安心☆安全なフォロワーの増やしかた

 みなさま~!

 ゆるキャラのバベルも大人気のSNS『BABEL』では、個人情報の暴露は許しません!

 超高性能なバベルが、問題のアカウントを特定し、BABELから永久追放!

 場合によっては、法的措置も――?

 だから、絶対安心・安全!

 快適なインターネットは、『BABEL』にあります☆


 みなさま~!

 ぜひ、登録して、自分だけのアカウントを作ってみてくださいね!


 ■


 動画サイトを見ていたら、こんな広告が流れてきた。

 宿題だるいなあ、なんて思っていたところに『まったく新しいSNSです!』なんて、でっかいテロップを出しながら、明るい声の動画が流れてきたから、わたしの目はつい、釘づけになってしまう。

『BABEL』

 たしかに初めて聞くSNSだった。

 わたしは小学六年生だけど、ほとんどのSNSのアカウントを持ってる。

 理由はカンタン。有名になって、お金持ちになりたいから。

 有名になるってことは、人々のインフルエンサーになるってこと。

 つまりわたし自身が商品ってわけ。

 だから会社で働かなくても、色んな企業がうちの商品をPRしてくれって、声をかけてくれる。

 有名になるってことは、わたしが存在しているだけで、お金が入ってくるってことなんだ。

 そんなわけで、将来インフルエンサーになるためにも、今のうちからがんばっておかないといけない。

 SNSでわたしの存在をアピールして、フォロワーを増やすんだ。新しいSNSができたんなら、すぐに登録しなくちゃね。

 わたしはすぐに、スマホで『BABEL』と検索した。

 サイトにアクセスするとすぐに、かわいいキャラクターが現れた。

 グレーのもふもふ毛なみに、黒いヤギみたいなツノが頭からニョキリと生えてる、三頭身のキャラクター。

 バベルって名前らしい。

 こんなに可愛いキャラクターがいるなら、BABELのユーザーはこれからももっと増えるだろうな。

 今あるSNSと並ぶくらい有名になるかも。

 さっそくアカウントの新規登録アイコンをタップ。

 ユーザーネームはどうしよう、なんて、わたしは考えない。

『市瀬イチカ』

 本名で、登録完了。

 将来、SNSで有名なインフルエンサーになるんだから、これくらいの個人情報は、バレたって問題ない。

 さーて。どんな人がいるかな。

 BABELはわたしがすきな、ゆるふわポップなデザインで作られていた。

 シンプルなSNSもいいけど、こっちのほうが、わたし的には気分がアガる。

 さて、いちばん初めの記念ポストをしなくちゃ。

 わたしは、お気に入りのぬいぐるみの写真を撮って、ポストした。

 すると、すぐさまイイネがいくつもつき、あっというまに百以上のイイネがついた。

「はやっ! しかもこんなに反応がくるなんて……」

 これまでのSNSでは、イイネが五個つけばいいほうだったのに。

 気づけば、フォロワーも百人に到達している。

 まだ初めて、五分もたってないのに。

 こんなSNSは、初めてだ。

「すごい。みんな、わたしのポストを見てくれてる。……ここでなら、すぐにインフルエンサーになれるかも!」


 ■


 その日から、わたしはどんどん、BABELにハマっていった。

 よし。まずは、フォロワー一万人をめざそう!

 でも、フォロワーを一万人にするには、どうすればいいんだろう。

 クラスの友達に頼んだところで、数人しか増えないだろうし。

 そうだ。BABELでそれとなくつぶやいてみようかな。

 誰かがチラッと、教えてくれるかもしれないし。

『フォロワー増やしたい! 誰か方法を教えてくれませんか #質問』

 すると、タグをつけたからか、すぐにリプライが返ってきた。

 フォロー外のアカウントだったけど、話だけ聞いてみよう。

『はじめまして。何でも答えますよ』

 アカウントの名前は『ノア』と書いてあった。

『はじめまして。えっと、上記のとおりなんですけど、心当たりあれば、ぜひ教えてほしいです』

『フォロワーを増やす方法ですよね。ぼくも以前、色んなサイトを見て、調べたことがあったんですよ。ぼく、もう一個アカウントもってるんですけど、おかげでそっちのほうが、一万にくらいフォロワーがいます』

『ええ! 本当ですか。ぜひ、そのサイト、教えてほしいです』

『いいですよ。いくつか紹介しますね』

 ノアさんのアカウントを開くと、プロフィールには『趣味用アカウントです』と書かれていた。

 いくつかあるうちの、趣味をポストする用のアカウントなんだろう。

 SNSでは、こうやってポストする内容をわけるため、個人で何個かアカウントを使い分けている人がいるらしい。

 ちょっと、憧れる。

『まずは、この三件を紹介しますね。

 「SNSのフォロワー、これで一気にゲット!」

 「超々手軽にフォロワーを増やすには?」

 「ラクして、すぐに百万フォロワーへ!」

 どうします? よければ、サイトのURL、DMで送りますよ』

『そうですね……』

 でもなあ。どれもこれも、ピンとこないんだよなあ。

 なんだか、怪しいにおいがプンプンしない? 詐欺っぽいというか。

 世の中には対価を払ってまで、フォロワーがほしい人がいるらしい。

でも、お金を払って、フォロワーを増やしたって、そんなの嬉しくないじゃん。だから、わたしはやらない。

あと、単純にこわいし……学校で、インターネットの安全教室を受けていてよかったよ。

わたしが探しているのは、『安全にフォロワーを増やす方法』が書かれてそうなサイトなんだ。

『すみません。他のサイトはありませんか?』

『他ですね。ちょっと待ってください』

 たぶん、ノアさんは、わたしが小学生だなんて、思っていないよね。

 せっかくサイトを紹介してもらって申し訳ないけど、金銭面でのトラブルはありえない。

 でも、フォロワーは欲しい……。

 わがままだけど、何かいい方法が世の中にあるんなら、教えてほしい。

 だって、有名になりたいじゃん!

『あっ。このサイトもけっこう参考になったんですよね。

「BABELでたくさんのフォロワーと友達になりたい!」

 いかがです?』

え! それ……今のわたしにピッタリのサイトじゃん!

『うん。かなりよさそうです! そのページ、送ってください』

『わかりました』

 ノアさんから送られてきたサイトを開くと、わたしがすきな、ゆるふわポップのデザインで構成されており、ますます嬉しくなる。

 ふしぎと、カラーリングや散りばめられた数々のアイコンが、ちょっとBABELに似ていると思った。

 さらに、目に飛びこんできた見出しを見て、わたしはスマホの画面にかじりつく。


――BABELでフォロワーを増やすのは、とっても簡単! それは……バベルハートを使うだけ!


 バベルハートって、ソシャゲのダイヤとかルビーみたいなもの?

 BABELにも、あるんだ。

 でもそれって、お金を払わないといけないってことなんじゃない?


――バベルハートは、お金ではありません!

 定期的にBABELから配布される、ポイントのようなもの。

 それをフォロワーになってほしい人に送るだけ。

 バベルハートを送られた人は、あなたのフォロワーになります。

 もちろん、相互フォロワーになるわけではないので、バベルハートをたくさんの人に送れば、あなたのアカウントは一気にインフルエンサーに!


 なるほど。配布されるバベルハートをうまく使えば、フォロワーをザクザク獲得できるってことか。


――なお、バベルハートは、バベルマークのついたアカウントには送れません。

 ですが、ここで朗報!

 たくさんのフォロワーを獲得できれば、あなたのアカウントにもバベルマークがつくかも?


 バベルマークってなんだろう……?


――バベルマークとは、BABELのインフルエンサーのアカウントについてる、マスコットキャラクター・バベルの顔がアイコンになっているマークのこと!


 へえ、他のSNSにも特別なマークがついているアカウントってあるよね。

 BABELは、バベルのマークなんだ。かわいいかもしれない。

 あれがついてるアカウントって、すごくかっこよく見えるんだよね。

 わたしも……ほしいな。

 でも、いつ配布されるんだろう?


――バベルハートの配布は、アカウントによって、まちまち!


 え~~~~~! そんなあ!


――いつ配られるのかは、シークレット。

 昨日配布されたってアカウントもあれば、しばらく配布されてないってアカウントもあるみたいです!


 なにそれえ~!

 ソシャゲだったら、ユーザー全員に一気に配られるのに。へんなの。

『ノアさん、バベルハートってもらったことあります?』

『もらったことはありますよ。でも、どうやったらもらえるのか、まだよくわからないんですよね』

『そうなんですか……』

 でも、かなりいい情報が手に入った!

『ノアさん、ありがとうございます。めちゃくちゃ参考になりました!』

『それはよかったです。お役に立ててうれしいです』

 ノアさんとの会話を終えると、わたしは自分の心臓がドキドキしていることに気づいた。

 バベルハート。どうやったら手に入るんだろう。

 その日から、バベルハートが配られる日をただただ待つだけの日々がはじまった。


 ■


 友達に聞いてみると、バベルハートなんて一回も配られたことないって子もいた。

 わたしも、毎日毎日バベルにログインしていたけれど、いっこうに配られる気配がない。

 これじゃあ、フォロワーが増えないじゃん。

 ある日、やきもきしながら、隣の席の男子に話しかけてみた。

「ねえ、バベルハートって知ってる?」

「ああ、昨日配られたよ、おれ」

「えっ! うそ! なんでバベルハート、もらえたのっ?」

「さあ? ランダムなんじゃね?」

「ら、ランダム……? 本当に……?」

「いや、わかんないよ。BABELって、はじまったばっかのSNSなんだろ。そりゃ、変わったこともすんじゃね?」

 たしかに、世の中にはすでにたくさんのSNSがある。

 これまでのものとは少し違ったことをしないと、生き残れないのかもなあ。

 でも……待ちきれないよ!

 早くバベルハート、欲しい~~~。


 ■


 最近、BABELのフォロワー数がぜんぜん伸びない。

 今日でやっと、三百人。

 これじゃあ、インフルエンサーには、ほど遠い。

 中学生になるまえに、フォロワー一万人になりたいのに……なんとかしなくちゃ。

 バベルハート、どうすればもらえるの? 

 わたしはBABELのいろんなポストを見て、他のアカウントがいつバベルハートをもらっているのかを調べまくった。

『一週間ぶりに、ハートきたあああ』

『うおお、三日ぶりにもらった』

『やべー、二日連続でもらえた!』

 うーん。まちまちだなあ。やっぱり、ランダムなのかな。

 でも、どうしても貰いたいよ。

 そのとき、わたしのアカウントの『設定とサポート』という項目に、お知らせの赤いマークがついた。

 なんだろう?

 タップしてみると、おかしなことが書かれていた。

『本日で、お客さまは『バベルハート』について、。よって、バベルハートを百個プレゼント!』

 すると、お知らせの通知欄にバベルハートが百個届いていた。

 えっ、うそ! やったあ! バベルハート、ゲット!

 これで、フォロワーが増える! 一気に、百人も! きたああああ!

 わたしはすぐに、気になっていたアカウント百人に、バベルハートを送った。

 一気にフォロワー、百人増し! 信じられない!

「……でも、なんで? このメッセージ、どういう意味なんだろう……?」

 って、なに?

 これじゃあ、どうしてバベルハートをもらえたのかわからないよ。

「どうりで、バベルハートをもらえる理由を検索しても、方法がわからないわけだ」


 ■


 なんと次の日も、その次の日も、わたしはバベルハートをもらうことができた。

 やばい。毎日フォロワーが増えてる。最高!

 さらに、一週間後には、なんと千人になっていた。

 小学生でこれって、すごくない?

 でもあいかわらず、バベルハートをもらうための方法はわからない。

 ずっと調べてるんだけどなあ。

 まあこのちょうしでいけば、数ヶ月後にはまじで一万人になれてるかも。

 ふふ、小学生インフルエンサーかあ。

 もしかしたら、憧れの推しの動画に、ゲストとして呼ばれちゃったりして? やばすぎ!

「おい、市瀬ってば」

 ハッとする。隣の席の男子に呼ばれていた

「先生に指されてるぞ。ボーっとしてんなよな」

「うわっ、まじじゃん。すげえ、にらまれてる……」

 けっきょく、先生に質問されたことには答えられなくて、怒られちゃった。

 でも、いいもーん。なんてったって、わたしはフォロワー千人もいるし。

 そのころには、もう他のSNSには目もくれず、BABELにばかりログインしていた。


 ■


 なんだか最近、調子が悪い。頭がボーっとして、勉強に集中できない。

 昨日なんて、ついに算数のテストで十点をとっちゃって、職員室に呼び出された。

 先生が、目の前でわたしのことを怒ってる。

 でも、怒られてることにも集中できてないから、怖くもなんともないんだけど。

「来年は中学生なんだぞ。こんな点数でどうするんだ。どうせ、家でスマホばっかり見てるんだろう」

「はあ、まあ、そうですね……」

「まったく。SNSか? 動画サイトか?」

「SNSです」

「まったく……そんなことでどうするんだ」

「わたし、どうしてもインフルエンサーになりたくて……」

「インフルエンサー? ああ、うちの学校にも誕生したらしいな。同じクラスのやつらが、インフルエンサーだって、からかってたぞ」

「は……? 誰ですか?」

「一年一組の零仙くん。絶滅危惧種だった虫を自宅の裏山で発見したんだと。今朝の新聞にそのニュースが載ったらしい。見てないのか?」

「いえ……」

「BABELってSNSに、ご両親といっしょにアカウントを作ってたらしいんだがな、午前中でバズって、一瞬でフォロワーが一万人になったらしい。本名で登録してたから、一発でバレたらしいな。……って、そんなことはどうでもいい。お前ももっとしっかり……」

「なに、それ」

「……おい、市瀬。顔色が真っ青だぞ。急にどうしたんだ」

「いえ、大丈夫です……。今日から勉強、がんばります。それじゃあ……」

 先生が呼び止めているけれど、もうそんなことはどうでもよくなっていた。

 そうだ。早く、早くインフルエンサーにならなくちゃ。

 他の子に、フォロワーを追いぬかされちゃう前に。

 バベルハートがほしい。百個でも、二百個でも、いくらでも。

 BABELを開くと、『設定とサポート』という項目に、お知らせの赤いマークがついていた。

『本日で、お客さまは『バベルハート』について。よって、特別記念です! バベルハートを一万個、プレゼント!』

「……へ? いちまん?」

 お知らせの通知欄にバベルハートが一万個、届いていた。

 何これ……なんで、わたしに一万個もバベルハートが届くの?

 理由がわからない。

 いったい、なんで……?

 びっくりしたからなのかな……何だか、急激に頭がやけに重くなってきた……。

 そのとき、BABELのアカウントにDMが届いた。

 ノアさんからだ。

『バベルハートのことについて、何かわかりましたか? いつ配布されるのか、ぼくも調べてはいるんですが、なかなか情報がないようで、手こずっていまして』

『ノアさん。今、わたしにバベルハートが一万個も届いたんですが……?』

『ああ、そうでしたか』

『バベルハートについて一万回、心をけずられたから、って理由で届いたらしいんですか、どういう意味かわかりませんか』

 しかし、ノアさんからのDMが返って来ない。

 動悸が激しい。息が、苦しくなっていく。

 目まいがひどい。意識が遠のいていく。

 なんで、どうして……?

 かすんだ視界のなか、ようやくノアさんからのDMが返ってきたのが見えた。

 ふらつく手で、DMを開く。

『市瀬イチカさん。一万フォロワ―超え、おめでとうございました』

 わたしのフォロワーが、ついに一万人を超した瞬間、わたしの目の前は、真っ暗になった。


 ■


「っく……間にあわなかったようですね」

 BABELのシステムが、何者かに操作されていることに気づいたのは、つい最近のことだった。

 かなり巧妙にシステムの裏に隠されていた、仕組み。

『バベルハート』

 最初は、数人のアカウントがポストしていただけだったので、BABELのユーザーが面白半分で作った都市伝説的なものなのかと、見逃してしまっていた。

 バベルハートのシステムは、わたしでも気づかないほどに、巧妙に隠されており、発見が遅れてしまっていた。

 BABELユーザーに送られる、バベルハート。

 その仕組みは、『ユーザーが、バベルハートのことを考えたぶんだけ、ハートが削られる』というもの。

 ハートが削られる、つまり、『バベルハートのことを考えれば考えるだけ、命を削られる』仕組みだった。

 市瀬イチカさんは、一万回もバベルハートのことを考えてしまった。

 一万という数字が、イチカさんの寿命だったのだ。

「バベル。市瀬イチカがどうやってバベルハートの情報にたどりついたのか、わかりましたか?」

 バベルから、「ああ」と返ってきた。

「このサイト……『BABELでたくさんのフォロワーと友達になりたい!』ってページを見て、知ったようだな……」

「なんですか、このサイト……? おかしくないですか?」

 ホームページには、インターネットにおける住所、URLというものが存在する。

 しかし、このホームページには表示されていない。

 インターネットに、こんなページは存在していないのだ。

「このサイトを作った管理人は……?」

『管理人・NOAH』

 NOAH……ノア?

「エポ。ここ……見てみ」

 バベルが、指さしたのは、サイトのインフォメーションだった。


――すべての魂をはじめから、やり直す。


「なんだ。このメッセージ」

「NOAHが書いたんでしょうか……。それにしても、気色のわるいことです」

「エポ。バベルハートは、どうした?」

「もちろん、そんなシステムは、とっくに除去ずみです……。しかし、大切なユーザーさんのひとりを失ってしまいました。わたしがもっと早く気づいていれば」

 これ以上、わたしたちのBABELを荒らさせるわけにはいきません。

「NOAH……このインターネットから、一刻も早く、いなくなってもらわなくては」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る