第4話

「――そういう事なら、お主の元へ雛龍が産み落とされたのは『天の采配』なのじゃろう……そう考えるのが、妥当じゃな」


 マ猫さんは、ビキニの胸へソラが落ちて来たのは、天が与えた運命だと言いたいらしい。


 たしかに、ワームホールの様にも見える星空の穴に『登龍門』という名前が付くぐらいだ。雛龍のソラが、あの場所を開くカギになるのかも知れない。


 しかし、ビキニがそこを目指すようになったのは、ソラと出会ってから暫く後の話しである。

 そのの食い違いも運命だと、言い切るつもりだろうか。


「脈の巫女である我は、そのあたりが、とても気になるのじゃ」

「そうなんですか?」

「天は雛を、託せぬ者へ贈ったりせぬ。其方は天脈に認められたと思ってよい」

 そう言うと、ピコッと耳を動かしビキニを覗き込んだ。

「よかったのう? うれしいじゃろ?」


(この巫女さん、なんか楽しそう)


「お主がどれ程の人物か、同じ女子として非常に気になる! それほど美しいのだから、さぞかしモテモテ人生だったのじゃろ? ほれ、キリキリ白状せんか」

 少し俗っぽい口調になって、にやにやと笑う。

「い、い、いえ……そんな事は……」

「申してみ? さあ白状して、楽になるのじゃ」


(おいおい、そんな質問ビキニが困るだろう?)


「……た、確かに、言い寄ってくる男性は、何人か……」


「なに! マジかっ!?」


 思わず叫んでしまった。


 ビキニの頭に巻いたインカムにも、俺の驚きが届いたらしく、慌てた顔でこちらを振り向く。


「で、で、でも全然、好みじゃなくって! 皆さん、お断りさせて貰ったのですっ!」


 そんなビキニの否定にも、俺の動揺は隠せない。


(か、彼女に、そんなが!?)


 ――いや、むしろ今まで気付かない俺が、おかしかったのだ。


 美人のビキニの男性遍歴は、そりゃぁもちろん、ひじょうに気になる! ウソではない。


 だが、ソレよりも。



 ――昨年の秋ゲームスタート時に、パラメーターのランダム設定でされた筈のビキニが、俺と出会う前のを持っている。


 これは彼女が単なる『アバター』ではないと、言えるのではないだろうか!?

 ゲーム上のバック・ストーリーにしては、でき過ぎている。



「ま、マ猫さん! その話はもう、やめてください!」

「む、そうか? 照れ屋さん、じゃのう……」

 ニヤニヤを止めない猫耳巫女だが、これ以上の追及は続けない様だ。


 も、もう少し詳しく聞いてほしかった。

 俺の正直な感想。


(あとで、それとなく尋ねてみようか?)


 いや、だめだ! 俺がそれを言えば、きっと何かの『ハラスメント』に、なるだろう。


 あああ~っ、気になる! ああ、もどかしいっ!



「――では改めて、地脈の巫女である我から、天脈に愛される二人に礼なのじゃが……あのひひなには今、脈の精気を吸わせておる。強く、たくましい、よい子になるぞ。うれしかろ?」

 マ猫さんは『地脈の髭』と呼ばれ祀られる、ご神体の岩肌にペットリと張り付き、うっとり眠っているソラを振り返る。

「本当ですか?」

「ああ、まこと。お主が旅をするにあたって、きっと心強い味方になるじゃろう」


 おおっ、ソラが更に強くなってしまうのか。そいつはイイ。


「あとは、お主の弓へ地脈の加護を付加してやろう……と、思っておったのじゃが、悪いがこれに、チョビッとだけ条件を付けさせて貰いたい」

 こころなしか、マ猫さんの飛び出た耳が微かに赤い。


「じょうけん? ですか」


「う、うむ……人の町の、公園近くで営業する『猫のお菓子屋さん』へ行って、だな、チョコレートを受け取って、だな……」

 頬っぺたも赤くなってきた。

「チョコレート?」


「西の海底に有る『竜宮』に届けて欲しいのじゃ……竜宮の『竜騎士』殿へなっ! きゃ~っ! 恥~のうっ!」

「へ?」


 どうやら、この猫耳の巫女さんは、竜宮にいる竜騎士様へ『バレンタインチョコ』を届けてもらいたいらしい。


「代金は払い込み済みじゃ! さらに、お、お、お、お手紙も付いておるぞ! た、頼めるかの!?」


「りゅ、竜騎士様ですか?」

「うむ! カッコいいぞ! はうはうって、なるぞ! くんかくんか、じゃっ!」


 猫耳をピコピコと、大興奮のマ猫さんだ。


(巫女さんも、恋愛するのだな)


「……分かりました。その依頼、受けさせて頂きます」

「おおっ、まことか? 頼んだぞ!」


 がっちりと、ビキニの両手を握るマ猫さんの喜びに、ソラが寝ぼけ声で反応する。


「る?」




 ――森の中に有る『ヤ・マ猫様の社』を後にして、飛び上がる事が出来そうな開けた場所へやって来たビキニが、翅を伸ばす前にコチラを振り返った。


「マスター、ステータスに変化が有ったようです。確認しますか?」


 彼女の持つ細く白い短弓は、マ猫さんによって地脈の魔法属性をエンチャントされたようだ。

 ずっと岩に貼りつき眠っていたソラにも、なんらかの成長が有ったらしい。


「そうだね。確認して置いた方がイイかも」

「はい」


 気持ち誇らしげな表情のビキニの手前に、半透明の文字列が次々と表示される。


【Status】

【NAME:ビキニよろい】

【GRACE WEAPONS:大地のひとしずく・白鯨の剛弓】

【ITEMS:ビキニ鎧】

【ITEMS:編み上げ冒険スウェードブーツ】

【ITEMS:ナデシコのスマホ】

【ITEMS:はちがねドットcom】

【GRACE ITEMS:ナデシコの腰巻】

【TAME:雛龍 Lv.6】


「おおおっ! なんか豪華だ!」


 ソラなんかレベルが『6』になってる?

 見た目の変化は、まったく無いのに!


「はい、マスター!」

 笑顔のビキニ。

「もう、オークなんか怖くないですね!」

「いや……アイツには、二度と会いたくない」

「そ、そうですね……キモい、ですし」


 彼女と冒険を続けて半年になる。装備もかなり充実してきた。


(次の冒険は、海底に有る『竜宮城』か……乙姫様が居るのかな?)


 マ猫さんが恋する『竜騎士』様は、龍のエキスパートで、かなり生態に詳しい人物らしい。

 もしかして、『登龍門』を通り抜ける情報などを持っているかも知れない。


(段々と、いい方向へ進んでいる)


 そんな気がした。


「――まずは街へ戻って『猫のお菓子屋さん』だっけ? チョコを受け取りにいかないと」

「そのお店なら知ってますよ。『水玉さん』って方がオーナーで、美味しいって評判なんです」

「へ~っ? 有名なんだ」


「ネコちゃんが日替わりで、お店番してるんですよ!」


「……春、とは云え……ねこってスゴイね……」



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 今日の俳句。


焼山やけやまの ねこの焦がれる チョコレイト』 ビキニ。


 ※季語は『焼山』

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