第39話 ハルの助言


「あたしには、椅子に座ってる二人しか見えないけど、三人目の人はどうしてる?」

「えっ?」


 深月みつきは驚いて、社殿へ視線を戻した。

 御祈祷にやって来たおばあさんと少女が椅子に座り、制服姿の少女は椅子の後ろに立っている。でも、制服姿の子はふくちゃんには見えていないのだ。


「後ろに立ってます」

「そうかい。じゃあ、よく見ておいてね」


 ふくちゃんに言われて耳を澄ますと、おばあさんと景介けいすけの話す声が聞こえて来た。


「それじゃ、お孫さんの様子がおかしくなったのは一週間くらい前なんですね?」

「はい。熱がある訳でもないのにぐったりして、口もききません。お医者様にはどこも悪くないと言われてしまい、あとはもうお祓いをしてもらうしか……」

「わかりました。では、御祈祷を始めます」


 景介は指先につけた水を女の子たちに向かってかけると、祝詞を唱えながら、手にしていた白いワサワサした棒(大ぬさと言うらしい)を振りはじめた。

 グワッと空気がねじれるような感じがした。

 二人の女の子が苦しそうに顔をゆがめる。

 後ろに立っていた制服姿の女の子がよろめいてイスから離れた時、深月と目が合った。


「どうしよう、こっちへ来る……」


 深月は焦った。このままでは景介の祈祷が失敗してしまう。


「大丈夫。深月ちゃんは余計なことは考えないで、見えるまんまの相手として応えてあげて」

「は……い」


 見えるままなら女子高生だ。少し苦しそうな、助けを求めるような表情をした女の子だ。

 ゆっくりと近づいて来る彼女を見て、深月はハッと息を呑んだ。


「あなた、あの時の人だよね。梨沙の居場所を教えてくれた人だよね?」

「覚エテイテ……クレタノネ」


 あの時と同じ声で、彼女は答えた。


「ありがとう。あなたのお陰で、梨沙は無事だったよ」

「良カッタ。ワタシ、役ニ立テタネ」


 淋しそうな笑顔を浮かべる彼女に、胸が絞めつけられる。


「モウ疲レタ。アイツニ使ワレルナラ、空ニ昇リタイ。アナタニ触レテイイ?」

「いいよ」


 深月は腕を広げて彼女を受け入れた。例え彼女の闇を引き受けたとしても、これは恩返しだ。

 背の高い彼女が、背中を丸めるようにして深月の肩に顔をうずめる。

 ピシッと音がして、空気が振動した。


「アリガトウ。ワタシハ、ハル。アナタノオ陰デ、モウ逝ケルワ」


 制服姿の女の子の姿が、だんだんと薄れて来る。


「アイツニ気ヲツケテ。彼ハ、普通ノ人ジャナイ……」


 フッとかき消すように、彼女の気配が消えた。

 気がつくと御祈祷は終わっていて、おばあさんと女の子は社殿の入口で景介と話をしていた。


「深月ちゃん、ご苦労さまだったね」


 後ろから来たふくちゃんが、肩をポンポンと叩いてくれた。


「あたし、ご祈祷の邪魔をしてなかった?」

「いいや。邪魔どころか、景介の仕事を助けてくれたよ。ねぇ、景介?」

「もちろん」


 祈祷客とのあいさつを済ませた景介が、ニコニコしながら戻ってきた。


「なかなかいいチームプレーだったんじゃないかな。ぼくの浄化と深月ちゃんの浄化で、体に負担なく除霊が出来たよね?」

「そうなの?」


 言われてみると、確かに体調は悪くない。


「これならいけるかも知れないな。さっきの子ね、裏通りのカフェに行ってからおかしくなったんだって」


 景介は笑いながら深月を見つめて、こう言った。


「深月ちゃん。明日、僕と一緒に裏通りへ行ってみない?」

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