第12話

◆ルーベンside









「モールはこの辺でいいかな」




 俺は今、仮眠室の飾りつけをしている。


 理由は簡単、俺はこれから生まれて初めて異性と初夜を迎えるからだ。それも好みドストライクな相手である。張り切らない筈がない。


 最初こそ、彼女のことは心良く思わなかった。しかし、彼女の話を聞いてる内に事情があることを知り、さらには魅力的な相手だと気づけたのだ。


 この判断に後悔はない。俺は、この部屋で過去の俺に成し得なかった夢を手にする。




「そろそろ夕飯時か。メニューは贅沢にフォアグラしよう」




 幸い、ここには簡単な料理設備が整っていた。肉(内臓?)を焼くだけなら何とかなるだろう。一人暮らしで料理はそれなりに経験があり、割と得意な方だと思う。


 しかし、今回使うフォアグラは普通の物ではない特別製だ。細心の注意を払おう。




「うむ、我ながら悪くない出来の部屋だ」




 壁は彼女の好きな紅に塗り替え、新鮮なガラス玉・・・・は陽光で美しく煌めき、中を洗ったモール・・・は、部屋中央のライトから天井の四方へと伸びる架け橋となった。


 全体的に赤系が多くなったので、そろそろ白いインテリアを採取しようか。


 また、使っている飾りは全て『元』を辿れば同じ場所から採取している。


 何が『元』かは──




「も……やめ………」




 言うまでもないだろう。


 決めていたからな、コイツは楽に殺さないって。


 それにしても───



「学校授業でしかやらなかった物作りだが、以外と体が覚えてるものだな」




 そこまで大層なことはしてないが。


 それに、このデパートには薬局とホームセンターもある。そこで欲しい道具が手に入ったのも良かった。処方箋薬局って想像以上に色んな薬があるんだな。


 目ぼしい物はアイテムボックスの容量の負担にならない程度に確保してある。機会があれば使おう。


 ああ、それにしても残念だ。飾りの『元』の活きが、だんだん悪くなってきた。新鮮で色が鮮やかな内に飾り付けを終わらせなければならないのに。


 特に、これからメインにしようと思っている飾りは絶対に新鮮な状態で採取したい。もう、そこそこ再現・・も済ませたことだし、終わりにするか。


 少し残念に思いながらも、俺はノコギリを持って採取場へと向かう。




「ダズ……ゲ…………ァァァァ」




 ゴリッ……ゴリッ……と『元』に負担を掛けないように、ゆっくりと白いインテリアをノコギリで切り離す。


 メインの飾りは取り出すのが大変だ。今までで一番奥に仕舞われている。しかし、今の俺は調子がいい。何とかなるだろう。


 そうして、なんとか取り出したメインの飾り。それは、男女の寝室に最も相応しい飾り、つまりハート・・・だ。



 後はコレを飾って、余った材料を天井の真ん中から吊せば……




「よし、出来た!」




 我ながら素晴らしい完成度だ。


 特に素晴らしいのは扉の中央に飾られたハートの飾りだろう。これがあってこそ、俺達にとってこの部屋がどんな意味を持つか分かるというモノである。


 部屋の隅には子供部屋・・・・まで完備している隙のなさだ。


 だが、残念なこともある。


 それは、この部屋の素晴らしさは極短時間だということだ。


 もう間もなく、ハートは萎れ、壁はくすみ、子供部屋は腐り落ちるだろう。どうにか今の状態を保つ方法はないだろうかと模索する。




「まぁ、儚さも美しさということだな」




 何も思い付かなかった。それに部屋は作り直せばいいやという結論も出た。しゃーなし、と言うやつだ。


 エリカは、この部屋を喜んでくれるだろうか。俺の基準では良い出来だが、本家であるエリカの感想は分からない。所詮、俺のはストーリーでエリカがやっていた事の真似に過ぎないのだから。


 この部屋を作った理由は飾りの『元』に対する復讐の意味合いが大きいのだが、エリカに楽しんで貰いたかったというのもある。苦しめて殺すだけなら他にもっと良い案があった。




「それにしても、本当にコイツには酷い目に合わされた」




 部屋を完成させた感慨に浸っていると、部屋を作った理由と共に『元』に対する恨みを思い出し、沈静化していた怒りが再び湧き上がってくるのを感じた。


 エリカを不快にさせた事に始まり、俺とエリカの逢瀬(予定)を妨害し、極めつけは一時とは言えエリカに『裏切り』を疑われる羽目になったのだ。


 エリカ第一主義を自認する俺にとって、エリカが最も嫌う『裏切り』を本人に疑われるなど、許容出来る限界を遥かに超えている。たとえ何度生まれ変わろうと許す事はない。


 しかし、部屋を作る切っ掛けこそ許し難い思い出だが、部屋そのものに罪はない。


 ならば、俺のやることは一つ。この部屋の有効活用だ。なんだかんだと過ごしている内に、もう深夜だ。今日だけで色々あったから大分疲れた。


 当初、求めていたような安全な寝床というには足りないが、様々な孵化価値が付いたことにより十分妥協できる範囲である。


 飾りの採取ついでに聞いた話だと、このデパートには俺のようなユーザーは勿論、俺の強敵となりうる魔物が存在している可能性は極めて低い。


 ならば部屋が劣化するまでの間くらい寝てても大丈夫だろう。雑魚敵の攻撃を食らってもダメージ0だしな。




抱き枕・・・を用意してっと」




 【阿鼻決別エリカの剣】への頬擦りは禁止されているので、抱き締めつつも頬は当てないように注意する。モゾモゾとベストポジションを探し当てる。


 後は、赤い水玉模様をつけた布団を被って準備完了。




「エリカ、おやすみ」




 緊張して眠れない可能性を考えたが杞憂だったらしい。むしろ、安心感に包まれて徐々に意識が落ちていく。途中フォアグラの事を思い出したが、眠いので諦めた。




〔……まだまだ無駄が多いけど、アンタにしては悪くない部屋よ。昔を思い出すわね〕










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 エッチするとは言ってない( ・ิω・ิ)







※飾りの採取は、かなり表現をぼかしました。分かりにくかったらすいません。場合によっては、もう少し直接的表現にするかもです。

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