第2話 

「一体どうしたんだい?

昨日はわりと元気な方だった気がしたけれど、今日の気分はあまり優れないようだね、残念なことに」


双子の兄、みつるにはいつも手を焼かされる。

彼はいつも独り。

それは彼が美しすぎるから悪いのだ。


『濡れた黒い瞳は透き通る宝玉、漆黒の髪、憂えたため息。

まるで神の産み出した美の化身…』


彼を敬愛してやまない女子隊らは、こう表現している。

語彙がすごい。脳内妄想リミッターは大丈夫なんだろうか。

僕は生徒会所属故、多くの生徒を見回る立場にあるが、我が兄ながらクラスの噂が堪えない。

やれ今日の憂えた顔がどうした、やれ体操着から覗く手足がどうしたとか…。

話題はだいたい兄のことばかり。


「全く…この学校の生徒は、他にやることが無いのか?」


何度目かの噂を耳にしてうんざりしていると、なんの用事もないのにわざわざ生徒会室にやってきた書記の風見かざみが癒し系の笑顔を浮かべてきた。


「仕方ないデスよぉ〜!

だって『黒騎士様』はぁ〜超がつく程、麗しいんデスもん〜!

もっちろんっ、滴様も美しいデスけどね〜性格が超ドSで人使い荒すぎて何人も書記辞めちゃいましたもんねぇ〜!

僕みたいな従順な奴隷下僕根性がある変態しか近寄りませんよぉ〜?

ため息吐くだけで周囲を虜にできるのは『黒騎士様』の満様だけデスもん〜!

あはっ!な〜んだか人魚みたいデスねぇ〜!」


毒舌は相変わらずだ。憎たらしい。だが事実なので否定の材料が全くない。

しかしもっと憎たらしいのは、多忙な僕を教室に呼び出して、ゆるゆると懺悔する、この兄。


「…………僕は滴と違って…、なんて駄目なんだろう……」


睫毛の影が長い。憂えた瞳、濡れた唇。


こいつは…確信犯か?


「……なんで僕と滴は……こんな違うのかな…」


そう言って魅惑的な瞳で僕を見上げる。

兄妹でなくば、その扇情的な視線に心奪われてしまうだろう。

もはや彼の美貌は凶器のようなものだ。

この濡れた瞳に我が学園は男女問わず、恋に落とされている。


全く……それはこちらの台詞だ。

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