第30話 安田の懺悔


 深月みつきたちは、駅前広場のハンバーガーショップに移動した。

 四人掛けのテーブル席に、深月と海斗かいとは安田と向かい合うように座った。


「もう一度……おまえと話したいと思ってたんだ」


 イスにぐったりと体を預けた安田は、うつむいたままつぶやくようにそう言った。


「病院の前でおまえに言われたことが、ずっと頭から離れなかった。あれからずっと、考えてた。俺が今までしてきた事や、これから先の事を、マジで考えた」


 怖そうな見かけのわりに、安田の話し方は素直だった。


「何かあったの? 少し前にあなたを見かけたけど、その時はものすごく闇が濃くなってたよ」


 安田は驚いたような顔をした。


「だろうな。さっきまで、ずっと気分が悪かったからな」


 安田がそう言ったとき、ハンバーガーショップのドアが開き、アマミが駆け込んできた。


「深月! どうして安田と一緒にいるんだ?」


 息を弾ませているアマミを、深月は驚いて見上げた。


「アマミ、どうしたの?」

「海斗に呼び出された。どういうことなんだ?」


 アマミは、深月たちが安田に絡まれてると思ったのかも知れない。ものすごく怖い顔をして、今にも安田につかみかかりそうな感じだ。


「クラスの子を見かけて追いかけたら、路地でこの人がボコボコにされてたの」

「え……まさか、こいつを助けたのか?」

「まあ、そんな感じ」


 深月が答えると、アマミはようやく表情を緩めて安田の隣にドサリと座った。


「僕は止めたんだけど、深月ちゃんが彼の話を聞くって言うから……呼び出して悪かったよ」


 海斗の説明で納得したのか、アマミは安田の方に向き直った。


「で、深月に何の用だ?」

「助けてもらったお礼に、一つ忠告しとこうと思ってな」


 アマミが来たせいか、安田の様子が少し変わった。今までの素直な話し方から、ぶっきらぼうな口調になっている。


「さっきおまえが追いかけてたのは、おまえと同じ桜女子の制服を着た女だろう?」

「そうだよ」

「あの女の行き先は、龍人りゅうとの所だ。表向きは占い師みたいなことをしてるらしいが、あいつはヤバい。裏通りを仕切ってるのはヤツだ。絶対に近寄るな。友達にもそう言っておけ」

「待って!」


 立ち上がりかけた安田を、深月は思わず呼び止めた。


「ヤバいって、どうヤバイの? その龍人って人は、あなたの知り合いなの?」


「……俺が中坊の時、あいつは高校生の先輩たちとつるんで悪さをしてた。でも、ヤツの本名も住んでるところも誰も知らないんだ。ここ一年くらい姿を消してて、戻って来たのは最近だ。占い師だかなんだか知らないが、裏じゃずいぶん悪いことをしてるらしい」


「なにそれ……でも彼女はその人のことをすごい占い師だって言ってたよ。占ってもらったことが全部当たるって」

「そうかもな。龍人には……たぶん、おまえみたいな特別な力があるんだ。でも、龍人は気まぐれで人を弄ぶ。占い師をしてるのも、獲物を見つけるためだ」

「獲物?」


 深月はテーブルの上に身を乗り出した。


「俺は龍人に誘われて、四月頃に仲間に入った。もともと家族と上手くいってなかったのに留年しちまって、毎日イライラしてたんだ。憂さ晴らしがしたくて、あの時はそれも面白いかと思ったんだ。けど、龍人に会うたびに体が重くなって、俺のことを否定する声ばかり聞こえるようになった。そのたびにイライラして、相手をボコボコに打ちのめしても気が晴れなくて、毎日が辛くて仕方が無かった。仲間が悪いことをして堕ちていくのを、あいつは楽しんでる。仲間もあいつにとっては獲物のひとつなんだ」

「さっきあなたを殴ってた奴らは?」

「あいつらも龍人の手下だ。俺が仲間を抜けたいって言ったら、いきなり……」

「そうなんだ……」


 深月は少しだけ安田を見直した。

 最低ヤローだと思っていたけれど、彼は自分なりにいろいろ考えて、悪い仲間から離れようとしている。

 そんな話を聞いて同情したのかも知れない。立ち上がって店を出ようとしている安田に、深月は声をかけた。


「ねぇ、学園通りにある守矢神社に景介けいすけさんって人がいるから、困ったら訪ねてみれば」


 安田は振り返ったけれど、何も言わずにそのまま店を出て行った。

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