殉愛の狂ゲーマー 〜俺は終末世界で推しキャラの最強を証明する〜

一味違う一味

第1話

「許さない、絶対に復讐してやるわ……」




 そう言って、孤軍奮闘するも虚しく戦闘不能となった俺の推しキャラ。スマホ画面に広がる『You Lose』の文字がゲームで敗北したことを示していた。


 また、負けた。


 勝利ボイスを披露する、敵キャラに苛立ちは湧いても、かつての全盛期に抱いたような「勝つまで挑んでやる」と言う気概はなかった。


 何故なら俺は大好きな筈のゲームを惰性で続けるだけの生ける屍だからだ。

















 敵が使えば厄介だが、味方になると使いづらい。


 昔、俺の推しキャラはそんな評価を受けていた。


 某攻略サイトでは「使うのは変人しかいない」とまで断言する使いにくさじゃじゃ馬で実装当初から、誰が使うかよと吐き捨てられた存在だ。


 随分と巫山戯た評価だ。推しキャラ彼女が好きな俺からすれば到底許せない。


 当然、怒り狂った俺は推しキャラを二度と侮辱させない為に行動を起こす。噂を広める第一人者である攻略勢、いわゆる上位ユーザーへの報復だ。


 ほぼ独学でゲームのシステムを解明し、分からない事があれば全て自分で成し遂げたいというプライドエゴを捨て去り、彼女をこんな・・・存在として生み出した憎き運営に質問を投げたりもした。返ってくるのは曖昧なものばかりだったが。


 そして苦悩の果てに推しキャラを軸とした俺史上最高のパーティ編成を考え、膠着状態となっていたユーザーアリーナへ殴り込みを掛けた。


 そこからはトントン拍子だ。トップユーザー達クソ共を根こそぎ狩り尽くし、トップ10内最低戦力でユーザーランキングの1位を取るという偉業を成した。


 俺は、誇らしかった。これで、大好きなキャラを周囲に認めてもらえると。その切っ掛けを作ったのが俺自身だということが、何より誇らしかったのだ。


 これで推しへの愛が証明出来たと思って。


 しかし俺を待っていたのは、受けたことがないほどの悪意だった。


 『ランキングの破壊者』『王道ユーザーへの冒涜』『陰キャの極み』等々。


 これらは全て俺が原因で推しキャラについた異名である。


 そこで、ようやく気づけた。どうやら勘違いをしてたらしい、と。


 当時の俺が捨てたのはプライドだけではない。食費を削り、睡眠時間を削り、そして命を削った。そこまでしたのだから周囲から認められて当然だと思っていたのだ。


 だが、命を削っていたのは俺だけではない。俺が蹂躙したトップユーザー達クソ共も同じだったのだ。


 そこまでして願いを叶えられなかった人間の行動は大きく別けて二つだ。一つは今の俺のように無気力になるか、そして───






 他人を自分のまで引き摺り下ろすか、だ。






 SNSでの罵詈雑言ばりぞうごんなど当たり前で、攻略サイトに名指しで悪質ユーザーだと書き込まれたり、ゲーム内のオープンチャットで証拠もなくチートをしていると吹聴されたり、仲の良かったユーザーに個人チャットで絶縁宣言をされたこともあった。


 もちろん、この仕打ちは辛かったし苦しくもあった。でもそれは「次は言い訳出来ないほど、勝ち続けてやる」と思える、わば復讐心の燃料に出来る前向きな『怒り』でしかなかった。


 けれど、俺への悪意というどうでもいい事・・・・・・・・よりも心を痛めたモノがある。それは、推しキャラへの風当たりが強くなったことだ。


 俺に倒されるまで自分の編成が流行を作ったと自負する彼らにとって、よほど耐え難いことだったのだろう。見下していたキャラに蹂躙されるのは。


 彼らの報復は、ただ悪評を流すに留まらなかった。


 以前「変人しか使わない」と書いたサイトは「悪質ユーザーの証」と文を修整し、ランキング上位陣が多いトップクランでは俺の推しを使っていないことが入団条件になったりもした。


 クソッ。なにが『正義』だ、なにが『流行り』だ。声を大きくして騒ぐしか脳のないクズと自己主張を無くした人形共め。


 たしかに、俺の推しキャラは感情のないゲームデータだ。体は液晶、過去はパソコンで打ち込まれたフィクションストーリーでしかない。


 それでも俺は彼女を愛していたのだ。まるで生きている人間のように。いや、この世を生きる全ての人間以上に。


 自身に害をなす事を許さぬ推しキャラ彼女であるが、それはゲームストーリーでの話だ。


 現実では何の抵抗も出来ない。故に抵抗する余地のある俺より貶められるターゲットにされやすかったのだろう。


 抵抗する術を持たない推しキャラは、俺の浅はかな行動により、さらに悪い立場へとなってしまった。


 もう、俺が何をしても立場が悪くなるだけだと思い、推しの名誉を守るためゲームのプレイも消極的になり、ランキングも徐々に落ちていった。評判に相応しい順位へと。


 どうしてこうなった。そう、何度も自問自答するが答えは出ない。それはそうだ、IFもしもを確かめる事など出来ないのだから。


 だが、それでも考えてしまう。俺に周囲の反応を予測できる協調性があれば違ったのではないか、逆にエリカには俺の愛だけがあれば他に何もいらないと周囲の反応を切り捨てられる強さがあれば、こんな無様は晒さなかったのではないかと。


 しかし、全ては後の祭りだ。今となっては何も変えられない。


 俺は、このまま終わるのか。


 そんなことを考えながらゲームを続けていると運営から一つのメッセージが届いた。それも来るはずのない個人宛で。


 何事かと恐る恐る開いてみれば、簡素な一文。




『あなたのエリカ・デュラへの愛は本物ですか?』




 それだけだった。


 エリカ・デュラとは俺の推しキャラの名前だ。他キャラに名前の被りはおらず、ついでに言えば嫌われキャラ故にユーザーがエリカの名前を使っているのも見たことはない。故にこれは俺の・・推しキャラエリカの話だと断言できる。


 そこまで考えれば、もう迷うことはなかった。メッセージの開封から僅か十秒足らずで返信する。『当たり前だ』、と。




『ならば証明して下さい。明日になれば意味がわかります』




 そのメッセージを最後に運営の反応は無くなった。俺は何度も質問を投げたが返信は一切無い。


 モヤモヤした気分を残しながら俺はベッドに向かった。明日も仕事があり、朝が早いからだ。


 そのまま俺は眠りに落ちる。いつもと変わらない憂鬱ゆううつな明日が来ると疑いもせずに。

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