君と出会って30日目

八雲はじめ

第1話 転校生

朝のぼんやりとした空気の中、教室のドアを通ってきた彼女に目を移して、最初に目を引いたのは長く綺麗な黒髪だった。


「黒井玲と言います、小学3年生の頃まではここ伊鳴町に住んでいましたが、親の仕事で引っ越して以来なので8年ぶりになります、今日からよろしくお願いします。」


綺麗に透き通った声はさほどボリュームは無くとも教室の隅の方に居る俺の耳にも届いており、姿勢の良さや立ち姿、目線など芯の強さを感じさせた。


「おいおい、誰がどう見たって当たりだぜこれ、俺一瞬で眠気飛んじまったよ」


後ろで自分の肩を叩きながら小声で声をかけてきたのは友人であり悪友の雄介だった、高校に入ってからの知り合いで明るく気さくで憎めない奴だ。


「あ、うん、俺もびっくりしたよ、凄い綺麗な人だよね、でも雄介ってああいう綺麗な女の子より可愛い感じの女の子がタイプって言ってなかったっけ」


「それはそうだがあそこまでの美人となると話は別だろう、綺麗な黒髪、出るところは出てしまう圧倒的なスタイルの良さ、声も良ければ物憂げな感じもそそられるじゃないか、お前もそう思うだろ」


「確かにね、タイプ云々より先に相当美人だから思わず見ちゃうよね」


などと話しながらも、自分は顔やスタイルの良さよりも綺麗な立ち姿に少しだけ違和感を感じていた、意志が強そうな瞳に通った背筋、綺麗な女の子という印象だが、気が張りすぎているように感じていた、自分を何かから守っているかのような。


「それじゃあ黒井さんあそこの席に座ってもらって、そのうち席替えするかもしれないけど取り敢えずの間は変わらないから宜しく、荷物とかどうするかは隣の子にでも聞いて」


そう言った担任が指さした机を目で追うと俺の隣の席だった、そういえば前に座っていた人が椅子を破壊して別の席に移ったままで椅子は直ったのに空席のままだったのを思い出した。


教壇から降りて机に近寄り、隣に腰を降ろして手に持っていたカバンをかけるために左右を覗いている時に、それを眺めていた俺と目が合った。


「よろしくおねがいしますね。」


先ほど遠くから聞いた綺麗で透き通った声を今度は近くで聞いた俺は、不覚にもドキリとしつつも平常心を崩さないよう答えた。


「うん、よろしくおねがいします、何か分からないことがあったら気軽に聞いてください。」


そう答えると黒井さんは軽く頷くとすぐに姿勢を正し教壇に立つ教師に向けて視線を移した、俺も眺めていたことを思い出し慌てて前を向いた。


「じゃあお前らHR始めるから一旦前向け、聞きたい事とかあるだろうけど10分で終わらすから頼んだぞー」


すぐに担任の声がかかり前を向き、朝のHRが開始されたのだった。

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