B級映画の社会学 中国映画の激情 V.1.1
@MasatoHiraguri
第1話「少林寺 怒りの金剛拳」2023年4月21日大阪 新世界国際劇場
時代は清朝末期。
英国が中国全土にばらまいたアヘンによって、国民が腑抜けになり精神的な病原菌に対する抵抗力を喪失。更に、一部の気骨のある中国人官吏が起こした英国とのアヘン戦争にも惨敗(1842年)し、中国という国がどん底にいた頃です。
国家として最も弱体化していた当時の中国から、国宝である玉璽(ぎょくじ)を海外へ持ち出そう(略奪しよう)とする国賊(イギリス軍)と戦う、中国人の坊主と民衆たちを、カンフー・アクション映画仕立てで描きます。
主人公の少林寺の修行僧とは、もとは海賊の頭領だった男で、イギリス人と結託した部下の裏切りにより瀕死のところを、少林寺の坊主に助けられ坊主(修行僧)の仲間となった。とはいっても、海賊根性は抜けきらず、坊主のフリをしながら(私利私欲の為に)玉璽を奪還する機会を窺っていた。
しかし、国宝の玉璽を取り返す為、イギリス人軍隊、それに結託した海賊たちと戦い・殺されていく民衆や、自分を慕う元部下の女性、そして「殺生の戒律を破って」まで戦う坊主たちを見て中国人として目覚めた主人公は、我欲を捨てて正義の戦いに加わり、終に国賊(イギリス人と中国人の海賊)を打ち破り、玉璽を奪還します。
とまあ、ここまではありきたりのカンフー・アクション映画、正義は勝つというステレオタイプの物語。前夜の銭湯疲れで半分寝ぼけながら、オールナイトの劇場で深く椅子に沈み込み、煎餅なんぞを囓りながら「ああ、そりゃ良かったね」なんていう楽しみ方をしておりました。
ところが、この映画、最後が抜群にすばらしい。
お金では買えないほどの金銭的価値と、それを持つ者が天下を握ることが許されるという強力な権威を持つ玉璽を、なんと、この男は海に投げ捨ててしまうのです。
私は、ここで初めてこの映画(制作者の激情)に強い感銘を受けて目がバッチリ醒め、思わず椅子に座り直してしまいました。
玉璽とは、日本でいえば天皇の証明である三種の神器です。日本では「壇ノ浦の合戦」で、誤って海に落っことしてしまった、という間抜けな話でしたが、この中国人は「こんなものがあるから世の中が乱れるのだ」といって、深い海に捨てて(永遠に封印)しまう。
まさに「王侯諸将いずくんぞ種あらん」「アダムが耕しイブが紡いだ時、誰が領主だったのか」というリベラルで、民主的精神の原点ともいえる態度です。
中世文学の最高峰「吾妻鏡」や「太平記」で描かれている厳然たる歴史的事実とは、天皇だとか貴族という「世襲の権威」こそが世の中を乱す原因である、ということに尽きます。「天皇の詔(みことのり・詔勅)を受けた者が正当と認められる」なんて、漫画のようなバカバカしい話が通用していた時代のことです。こういうくだらない風習を終わりにしたのが「信長・秀吉・家康」という(真に目覚めた)武士たちでした(明治維新で、また逆戻りしてしまいましたが)。
中国という国が、21世紀の現在、様々な逆風にもめげずガンガン発展しているのは、アヘン戦争(の敗北)という、中国にとって最も辛く屈辱的な最底辺の時代に、清朝だの皇帝だのといった世襲の権威・虚構の権力を、この映画の主人公のように自ら排斥した(捨て去った)ところに遠因があるのではないでしょうか。
精神的・物質的に「権威という魔物」から解放されたところに真の自由がある。
日本(韓台)のように、形だけの「民主主義」だの「自由」だのに踊らされていては、表面的な繁栄・虚構の栄華という、麻薬のような虚妄の極楽に一時的に浸るだけなのですが。
これからの日本もまた、(両班という世襲貴族によって国民全体がバカになりきっていた)百済(現在の韓国)のような、実体のない歴史しかない・幻のように脆(もろ)くて儚(はかな)い国になっていくのでしょうか。
と、中国人の激情に感激した次の瞬間、再び私は椅子に深く沈み込み目を閉じたのでした。
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宮本武蔵の偉大なところとは、肉体的・技術的に二刀を使いこなしたということではない。
陰と陽・虚と実・光と影という、物事の真理(裏表)を意識(覚醒)して戦ったという点にある。虚妄・虚構からの「覚醒力」にこそ、その強さの根源があるのです。
彼は、「目の前の人間の操る嘘の太刀に目を奪われるな」「実体の伴わない虚構の国家権力という偶像に惑わされるな」という気持ちを「人に欺されぬようにせよ」という言葉にして、その著「五輪書」に書き残した。宮本武蔵兵法の極意とは、これに尽きるのです。
2023年4月26日
V.1.1
平栗雅人
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