いずれ傾国悪女と呼ばれる宮女は、冷帝の愛し妃
巻村 螢
序章 後宮追放
第1話 白髪の公女
※書籍版は序盤とラストに大きな改稿が入っており、少々展開が異なります。パワーアップした書籍版もよろしくお願いします。
※2024.11:新作中華を続々連載しております。どうぞそちらも覗いてみてください
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いつも穏やかに微笑み、手招きしながら「紅玉」と柔らかな声で自分の名を呼んでくれる母。
「ああ、わたくしの可愛い紅玉」
傍に駆け寄れば、抱き寄せ、優しくも安堵する強さで抱きしめてくれた。
自分の頭に頬ずりする母は、全身で愛してると言ってくれる。
しかし、いつも次の瞬間には彼女はとても悲しそうな顔をするのだ。
「ごめんなさいね、このような髪色に生んでしまって」
「大丈夫ですよ、母様。私は気にしてませんから」
『このような』と言いつつも、紅玉の髪色は媛玉と同じ黒色である。
しかし、それは偽りの色。
「そろそろ染めなければなららいわね。また根元が白くなってきて……」
紅玉の本来の髪色は『白』であった。
この
その由来は遠い過去の逸話ではあるが、未だに白を持つ者は忌み嫌われている。
「
「かしこまりました、
侍女頭に指示を出すと、
「ごめんなさい、あなたから自由を奪ってしまって……」
髪色のせいで、紅玉は媛玉の宮の外にほとんど出たことがなかった。
公子、公主の出席が絶対とされる儀礼や祭祀の時は、前日に念入りに髪を染めて出席した。
「媛貴妃様、髪染めの薬があと僅かです」
「困ったわ……この植物は珍しいらしくて、特定の商人しか扱ってないのよ。鈴礼、悪いけれど商人に手紙を出してくれないかしら。いつもより早く来てほしいって」
母の焦燥が、髪を梳き続ける指から伝わってくるようであった。
媛玉は、再び紅玉をぎゅうと抱きしめた。
「紅玉、覚えていて。わたくしはあなたの髪が何色だろうと愛しているわ。誰が何と言おうと、あなたは私の幸せであるし宝物なのよ」
母はこれほどに心配してくれているのだが、紅玉はそこまでこの髪色に生まれて不幸だと思ったことはなかった。
こうして、ずっと変わらず母が愛してくれているのだから。
たとえ、宮の外で生きることができなくとも、母の真綿のような優しさが紅玉を包んでくれていれば、それで幸せだった。
「母様さえいれば、私は他に何もいりませんから」
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