第22話

◆ルーベンside









「確か、この辺だったよな」




 【復讐誓約】のクールタイムが終わった俺は『ゆるふわ』が居るであろう場所へ向かっていた。


 見つけられたのは偶然だ。腐肉戦士の【滅私放光】による【自爆】でできたクレーターの底から薄紫色の光を放つ石造りの人工物を発見したからである。


 それが目当ての場所だも思ったのは、鉄筋コンクリートを容易く破壊する【自爆】で殆ど傷がついていなかった事、そしてゲームストーリーでリコリスがいたのは地下にある石造りの祭壇であり、その石材は目の前にある石と同じような色をしていた事だ。


 ストーリーの設定上、リコリスの居る祭壇は彼女の魔導により尋常ではなく強化されており、半端な攻撃ではビクともしない耐久力となっている。恐らく、その設定が再現された結果なのだろう。




「それとも、『ゆるふわ』はリコリスのゲームストーリー由来の『能力』も使えるのか?」




 『ゆるふわ』の『能力』も戦闘システムの仕様に縛られている部分もあるのは分かる。その最たる例は腐肉戦士だ。


 【従僕生成】による腐肉戦士の【召喚】も十分に恐ろしいがゲームストーリーでは、それを遥かに上回る。


 ゲームストーリーでの【従僕生成】の効果範囲は街一つに及ぶのだ。それだけでなく、あの世とこの世の境を曖昧にし世界中でゾンビの発生率を激増させる。


 今までゾンビ大量発生は『ゆるふわ』ではなく、神が原因である可能性も考えていたが、あの祭壇と思われるモノを見る限りリコリスが原因の可能性が高いだろう。




「だとしても、俺が負ける理由にはならんけどな」




 『ゆるふわ』がゲームストーリーの能力を使えるのだとしたら確かに脅威だ。俺が使えるエリカの『能力』はストーリーと比べれば、戦闘システム由来の貧弱なモノだろう。


 だが、俺が最強だと信じたエリカの『能力』は戦闘システム由来の『能力』だ。確かにストーリー由来の『能力』は強力ではある。


 しかし、その『能力』は俺を含め全てのユーザーが誰も使うことの出来なかったエリカだけの『能力』だ。


 そのエリカだけの財産とさえ言える『能力』は俺にとっては誰も汚してはならない聖域に等しい。今思えば、俺が使えるようになった『能力』が戦闘システム由来のモノで良かったとすら思える。




「見つけた」




 考え事をしながらも足を止めずに探していた祭壇の一部と思われるモノを見つける。


 昼間でも見える僅かな紫の光はアメジストのような大衆受けする美しさではなく、寒気を感じる光を放っていた。




「【阿鼻決別あびけつべつ】から出る霧の方が綺麗だな」




 俺は基本的にいるモノが好きだ。物理的な尖りではなく、性格やステータス等の形がないモノが特化している意味での尖りである。


 その点、この石材から感じる寒気はゴキブリを見たときに感じるような安っぽい寒気である。対してエリカの専用装備である【阿鼻決別】は見ただけで精神を侵されるレベルだ。(実際、飾りの『元』に見せたら発狂しかけた)


 一寸先も見えぬ闇の中に立たされた時に先を見たくなるような、刃物や兵器が危険だと分かっているのに使いたくなるような、そんな妖しく誘う美しさがある。これもエリカの一途な感情を受け止めた武器であるが故に持てる美しさだろう。


 結論。エリカは美しく、『ゆるふわ』はゴキブリである。


 と、言うわけで──




「汚物は消毒だよな」




 浮浪者汚物火炎放射消毒、虫に殺虫剤、バフにはバフ解除。


 このバフ解除を持つスキルこそリコリスが居る祭壇の出入り口を探さず探索を終わりにした理由にして、祭壇の堅牢な守りを打ち砕く手段にして、【従僕生成】に対する切り札。


 その名は【絶対制裁】。敵のバフを全て解除した上でATKの1200%ダメージという高倍率を叩き込む凶悪なスキルだ。


 何故、戦闘システム由来の『能力』であるバフ解除がストーリー由来の『能力』であろう祭壇の守りを砕く手段になるかと言えば、俺は祭壇の堅牢性はある意味バフによるものだと考えた為だ。


 ゲームストーリーでリコリスの祭壇が堅牢だったのはリコリスが魔導により強化されているからである。強化とは、つまりバフだ。ストーリー中だろうが何だろうが、バフで強化されてる事には変わりないのだ。


 ならば【絶対制裁】でバフを解除し、ただの石材となった天井を砕き侵入できると思ったわけだ。


 推定『ゆるふわ』の本拠地だ。さぞ腐肉戦士がひしめいていることだろうが勝算はある。問題ないだろう。



 ──【絶対制裁】──



 俺が【阿鼻決別】をスキルに沿って振るえば、石から放たれていたショボイ光を消し飛ばし、豆腐のようにあっさりと切断した。


 バフを解除をされ両断された石材だけが下へ落ちていく。すなわち、『ゆるふわ』の居城たる祭壇内部へと。





「ついでに俺もっと」




 落ちても大丈夫そうな深さだと確認した後、穴の縁に手を掛け体を穴の中に落とす。こうして、先に落ちた石材に追従する形で俺は祭壇への侵入を果たした。

















 祭壇への侵入を果たした俺が見たのは、散乱した瓦礫と人体を素材とした『インテリア』だった。


 瓦礫は俺が落としたであろう物もあるが、明らかにそうではないから入ってきたと思われる瓦礫も存在した。


 これは、もしや──




「『ゆるふわ』は留守か?」




 念の為と慎重に祭壇内を探索してみるも出てくるのはリコリスが好みそうな『インテリア』と実験か拷問にでも使ったであろうしかなかった。


 それと探索して分かったが、ここはリコリスの祭壇で間違えなさそうだった。


 ストーリーで出てきたイラストそのままに再現されたここは純白の儀式場と、その前に並べられた二列の棺、そして壁に刻まれた『姉上』へのメッセージで断定できた。


 『インテリア』は知らんがメッセージの方はゲーム時代にリコリス本人が書いたものであろう。『ゆるふわ』はリコリスが『姉上』を気持ち悪いと言っていた、そんな『ゆるふわ』が書くとは考え難い。




「そんな『ゆるふわ』が、嫌な顔しながら『姉上』を使ってると思うと笑えるな」




 腐肉戦士が【忍耐】バフを掛けられていた事から『ゆるふわ』がリコリスの専用装備である【姉の献身】を使ってることは分かっている。そして【姉の献身】の天辺に飾られているのは『姉上』の生首だ。


 運営に抗議文を送りつけるほど嫌っていた【姉の献身】を使う気分はどんなモノなのだろうか。少なくとも俺にとって愉快な感情である可能性は高いだろう。


 『ゆるふわ』の場合、性能の素晴らしさにあっさりと手の平を返して【姉の献身】サイコー! とか言ってる可能性もあるが、それはそれで俺が損をする訳でもないので構わない。


 というか、姉上至上主義のリコリスと【姉の献身】が大嫌いな『ゆるふわ』は、どうやってコミュニケーションを取っているのだろうか?


 やはり俺のように色々悩んでいるのか? それともコミュりょくの高そうな『ゆるふわ』が適当に話を合わせているのだろうか?


 エリカへの愛は誰にも負けない自信がある俺だが、そもそものコミュ力に自信がなく毎度そのことを痛感している。参考になる部分があるなら聞いてみたい。




飾り付け復讐ついでに聞いてみるか」




 仮眠室を飾り付けた時に、多少はコツを掴んだつもりだ。


 『能力』で強化された彼女に恐らく薬の痛み止めが効かないだろうが素の耐久力が人間の比ではなく、リコリスは回復スキルも持っていたので大きな問題はないだろう。勝手に回復するだろうからな。


 愉しみが増えて嬉しい限りだな。





「そして、愉しみはもっと増える」




 周囲には、腐肉戦士の【自爆】では傷つかない堅牢な壁、リコリスが『姉上』を復活させるのに必須の儀式場、堅牢な壁と同様にの大扉。


 リコリスに恨みはないが『ゆるふわ』にはある。留守で戦えなかったのは残念だが、これはこれで好都合だ。


 きっと、驚くだろうな。


 俺は、のこのこ戻ってくるであろう『ゆるふわ』がどんな反応をするかを愉しみにすることにした。

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