アクアウィッチパラダイスッ!! ドキドキッ、水着美女と真夏の孤島でデスゲーム!?

加賀山かがり

1st day's

やってきたぞっ!! 真夏のビーチにっ!!

1st day's


AM 10:04


「なあ堂佶とうきつ、明日から暇なら止まりで一緒に海いかね?」


 敬愛する先輩からのラブコールを二つ返事で了承したのが昨日の話。


 大急ぎで水着を調達して泊まり支度が完了した時には既に明け方、そのままナンパの極意を教えてもらう心づもりで待ち合わせ場所へと勇んでいけばポーンと小さな客室付きのクルーザーの一室へと放り込まれた。


 波に揺られながら加成谷かなりや堂佶とうきつが爆睡すること早六時間。


 気付けば太陽が燦々と煌く最高のロケーションの孤島についていた。


 海っ!!


 エメラルドグリーンに輝く海、白い砂浜、夏の空が良く見え、涼やかに木々が風に揺られる音がする。


 バカンスには最高のロケーションだった。


 だた一つ、辺りに人っ子一人いやしないということを除けば。


 人っ子一人どころかホテルの一棟も宿の一軒もない。


 過疎どころかもう無人の域だった。


 そして肝心要の敬愛する瑠璃斑るりまだら先輩さえもどこにもいない。


「くそぅ……!! 自分が滅茶苦茶モテるからって男の純情を弄ぶなんてひどいっすよ先輩ぃぃ!!」


 男、加成谷かなりや堂佶とうきつ。パンパンに膨らませた浮き輪片手に白い砂浜で寝そべりながら涙ながらに魂の絶叫を空へと投げる。


「おバカなのはかわいいと思うけれど、おバカすぎるのも考えモノよ?」


「えぇっ!? 女の人!? 誰っ!? あっ、どうもこんにちは、初めまして、自分加成谷かなりや堂佶とうきつと申します!!」


 たった一人で寂しんボーイな青春を空にぶち上げていると突然女の人に声をかけられてびっくり仰天ひっくり返た。


 ひっくり返りついでに電極を刺されて電気を直接流し込まれたカエルみたいにビックンビックンとのた打ち回る。


「あたっ……!? あ痛たたたぁっ!?」


 別に特別何かをされたわけではない。


 たださらさらの白い砂浜に落ちていた貝殻の欠片を思い切り素肌に突き刺してしまったというだけの話だ。


 血こそ出なかったものの、太ももにバッチリ赤い痕が残るくらいにの痛みがあった。


「うふふ、面白い子。お姉さんは極楽鳥ごくらくちょうエマ、よろしくね?」


 太陽にきらめく金髪をたなびかせるナイスバディな水着美女、極楽鳥ごくらくちょうが砂浜を転げまわる加成谷かなりやへそっと手を差し出すと、


「えっ、あぁ、どうも……」


 彼は反射的にその手を掴んだ。


 そして、前かがみになった極楽鳥ごくらくちょうの魅惑の谷間に自然と目線が吸い寄せられて鼻の下が伸びる。ちょっとした家が建ちそうなくらい分かりやすく伸びていた。


 いくら目の前にいるのがナイスバディな金髪美女だとしても普通の水着でそれほどまでに鼻の下が伸びるだろうか? いいや伸びない!!


 では何故それほどまでに彼の鼻の下が伸びたのか。説明しよう、極楽鳥ごくらくちょうエマの水着が普通のビキニよりも大胆な切れ込みがあちこちに施されたとてもとてもセクシーな黄色いスリングショット水着だったからだ。


 谷間だけに留まらず横乳も下乳も割かし際どいラインまで見えてしまっている。


 こんな水着自分のスタイルに自信がないととてもじゃないが着られないっ!!


「女神様ぁ……!!」


「みるなとは言わないけど、もう少し隠す努力とか格好つける努力とか、した方がいいと思うわよぉ?」


 ぽってりとした色っぽい唇が緩くほほ笑む。


 どうやらこの女性は男の性欲を不潔!! と切り捨てずに包み込んでくれる包容系お色気お姉さんであるらしい。


「いえっ!! そんなご無理を言わないでいただきたいっ!! あなたのような魅力的な女性は自称エロ動画ソムリエの俺をして初めて出会いましたっ!! キスしてっ、ハグしてっ、熱い一夜を過ごしませんか?!」


 ブタさんもびっくりな鼻息の粗さだった。いっそ現代に突然湧いていた突然変異のオークと言われても信じる人がいるかもしれない。


 ついでに言えばいくらテンション上がっちゃったからと言って初対面の相手に自称エロ動画ソムリエとか名乗るのは大バカ野郎である。


「ダーメ」


「そんなぁ……」


「でもこれからみんなでバーベキューをするって話だから、アツアツのお肉なら一緒に焼いてあげても良いわよ?」


「はいっ!! よろこんでっ!!」


 加成谷かなりや堂佶とうきつは感謝した。


 敬愛する瑠璃斑るりまだら先輩に本当に心の底から感謝した。


 流石は死にかけるほどのモテ男だ、と全身全霊を以て祈りに近い感謝の念を心の中で焚き上げる。


 そうして極楽鳥ごくらくちょうに連れられて乗ってきたクルーザーの近くまで戻ってくるとどうやらすっかりとバーベキューの準備は整いきっているようで香ばしいタレが焼けるニオイが漂いパチパチという薪の焼ける音がした。


「やーっとキタわね。もう焼き始めちゃってるよ」


「ふぅー、間に合ってよかったわ」


 赤いスカーフを首元に巻いたあちこちにスリットが入ったセクシーなビキニの茶髪美女がビール片手にカチカチとトングを鳴らし、


「あら男の子いたのねぇ。私はてっきり女所帯なんだとばっかり思っていたわぁ」


 緑のスカーフを首元に巻き付けた素肌にエプロンの妙に上品そうな黒髪のお嬢さんが加成谷かなりやの顔を覗き込む。


「伝説の裸エプロンっ?!」


「違うわよぉ? ほら、ちゃぁーんと水着着てるでしょぉ?」


 緑スカーフの黒髪お嬢さんがエプロンのサイドをぺろりと捲ってその下にあるチューブトップのビキニを見せてくれた。


「それはそれで逆に悩殺力が高いっすよ……!!」


 上着をぺろりと捲って下に着ているモノを見せてもらうというシチュエーションそのものに男のロマンが詰まっていて破壊力が高かった。ついでにちらりと見えた鼠径部の食い込みが中々にえぐかったのも高得点に寄与していた。


「ちょっと依乃よりの、年下の男の子をあんまりからかうもんじゃないでしょ。私は目黒めぐろ有亜ゆあ、よろしくね」


 赤いスカーフの茶髪美女がトングをカチンカチンと軽く鳴らして、


「ちなみに私は目代めじろ依乃よりのですよぉ? どうぞよしなに」


 緑のスカーフの黒髪美女がいたずらっぽくウィンクをしながら笑った。


「自分は加成谷かなりや堂佶とうきつですっ!! どうぞよろしくお願い致しますっ!!」


 増えた美女によるお色気の波状攻撃によってちょっとだけ硬派な加成谷かなりや堂佶とうきつは鼻血をふいて卒倒するんじゃないか心配になった。そしてそれと同時にまた敬愛する瑠璃斑るりまだら先輩に、「ありがとう……!! ありがとう……!! 圧倒的感謝!!」と感謝の念を飛ばしていた。


「年下の男の子に色目使うのは結構ですけど、お肉とかお野菜とか、焦がさないようにしてくださいよ?」


 元気燦々、太陽燦々な常夏ビーチに似合っているんだか似合っていないんだかよく分からない大仰な青い三角帽子(とても頭が蒸れそうに思える)を被りスタンダードな競泳水着の上から白い薄手のパーカーを羽織った細身の女の子が右手に紙皿と割り箸、左手にストローをぶっ刺したペットボトルの素炭酸を握ってジト目をしつつ溜息を吐きだす。


「桃宮ロクにクリソツだっ!!」


 加成谷かなりやがワァっ!! と驚いて一歩後退る。


「知らないわよ、誰よそれ」


 加成谷かなりやにとってはとてもとても衝撃的だったのだが、そう言われた当の本人からしてみれば急に知らない人の名前を出されて似ていると言われても困惑するしかない。


 極めて正常な反応だ。むしろ聞いたことない人だけど、なんか有名人に似ているらしいし、とりあえず喜んでおこうで喜べる人がいたとすればそれはきっととんでもないコミュニケーション強者か、ド阿呆かの二択だ。


「えぇ!? 絶賛売り出し中の清純派AV女優桃宮ロクをご存じでないっ!? 配信サイトでダウンロード数一位を総なめにしたあの桃宮ロクをぉ!?」


「知るわけないでしょ!! というか初対面の相手にいきなりAV女優に似てるは喧嘩売ってるわよね!?」


「そんなっ!? 滅相もないっ!! 俺は純粋に褒め言葉のつもりで……!!」


 加成谷かなりやには深刻に、本当に深刻にデリカシーというモノが欠如していた。


「でも可愛いですよ、桃宮ロクさん。ほら、見てくださいよ」


 しかし神はそんな彼を見放すつもりはないようだった。きっと世界の神はいいのか悪いのかとてもとても慈悲深いのだろう。


 桃宮ロク似の女の子の肩を別の女の子がちょいちょいと叩いて、すっとスマホの画面を差し出す。その子は桃宮ロク似の女の子と同じくらいの背丈で目の下に果てしないクマを作ったベレー帽を被った鮮やかなライトグリーンのオフショルダービキニをといういで立ちだ。


「顔は確かに悪くないけど、可愛いというよりはしゅっとしてて結構キレイ系じゃない? ……、ってちょっと待ってよ。ここ圏外でネット繋がってないわよね?」


「……、えっ、あっ……」


「同志よっ!!」


 青い三角帽子の女の子は皆まで言わなかった。


 皆まで言わなかったけれど、その場にいた全員がすっと察した。


 なんでそんな子の画像をローカル保存しているんだい? と。


「ちっ、ちがっ……!! 違いますよっ!! アタシはそういうんじゃなくって……!! この子は、アイドルなんですっ……!! セクシーアイドル地満ミホなんです!!」


 目の下に深く刻み込まれたクマさえも真っ赤にしながら女の子が弁明する。しかし弁明内容としては些か意味不明だった。


「そうっ!! 桃宮ロクはセクシーアイドル地満ミホの裏名義なのだ!! 元々アイドル活動をしていた地満ミホががっつり正体隠すこともせずにAV女優として大々的にデビューしたものだから、業界は騒然としたモノよ!!」


 意味不明な弁明を加成谷かなりやがフォローするように早口で声を弾ませる。


「そう、そう……!! そうなんですよ……!! アタシ普通にミホちゃんのファンだったんで当時は感情グチャグチャになってどうしていいかもう全然分かんなくなりましたもんっ!!」


「俺は感動した……!! なんと気骨のあるアイドルがいるんだっ!! って、感動した……!!」


 二人は全然違うことを言っているのにもかかわらず何故か腕を組んで頻りに頷き合っていた。


 恐らくはファン同士にしか分からない分かり合える文脈とでもいうべきモノが存在しているのだろう。


 だけれど――、

「意気投合しているところ悪いなと思うんだけどさ、よく考えてみても私はやっぱり初対面の人にAV女優に似てるっていうのは見た目どうこうの話とは関係なく割と普通に最低だと思うんだよね」


 しかし次の瞬間にド正論顔面パンチが叩きつけられ、

「おぐぅ……!!」

「ふぐぅ……!!」

 二人して割と大きめの精神ダメージを喰らわされた。


 それを言葉にした加成谷かなりやだけならともかく、深いクマを作った女の子の方もダメージを受けているのは謎だった。もしかしたら過去に似たようなことをやらかしたことがあるのかもしれない。


「まーまー、良いじゃない。ボチボチお肉も焼けてきたところだし、そろそろ食べようじゃないの」


 赤いスカーフの茶髪美女目黒めぐろ有亜ゆあがカチンカチンとトングを鳴らして周りの意識をひきつける。


 バーベキュー台の上にはこんがりと焼きあがったおいしそうなお肉と野菜と魚介類とがずらりと並んでいる。

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