第20話

◆ルーベンside









 数えること十五回、それが【滅私放光】により【自爆】が起きた回数だった。


 本来なら百でも二百でも試す覚悟であったのだが想定より早く『ゆるふわ』がいると思われる場所を見つけたことと、近場に転がっていたメジャーを使い【自爆】の効果範囲を調べられた事が理由だ。


 それに、これ以上やる事があってもメンタルが殺られており、気力が湧かない。ついでに最初に食らったのも含め【自爆】のダメージが蓄積されている。




「一回、死んどくか」




 この消耗した状態で『ゆるふわ』に挑むのは流石に不味い。これだけ派手に戦ったのだ、何処かから覗き見られて手の内がバレてる可能性もあるだろう。


 一応、コンセントは使えなかったが電池式やバッテリー式の機械なら動くかもしれない。監視カメラでも使われていたら俺に気付く術はないのだから。


 ここは一度死んで傷を治した後、【復讐誓約】のクールタイムが終わってから挑むのが得策だろう。


 それに【復讐誓約】のお陰で死ぬばエリカと同じで傷が治るだけでなく、体に入り込んだ異物の除去、呼吸困難や空腹によるエネルギー不足の解消に至るまで行われる。


 これにより、俺は復活してから三百秒生きられれば死ぬ事はなくなった。放射能や多少の毒ガスなど怖くも何ともない。


 しかし、直接戦闘では三百秒のクールタイムは致命的だろう。特に物量攻撃を得意とし、タイミングさえ合わせれば彼女にもあるであろうクールタイムに関係なく攻撃できるリコリスの『能力』使いには。


 俺はエリカがだと思っているし、たとえ誰が相手でもそこは譲る気はない。だが、同時にだとも思ってないのだ。


 最強と無敵は同じようで全く違う。


 最強とは最も強い者の称号だ。誰よりも強く、戦えば常に相手から挑まれる立場の存在であり、敵は策を弄し時の運で得られる己の勝利を信じ襲いかかってくるだろう。


 対して無敵とは敵が皆無の者へ送られる称号だ。その称号を持つ者に敵は如何なる手段を用いても勝ち目が存在しない絶望の象徴。


 無敵とは戦うまでもなく勝利が決定された、称号なのだ。


 俺は戦うのが好きだ。ゲームの時からそうだったし、ゲームが現実を侵食しても戦ってみれば楽しかった。自分には成長の余地があり、もちろん相手にもあって互いに強さを求める過程で得た結果をぶつけ合い競い合うのだ。


 己の好きな分野で全力で競い合うことの、なんと楽しいことだろうか。戦闘での敗北は挫折や悔しさのみの負の感情とイコールではなく、自身が組み立てた戦法の何が悪かったのかを見直せる良き機会ともなる。


 だからこそ俺は、同類であるライバル達に勝つ方法は心を折る負けを認めさせるしかないと思い、かつてアリーナを蹂躙したのだ。


 今なら分かる。あの時の俺は手段と目的が入れ替わっていたのだ。エリカへの愛は変わらず心にあったが、その『愛』を戦いを終わらせない理由にしていたのだと。


 その結果が、最初の目的であるエリカの汚名返上どころか、返上したかった汚名を更に悪化させてしまったのだから我ながら愚かと言う他ないが。




「エリカなら、最初から最後まで目的を見失わず進み続けられたんだろうな」




 あの時の俺には出来なかった。本当に目的の達成だけを考えるなら他のユーザーの受け取り方を考え、エリカの悪評に繋がるような行動をしない事こそ重要だったと言うのに。


 後悔しても意味がないのは理解している。


 戦闘と同じだ。失敗は後悔し挫折するための経験ではなく、自身の手段の穴を示してくれるモノなのだと。それを理性では理解しても心が拒絶するのだ。お前は大切な存在に傷をつけた、と。


 この後悔を消すには初心に戻り、今度こそ目的を完遂するしかない。すなわち、エリカへの最強の『証明』だ。


 この世界ならば他ユーザー皆殺しにする後悔の元を断つ事ができる。神よ、こんな素晴らしい世界にしてくれた事だけは深く感謝しよう。


 だが、お前は敵だ。エリカの『能力』を持つ俺を見下し、あまつさえ試練で試すなど敵対行動以外の何物でもない。


 神を名乗るくらいなら、さぞかし強いんだろ? ならば俺が最強を『証明』するための贄としてやる。


 女神エリカでもない神に屈するものか。俺がこの世で屈服し、尊重するのはエリカ唯一人。『証明』の為ならば、例え俺自身であっても切り捨てる。




「今度こそ間違えない」




 何もないと確認した物陰で、自身の首を裂きながら決意を固める。もう見失わない為に。


 俺の死後に発動するスキルの名は【復讐誓約】。死ぬ度に更なる復讐を誓い続けた、エリカの歪まぬ信念の象徴。


 ならば俺も誓い続けよう。生きていれば、いずれ歪む信念だったとしても、死ぬ度に初心を取り戻し、最強を『証明』すると。


 俺はエリカの相棒パートナーなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る