、これなら行けそうだなと感じた。
それは、誤解が解けた事に対してだけではない。とある頼み事に対してもである。
そう思った俺は善は急げの精神で、浮かれている来紅へ告げた。
「俺と親友になってくれ」
その言葉と共にネックレスを差し出す。それはまるで一世一代の告白の如き気迫だった。
そう、これこそ薊が一晩と半日を使って出した打開策である。
なら、来紅と親友になり増やしてはならない対象を友人から親友へ変えてもらうという策である。
それに俺自身、来紅と話すのは基本的に楽しいし、今以上に仲良くなりたいとも思っているのだから一切問題なかった。
まぁ、友達も親友も頼み込んでなるような間柄ではないかもしれないが、こういった事に慣れてない俺達には必要な事なのだ。
お互いが誤解なく関係を変えたと確信出来る何かが。
それから少しして来紅が無言でネックレスを受け取ると口を開いた。
「本当にありがとう。こちらこそよろしくね」
緊張しながら答えを待っていると、満面の笑みで了承を貰えたのでホッとする。
一時はどうなる事かと思ったが、無事に終わったようだ。
そうして俺達は、後日遊ぶ約束をしてからそれぞれの帰路についた。
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前話冒頭にならず、
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