ミステリーシップへようこそっ!

担倉 刻

第1話

 園谷そのたにエイタ、小学五年生。

 自分ではちょっとだけカッコいいと思ってる、普通の小学生。……だった。

 あの日、謎の招待状を手にするまでは。



 学校が終わって、エイタは仲良しの友達と学童で遊ぶ約束をしていた。

「すぐ行くからさ、待ってろよな!」

「チコクすんなよ!」

 父はサラリーマン、母はスーパーのパートなので、夕方、エイタの家には誰もいないのだ。

 だだだだだだだっ、と通学路を走り抜けて、家に着く。

「おかえり、エイタ」

「ただいまっ、俺すぐ学童行くからさあ、おやつある?」

「台所のテーブルに乗ってるから、食べていきなさい」

 母は支度をしながらエイタに言うと、バタバタと走るようにいなくなってしまった。

「サンキューっ」

 エイタは台所のテーブルに乗っていた鈴カステラをひとくちぱくんとほおばって、自分の部屋にランドセルを置きに行く。

 いつもなら、ランドセルは部屋に投げ込んでしまって、そのまま出かけてしまうのだけれど、エイタはそのとき、自分の机に目が止まった。

「ありゃ?」

 机の上に、手紙が置いてあった。封筒の裏も表も真っ白で、何も書いていない。

「母ちゃん、これ、俺に?」

 エイタは叫んでみたが、母からの返事はなかった。もうパートに出かけてしまったのだろう。

「なんだこりゃ……」

 開けてみるのはなんだか気持ち悪かった。

 エイタが手紙をそのままゴミ箱に放り込もうとしたその瞬間――

「えっ……!?」

 手紙が金色に光りはじめた。

「うわわわわわわ」

 思わず手を放してしまい、手紙は床の上に落ちた。なにか、文字が浮かび上がる。

「招待状…………?」

 彼がもう一度手紙を拾い上げたときだった。

 目の前が一瞬、真っ暗になり、自分の身体がぐいんと下に引っぱられた。

「うわっ!?」

 スピードの速いエレベーターに乗っているような気持ち悪さがエイタの身体を包んだ。目の前がキラキラと輝き、それはまるで光の洪水の中にいるようだった。

「ななななんだこりゃ!?」

 ばたばたと手足を動かしてみたが、身体はずっと引っぱられたままだった。

 目の前の光の洪水がなくなったとき、身体が引っぱられる感じもしなくなり、エイタはそのまま、どん、としりもちをついてしまった。

「いてえっ」

 思わずぎゅっと閉じた目を、エイタはゆっくりと開いた。

「……え?」

 そこはエイタの部屋ではなかった。彼の手のひらがふれたのは、ひんやり冷たい木の板だった。

 しかも、目の前には大きな船の帆がバタバタとはためいていて……。

「な……なんだここ! なんだここ――――ッ!?」

 エイタの叫び声があたりに響き渡る。

 その叫び声に反応したのか、遠くからバタバタとたくさんの足音が聞こえた。

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