第37話 変化の兆し


 景介けいすけが部屋から出て行った後、深月みつきがスマホを見ると、夕夏ゆうかからの着信がたくさん入っていた。


「あ……図書館行く約束!」


 深月は慌てて夕夏に電話し、約束をすっぽかしたことを謝った。

 ついでにアマミの彼女に会った時のことも話すと、夕夏は驚くような言葉を口にした。


「深月ちゃんの……その気持ちは恋じゃないの?」

「え?」

「だって、彼女といる上田くんを見て辛かったんでしょ?」

「違うよ」


 確かに、アマミが彼女と一緒にいるのを見て衝撃を受けた。でもそれは、大好きな兄を取られた妹のような気持ちであって、恋とは違う。


(アマミ、怒ってるかな?)


 バスの窓から見たアマミは、驚いたような顔をしていた。

 アマミは安田を信用していない。彼には会うなとあれほど強く言っていたくらいだ。きっと怒っているだろう。


 夕夏との電話を終えた後、深月はアマミにラインを送った。

 龍人りゅうとから助けてくれたことに感謝していること。安田が守矢神社に連れてきてくれたことを簡潔に文字にして送った。

 このまま会わないでいれば、龍人絡みの事件にアマミを巻き込むことはない。


(これで、良かったんだ)


 襖を開けて外廊下へ出ると、小さな庭と生垣の向こうに守矢神社の境内が見えた。竹ぼうきを手にしたブルーグレーの髪の青年が、静かに境内の掃除をしている。


「何あれ?」


 深月がつぶやくと、ちょうど戻って来た景介が笑いながら教えてくれた。


「安田くん、ボランティアしてくれるんだって。うちの母と祖母に重宝されてるよ」

「そうなんだ。すこし話して来てもいいですか?」

「うん、行っといで」


 庭に置いてあった自分の靴を履いて、深月は境内の安田のそばへ歩いて行った。


「安田……助けてくれて、ありがとね」


 大きな背中に声をかける。


「べつに、借りを返しただけだ」


 背を向けたままの安田から、そっけない返事が返って来る。

 深月は安田がどんな顔をしているのか見てみたくなって、彼の前に回りこんだ。相変わらず目つきの鋭い悪人顔だけど、今は静かな顔をしている。


「おまえは、俺が怖くないのか?」

「怖くないよ。あたしがいじめられた訳じゃないし」

「……おまえと話すと調子が狂うな」


 口の端をゆがめて、安田は少しだけ笑った。


「龍人には気をつけろ。俺には、あいつと正面切って戦うほどの勇気はない。次も助けてやれるとは限らないからな」

「うん」


 この数か月で、安田は驚くほど変わった。

 丁寧に境内を掃き清める安田を見ながら、深月は我が身を振り返った。


(あたしも、少しは変われたかな?)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る