第31話 めまい


深月みつき、帰るぞ」

「うん」


 アマミが立ち上がったので、深月も帰ることにした。


「安田と話をするなんて、おまえ何考えてんだよ」

「でも、彼のお陰で、占い師がヤバい人だってわかったから……あ、れ?」


 ハンバーガーショップを出たところで、急にめまいがした。目の前の風景がぐるぐる回転して、立ち止まっても治まらない。


「深月ちゃん?」

「ごめん、ちょっとめまい……」

「深月! おい、大丈夫か?」


 急に座り込んだ深月の隣に、アマミが座る。


(……こういう時、誰かが隣にいると安心するなぁ)


 頭を抱えたまま、深月はぼんやりとそう思った。


海斗かいと、俺は深月を送って行くから、おまえの妹に占い師の話をしといてくれ」

「……わかった」


 海斗は心配そうな顔で深月を見ていたが、振り切るように帰って行った。


「もう大丈夫だよ」


 深月は立ち上がった。


「いいよ。途中で倒れたら困るだろ」


 深月の腕を支えるようにつかむと、アマミはゆっくりと歩き出す。

 行きかう人の多い駅前通りを過ぎ、静かな住宅街を歩くと、うっそうとした木々に囲まれた深月の家に着く。


「深月んちに来るの久しぶりだな。幽霊だったとき以来だ」

「そうだね」


 梅さんは買い物にでも行っているのか、家には誰もいなかった。

 深月は制服のままソファーに座ると、家の中をキョロキョロ見回しているアマミをぼんやりと眺めた。


「おまえ、今日は終業式だろ。帰りに海斗と会ってたのか?」

「……うん。つき合う話、断った」

「そっか」


 アマミは真剣な顔でうなずくと、深月の座っているソファーの足元に座り込んだ。


「ねぇ、アマミは安田の話をどう思う?」


 深月はソファーに座り直して、アマミを見下ろした。


龍人りゅうとってヤツのことか? 俺には何が何だかよくわからないけど、ただの不良じゃないのはわかった。おまえの友達に連絡して、もう占い師の所に行くのはやめさせた方がいいな」

「うん。夕夏からみんなに連絡してもらう」

「深月も、絶対に裏通りには近づくなよ。俺たちにとって、あそこは最悪の場所だからな」

「わかってる」


 裏通りの奥にある行き止まりの路地。あの場所に足を踏み入れて、万が一闇の世界に入ってしまったら、もうこちら側には戻って来られない。あの時助けてくれた道路おじさんは、もういないのだから。


「安田にも、これ以上関わるな。あいつはおまえが思ってるほど、簡単に信用できるヤツじゃない」

「そうかな?」

「もしまた安田に会っても、一人で話したりするな。必ず俺に連絡しろ。すぐに行くからさ」


 偉そうに言うアマミに、深月はムッとした。


「アマミって、ちょっとウザい。妹さんにもそんな風なの?」

「えっ? 春菜はるなはおまえみたいに、自分から危険なことに首を突っ込んだりしないよ」

「なにそれ? あたしだって危険なことに首を突っ込んだりしてないよ!」


 言葉を交わすたびに、何だかどんどん腹が立ってくる。


「今日したじゃん。海斗がいなかったら、一人で安田と話してただろ?」

「だったら何よ? アマミには関係ないじゃない」

「関係あるよ。俺と知り合わなかったら、おまえと安田は無関係だったはずだろ。俺にも責任がある」

「それはそうだけど……だからって、あたしが一人じゃ何も出来ないみたいに言わないでよ!」

「深月……」


 アマミが驚いたような顔で深月を見返す。

 深月は唇を噛みしめた。

 どうしてこんなに腹が立つのか、自分でもよく分からない。アマミが自分のことを心配しているのはわかるのに、気持ちがおさまらない。


「前にも言ったけど、あたしは別に、アマミを助けたなんて思ってないよ。だからもう、あたしのことは心配しなくていいから!」


 一気に思いをぶちまけたせいか、また頭がクラクラしてきて、深月はソファーの背に寄りかかった。


「俺は、そんなつもりでおまえといるんじゃないよ。仕方ないだろ、心配なんだから」


 アマミはそう言って立ち上がると、深月の頭をクシャクシャと撫でた。


「じゃ、俺は帰るけど、ゆっくり休めよ」


 いつもと変わらない顔でアマミは帰ってゆく。

 深月は黙ったまま、アマミを見送ろうともしなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る