異世界俳人ビキニ鎧ちゃん俳句紀行(春) ー奥の細いひもー

ひぐらし ちまよったか

第1話

 ――異世界見守りゲーム『はじめてのおせかい』は、新春にリニューアルをしたらしい。


 正月に帰省もしないで引き篭って、ビキニと冒険の旅を続けていた所、謎の外人『ミスター・エムケイ』に来訪され、ふたりで街中華を食った。

 チャーハンと餃子を食った。おごりだった。


 箸づかいの上手な外人さんは『はじ・おせ』開発会社の人間を名乗ったが、それはウソっぽい気がする。

 もっともらしい表情をつくって「アナタのPCにインストールされたプログラムは、社外に流出してはいけない『アルファー版』でした」と、へんてこりんな事を言いだした。


「――あれは『ゲーム』ではなく、他の天体の様子を映した『配信ソフト』なんじゃないの?」

 肝心なところを訊ねてみると、

「そう思ってプレイを続けてくれても構いませんよ。異世界の冒険を楽しんで下さい」

 と、すっトボケた。たぬきだ。


 とりあえず、ビキニのPCを回収される事態は、なんとか防げた。


「用心のためにデータの避難は、しておいた方がイイでしょう」

 餃子をつまむミスターが手渡して来たのが、銀色のケースに収まるPCカード。

 コイツを装着すれば開発会社のサーバーにバックアップデータが作られ、万が一、我が家のPCが動作不能になったとしても、ビキニとの冒険は変わらずに続けられるという。


 ――うう~む……?



 四畳半の暖房器具でもある最新鋭PCの電源を落とし、背面のスロットへカードを差し込んだ。

 再起動後、画面に見慣れた『はじ・おせ』のロゴマークが表示され、アクセスランプが忙しなく点滅を繰り返す。すこし不安。


 しばらくゴウゴウと唸っていたPCが、やがて四角いQRコードを、暗い画面の中央に映し出しす。


【おともだちに、なってね?(Y/N)】


 と、そのまま固まった。


(――しまったこれはワンクリック詐欺かっ!)


 非常に青くなったが、ええい! ココは覚悟を決めて、餃子をくれたミスター・エムケイを信じよう!

 スマホに友達登録をすませ、『YES』をクリックすると、何事も無かった様にゲームが再開され、ホッと胸をなでおろす。



 ――そして、翌朝ビキニの元へ『お年玉』と箱書きされた、ひとつの小包が届けられた。


 髪色と同じ撫子の『スマホ』と、『鉢金』のように額へ巻き付ける形の『インカム』。


 これがミスターが言っていた『御年賀』なのだろう。

 ビキニが、こちらを振り返る『質問状態』に移らないでも、会話が可能な優れモノだった。


(おおっ! ありがとう、ミスター・エムケイっ! 本当にありがとうっ!!)


 俺の苦痛の『片思い』時間が解消されたぞ。



「――マスター!」

 ビキニも大喜びだ。笑顔で振り返ってくる。


「マスター『自撮り』を、送って下さいっ!」

「ええっ!?」


(ビキニ……キミなんで、写メなんて知ってるのさ)


「ち……ちょっと、まっててもらえる?」

「はい!」


 俺は、綿入れにスウェットのサンダル突っ掛けで、近所の床屋へ駆けつける。


 正月早々、店主を叩き起こした!


「おやじ! の、にしてくれっ!!」


「の、のむら、だとっ!?」



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇



 新年の俳句。


『頬が寄る ほほ剃りし君の 初便り』 ビキニ。

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